💯「聖痕」なぜ古代文字が私の体に浮き上がるの?なんなのかAIで突き止めるわ! 🌸カクヨムコンテスト11(ホラー)応募中
🌸モンテ✿クリスト🌸
聖痕(Stigmata)
第1話 入れ墨?アザ?皮膚病?
都内のIT企業に勤務する神宮寺貴美子は、朝、ベッドから起き上がり、シャワーを浴びていて、右腕の前腕部の内側に奇妙なアザが浮き出ているのに気付いた。ポリエステルの垢擦りで擦っても消えなかった。それはアルファベットのような彼女が見たこともない文字が前腕部に平行に10センチほどの長さで四列に浮き上がっていた。文字はテレビで見るアラビア文字のようでもあった。触ってみても皮膚に入れ墨をしたようで、スベスベしていた。
バスルームから出て、彼女は部屋を点検した。ドアはしっかりとロックされてチェーンがかかっている。ベランダへの窓も大丈夫だった。大きくもない部屋のクローゼットとかトイレも調べたが誰もいない。彼女一人だった。
(まさか昨夜誰かに睡眠薬を飲まされて眠っている内に入れ墨を入れられたってわけじゃなかったな)
彼女はいろいろ考えたがこんな皮膚の異常が現れる原因に思い至らなかった。アレルギーがあるわけじゃない。でも、アレルギーは急に体質が変わって現れることもあると聞いたことがあった。昨日食べたものを思い出したが、別段、普段食べているものと同じものだ。おかしな食材を摂取したわけでもない。
(落ち着こう。まず、写真を撮っておこう)
タオル姿でダイニングの椅子に腰掛け、スマホで十数枚、いろいろな角度から写真を撮った。スマホの画面を拡大してみる。どう見ても無秩序な入れ墨?アザ?ではない。これは文字だ。しかし、なぜ私の腕に文字が浮き出るの?なぜ?
貴美子はスマホで会社の近くの皮膚科を検索した。会社のある同じビルの三階に『皮膚科・アレルギー科 諸星クリニック』があった。ネットでの予約ができたので、9時半に予約を入れた。
社のグループチャットで上司の末澤均に病院に行ってから出社します、とメールを打った。同じAI開発プロジェクトを担当している同僚に遅れて出社する旨メールを回覧した。末澤から『具合が悪いなら休めばいいよ、有給も溜まってるだろう?』とレスが来る。同僚の高杉恵子からも『休めよぉ~!休め!無理すんな!』とレスが来た。
手早く朝食を済ませた。『女子プロの岩谷麻優みたいに入れ墨のある左腕だけプロテクターをするわけにもいかないわ』と思い、初夏だったが、ブルーの長袖のボタンダウンシャツを着た。
午前中の出社時間だったので、クリニックの待合室は閑散としていて、貴美子が名前を言うと看護師がすぐ診察室に案内してくれた。担当は貴美子よりも小柄な中年の医師だった。
「待っている患者さんがいなかったので、問診票を書いてもらってなかったですね」と問診票を渡された。「氏名、年齢、性別、出生地、身長、体重、職業だけでいいですよ」と言われたので、それだけ書き込む。神宮寺貴美子、27才、女性……出生地?東京都世田谷区、身長168cm、体重53kg、職業、ITエンジニア……
「ありがとうございます」と諸星医師が問診票を受け取って「本日は、どうされましたか?」と彼女に尋ねた。
「今朝、シャワーを浴びていて、これが」と前腕部に平行に10センチほどの長さで四列に浮き上がっているアザを見せた。「浮き出ていました。昨日の夜、11時半に就寝しましたが、それまではこのようなアザ?でしょうか、アザはありませんでした」貴美子はバッグからスマホと同期しているタブレットを取り出して、今朝撮影した右上腕部の写真をモニターに出した。シャツの右手をまくって、上腕部内側を医師に見せる。
諸星医師は問診票を見ながら「神宮寺さん、27歳、ITエンジニアですね。本日は右前腕部のアザが気になって来院されたということですが、詳しくお聞かせいただけますか? 今朝、シャワー中に気づいたとのことですが、昨日まで全く異常はなかったですか?」と貴美子に尋ねた。
「はい、昨夜寝る前までは何もなかったです。いつも通り11時半頃に寝て、今朝7時に起きてシャワーを浴びていたら、急に右腕にこのアザが……。最初は汚れかと思って垢擦りで擦ってみたんですけど、落ちなくて。触っても痛みはないし、入れ墨みたいにスベスベしてるんですけど、こんなの初めてで」
「なるほど、突然現れたんですね。写真も撮ってきてくれてありがとう」と諸星は彼女のタブレットで写真を確認し、貴美子の右前腕部を観察した。「確かに、文字のような模様が並んでいますね。長さは10センチほどで四列………」
「アラビア文字のようにも見えますけど……テレビで見たアラビア語っぽいなと思ったんですけど偶然ですよね。私、アラビア語なんて知らないし、意味は全然わからないです。ただ、無秩序な模様じゃなくて、ちゃんと文字っぽい形してるんですよね。それが気持ち悪くて……」
