五人目

「しねえええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 戦闘訓練の開始のブザーをかき消した。度会ワタライ礼亜レイアの怒声がぼくの鼓膜を突き破らんとする。


「もうっ!」


 度会の振り下ろす鉈を、狐塚さんが魔法の盾で防いでくれた。さすが狐塚さん。生成速度は上級者レベルだ。


「た、たすか」


「ぼーっと突っ立っているからよ!」


「はい……すいません……」


 助けてくれた人に叱られる。ぼくだってぼーっとはしていなかった。度会の瞬発力がぼくの判断力を上回っただけだ。


「なんで邪魔すんだ、キツネぇ!」


 こう見えて、普段はおとなしい子なのだ。いるのかいないのかわからない、と言うと本人に失礼だが、教室の端っこで静かに読書している子。ぼくが話しかけても、本の世界に没頭しているような子だ。他の女子が話しかけている姿も、話しかけに行く姿も、見た記憶がない。


「狐塚よ、狐塚!」


 なのに、戦闘訓練となると豹変ひょうへんする。前回は後ろから斬りかかられた。仁平さんがすぐに傷を治してくれたけど、治しても治しても、度会は僕を付け狙う。おかげで他のチームより大幅に遅れをとって、チームエイトは一体も倒せなかった。


「覚悟!」


 梅崎さんが度会のを目がけて氷魔法を放つ。ぼくが度会に追いかけ回されてしまったのが前回の敗因だ。足を凍らせて、移動できなくする。相手が動けなくなれば、どうということはない。


「んなっ! ……くっそ! 動けねえ!」


「ねーねー。なーんでタツナくんを襲っちゃうのー?」


 度会から鉈を取り上げ、仁平にひらさんが質問している。――そういや、樋口ひぐちさんどこ行った?


「男だからだ!」


「それだけー?」


「その……うちは、本当は双子で……双子の、兄がいたハズなんだ……」


「うんうん」


 この先は聞かなくてもわかる。ぼくは、正陽暦一九六六年という年に生まれて、理不尽に命を奪われたそのすべてを背負っていかねばならない、のかもしれない。


 あとの二人も背負っていただけないだろうか。あの、上流層の二人。……中流層の苦労なんて知らないか。


「行くわよ」


「行きましょうか」


 ぼくはこれからも「なんでお前が」と言われるんだろう。

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