3 わたくしとしたことが、不覚っ!でございますわ
「見え透いた嘘をつくな!
キサマが言うように頑健だと言うのなら
なぜミズキにしがみつく?
頼るようにまとわりついた挙句に
締め殺そうとしているだろうが!」
殿下はもう白花さま第一で、
周囲を見ることができなくなっていらっしゃいますわ。
本当にこの『聖女さま』
見事なご手腕ですわね?
外交の道に進んでくだされば敵なしでしょうに。
ああ、男性外交官以外には返って悪手ですかしら。
「まあ、殺そうと、だなんて恐ろしいこと。
殿下にはそのように見えていらっしゃいましたのね?
わたくし悲しゅうございますわ」
白くしなやかな、我が領特産の絹に
地模様の如く真白の糸で刺繍を施したハンケチ。
殿下はお受け取りくださらなくなってしまいましたけれど
わたくし刺繍には少々自信がございますわ。
繊細なレースの縁かがりも施した渾身のハンケチを持って
優雅な手つきを意識して、よよ、と目元を押さえてみせましたの。
ええ、これ見よがしに。
ギャラリーの皆さまのお気に召しますかしら?
「締め付けていたつもりはございませんでしたけれど
牽制していたのは確かでございます。
先も申し上げましたとおり、この方、他の男性との距離の取り方が
少々奔放でいらっしゃいましたの。
お約束を次々に反故にされ、お悲しみになる婚約者のご令嬢たちが
わたくしお可哀想でなりませんでしたわ」
「キサマはそうやって悪意でもって
この可憐なミズキを貶めるのだな!?
ミズキは俺が多くのものたちの意見を聞けるよう
偉大な王になれるように
下々の者たちにも声を掛けてくれているんだ!」
……っ、これは、よろしくありませんわね。
不注意にも程がございますわ。
「キアゲハ殿下、お言葉ではございますが、
第一、第二王子殿下それぞれが、いまだ皇太子宣下を行ってはおりません。
王陛下のご意志を受けぬままのご発言、
御意向を無視しての立太子宣言とも見做されますわ。
すぐに撤回なされてくださいませ。
そして『下々もの』 ですか、
殿下はそうおっしゃいますのね?
この方がお声がけなさるのは
高位貴族の見目麗しい男性だけですのに。
しかも皆さま婚約されたご令嬢の目の前でしてよ?
これをお許しになれまして?」
つい、わたくしの声も強くなってしまいましたわ。
「やかましい!
キサマの悪意に
父上のご裁可を待つ必要などない!
近衛!コイツを切れ!」
え?
その瞬間、白花さまが
ピンク色の魔力が広がりました。
その魔力に触れた近衛が抜刀したところまでは記憶にございます。
武門で知られたオーシャンブルーの娘がなんと言う不覚!
⭐︎
気がつけば、見慣れた王都のタウンハウス、
わたくしの自室のベッドに寝かされておりましたの。
あの後、学園のホールがどうなったのかは存じませんが、
異変に気づいた従者がホールへ駆け込んで、
斬られたわたくしを殿下や近衛達から引き離し、
馬車で屋敷まで運んだのだそうですわ。
わたくしの不覚とはいえ、危ないことをさせてしまいましたわね。
それにしても、問題は彼女のピンクの魔力ですわ。
殿下も近衛達も、あの魔力に酔っているように見えましたもの。
周囲の方々もあれほどの騒動を見て何も言わないなどおかしゅうございます。
もしもあそこにいらした全員に影響を与えるほど、
他人を酔わせて操ることが出来るのでしたら、大変なことになりますわ。
せめて会場に魔力視を持つ方がいらっしゃればお分かりになったはずですのに。
このままではいられませんわね。
わたくしはオーシャンブルー侯爵家の娘。
たとえ斬られても、そのまま逝くなんて矜持が許しませんの。
あのとき意識が霞む寸前に、残された体力と血潮と膨大な魔力をもって、
白花さまの頭上に不可視の魔力の花を一輪、咲かせてみせたのですわ。
魔力視を使えないあの方々には見えないことでしょう。
あの方がピンク色を振りまこうとしても、
わたくしの蒼い花が残されている限り、全力で遮ってみせましょうとも。
それにあの方もそろそろ配下を切り捨てる頃合いのはず。
お食事を運ぶ者たちさえも切り捨てたとなれば、
今後は王宮に居座って、王宮の使用人にお世話をさせるおつもりなのでしょう。
ですが配下を手放した今ならば、
あの方がお使いになれるのは、ご自身の身に残る魔力だけですわ。
わたくしの力とあの方の力、
どちらが長く残るかの
魔力量ではわたくしも負けておりませんことよ?
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