「ふむ、わかりました。では、ちょっと詳しくお聞きしますね。このアザが出る前に、腕に何かぶつけたとか、圧迫したとか、ケガをした記憶はありますか? 例えば、寝ている間に強く押したとか、何かで擦れたとか」
「ないです。昨日は普通に会社で仕事して、夜は家でご飯を食べ、ドラマを見て寝ただけなので。腕をぶつけたりとか、全然覚えがないです。まさか、睡眠薬でも飲まされてなんて思いまして、部屋を確認したんですけど、誰も入った形跡もないし、ドアも窓もちゃんと閉まってました」
諸星は軽く微笑んで「部屋の点検もされたんですね、用心深いですね。では、最近の生活で何か変わったことはありましたか? 例えば、新しい食べ物、化粧品、洗剤、薬、サプリメントとか。あるいは、仕事でストレスが多かったとか、睡眠が不規則だったとか」と彼女に聞いた。
「うーん、食べ物はいつもと同じで、昨日もコンビニのお弁当とサラダくらい。化粧品も洗剤もここ数年同じものを使ってます。薬も飲んでないです。ストレスは……まあ、ITの仕事なんで、納期とか忙しい時期はありますけど、最近はまあ普通かな。いつも通りって感じです」
「なるほど、普段と大きく変わったことはなさそうですね。では、アレルギーの既往はありますか? 花粉症とか、金属アレルギー、食物アレルギーとか。あるいは、ご家族に似たような皮膚のトラブルがあった方がいるとか」
「アレルギーは特にないです。花粉症もないし、金属も大丈夫。家族も、母も父も兄も、こんなアザとか皮膚の病気は聞いたことないです。急に体質が変わることってあるって聞いたことあるけど……それかなって思ったり」
「はい、確かに体質が急に変わることはまれにあります。接触性皮膚炎やアレルギー反応の可能性も考えておきましょう。(アザを再度観察)触っても痛みやかゆみはなく、表面は平滑ですね。熱感や腫れもないようですが、腕全体の感覚はどうですか? しびれとか、違和感は?」
「感覚は普通です。しびれとかもないし、動かすのも問題ない。ただ、このアザが目立つから、なんか落ち着かなくて……」
「それは気になりますよね。見た目が独特ですし、急に現れると不安になります」と彼はメモを取りながら「もう少し全身の状態を伺いますね。発熱、だるさ、関節痛、頭痛とか、最近体調の変化はありましたか? あと、月経周期やホルモンバランスの変化も、皮膚に影響することがあるので、最近何か気づいたことがあれば教えてください」と聞いた。
「体調は特に変わらないです。熱もないし、元気です。月経も普通で、先週終わったばかりだから、いつも通りかな。ホルモンとかは……特に気にしたことないですけど、問題ないと思います」
「了解しました。では、ストレスや精神的な負担についてもう少し。ITのお仕事だと、長時間パソコンに向かったり、プレッシャーがある場面も多いですよね。最近、仕事やプライベートで何か大きな出来事、例えば人間関係やプロジェクトのトラブル、感情が強く揺さぶられるようなことはありましたか?」
貴美子は少し考えて、「うーん、仕事は忙しいけれど、いつもそんな感じなので慣れてます。人間関係も、会社の人たちとは普通にやってますし、プライベートも……特に大きなことはないかな。強いて言えば、プロジェクトの納期が近づいてて、ちょっと焦ってるくらい? でも、それがこのアザと関係あるんですか?」
「直接かどうかはまだわかりませんが、ストレスは皮膚に影響することがあります。例えば、ストレスで蕁麻疹が出たり、湿疹が悪化したり。文字のような模様は珍しいですが、ストレスや疲労が関与するケースもあるので、可能性として考えておきます。とりあえず、見た目からアレルギーや物理的な刺激によるものか、心因性のものかを調べるために、いくつか検査をしましょう」
「検査? どんなことをするんですか?」
「まず、皮膚の状態を詳しく見るために、ダーマスコープで拡大して観察します。必要と判断したなら、血液検査でアレルギーや炎症のマーカーをチェック。あと、このアザが他の病気と関係ないか、全身の状態を確認するために、簡単な問診や視診を続けます。もし心理的な要因が疑われる場合、当院のアレルギー科や、必要なら精神科の先生とも連携できますよ。今日はまず、皮膚の検査から始めましょう。どうですか?」
「はい、お願いします。とにかく、なんでこんなのが出たのか知りたいです。……これ、消えますよね?」
「原因を突き止めて、適切な治療をすれば、多くは改善しますよ。まずは検査でデータを集めて、原因を絞り込みましょう。神宮寺さん、不安だと思いますが、一緒に解決していきましょうね。何か他に気になることがあれば、遠慮なく教えてください」と諸星が微笑みながら彼女の気を休めるように優しく言った。
「ありがとうございます。とりあえず、これが何か知りたいです。よろしくお願いします」
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