2, サリの決断

パチッと目を開けると、サリは豪華な部屋にいた。


天蓋付きのベッド。横には豊富なベッドが詰まった衣服部屋。


そして、本棚や、勉強机などが置かれている、勉強部屋が見える。


他にも化粧部屋や、思い出の写真を張るためだけの部屋などがあるが、問題はただ一つ。


この、部屋たち全部をひっくるめて私の部屋なのだ、ということ。


正確にはこの体の前の持ち主である、公爵令嬢のサリンデュ・アルトエンヌのものなのだけど。


そう考えて、サリは静かに記憶を手繰り寄せた。






サリの主であるらいかが転生させられてしまった後、もちろんサリは女神へものすごく抗議した。


「らいかを戻してください。どうしてらいかをあんな世界に…。」


「あんな世界という言い方はないんじゃない?」


女神がニヤッと笑った。


これは、悪いことを考えているときの顔だ。

サリは悪い予感がした。


「まあでも、あなたがらいかちゃんを気に入っていることは知っていたからね…。


 らいかちゃんを追って転生させてあげてもいいわよ。」


その瞬間、サリは理解した。


どうしてかはわからないが女神はサリを、魔法世界に転生させたいらしい。


そして、そのためにらいかを巻き込んだ。そうすれば私が転生せざるを得ないから。


いつもの様子からは連想しづらいが女神は相当の切れ者である。


今回も深い考えがあってのことだったのだろう。だが。らいかを巻き込んだことだけは許せない。


そういいつつ、サリはやはり女神の手で踊らされていた。らいかがかかわっている時点でサリの覚悟は決まっていた。


らいかを支えるためにも、私は転生する。

ものすごく、癪だけれど。


女神が覚悟は決まったみたいね、とふふふと笑う。

その笑いに、正直、腹が立ってならないが、顔には出さない。


「正確にはね、あなたを転生させるわけではないの。精霊の魂を人間の体に入れる感じ。人間の体が百年たってしわくちゃになったら、自動的に精霊の体に、魂が戻ってくる仕組みになっているわ。


だけどね、ただで転生させるわけにもいかないから、条件があるの。


一つ目。王子と、私が愛す女の子を両想いの上結婚させること!


二つ目。その世界の誰かとサリ、あんたが結婚しないと、せっかくらいかちゃんと再会できても、その世界にとどまれないよ~。ちなみに両想いじゃないとだめだからねー!


ちなみに、転生してもらう人間の体は、未来、王子と私が愛す女の子の中を邪魔して、死罪になっちゃう体だよ。


恋愛小説で言う、悪役令嬢だね!


あと、サリ。あんたの周りには将来嫌な未来しか見えない魂を、集めているから何とかしてね。


後、らいかの正体は内緒。前世の記憶は持たせているし、自分で探してみてね、フフフ。でも、あんたの近くにいるはずだよ。」


フフフじゃなーい。狙いはそれですか。将来不安な魂を集めて何とかしろ、という。

しかも、ものすごく女神らしからぬ言動。


私に何か押し付けようとするぐらいなら、自分も何かしようと思ってください。


とは思うが、らいかのためなのだから…、それぐらいやってやる。

しかし。時間が必要だ。




「少し…、考えさせてください。」


そう、女神に行って一年。


知人へのあいさつをすまし、精霊管理の仕事にけりをつけ、私は今日、転生してきたのだった。


もし、百年たって帰ってきたら、真っ先に女神を殴ろうか、と考えながら。





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