初手で漂流する男 in 終末惑星
煌めく星々がガラス張りの天井を埋め尽くす。
驚くべき点はこの無数にも等しい惑星
「……そりゃマップが広いって驚愕するわな」
何故それが分かったかと聞かれれば、宇宙船を弄っていた時に自動で惑星に向かう機能を発見したからだ。
星系マップが表示され、そこにある惑星を押せば『この惑星に移動しますか?』の文字が浮かび上がる。
これはどの惑星でも同じで、星系内なら全ての惑星に連れて行ってくれるのだろう。
『あーマイクテス、マイクテス……御機嫌ようハクさん! 初めての航海は如何デスカ?』
突如として船内にスリーサイズの音声が響き渡る。
宇宙船を買うまでのチュートリアル担当だと思っていたが、まさかここまで着いてくるとは思わなかった。
「あぁ、お前の声さえ無ければ完璧だよ」
『ノンノン、むしろ私の純美な声があるからこそスパイスが効いて良いんじゃないデスカ!』
例えば綺麗な水の入ったコップでも一滴の汚水が入れば、それは汚水の入ったコップになるだろ?
お前の声は甘いパフェに辛い一味を振りかけるのと同義。
「チェンジで」
『フフフ……良いんデスカ? この私にかかれば操作権を奪って過酷な惑星に飛ばす事も造作の無いのデスヨ?』
「おうやってみろよ! お前に出来ればの――――――ちょっと待て、本気でやろうとしてないか?!」
突然宇宙船が停止する。
かと思えば方向転換して勝手に動き出した。
『フフフ……ハハハハハ!』
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
[スキル〈挑発者〉を獲得しました]
目が覚めれば、そこは星々が闊歩する宇宙では無かった。
壊れたハッチをこじ開けて周囲を見渡せば、錆び付いた街並みが広がっており、焦げた金属とオゾンの匂いが鼻を刺す。
非常に寂れていて不気味に機械の嫌な摩擦音が一定周期で響き渡っている。
「うげ、色々ぶっ壊れてる」
故障した宇宙船バルドの機体メニューを調べてみれば、損傷率は40%とほぼ半壊している。
元々オンボロだったせいか、飛び立つ時の浮遊装置やブースターなどに損傷が入っている。
通信機器も何度発信しても一向に繋がらない。
これでは宇宙に帰るどころか、惑星の外気を遮断するのもやっとだ。
「自業自得とは言え、本当に過酷な惑星に落とすとは……」
次に会ったら容赦しないからな、あのポンコツロボットめ……とりあえず今は現状把握からだ。
俺はスリーサイズに無も知らない過酷な惑星に落とされた訳だが、その衝撃で宇宙船は半壊。
ステラアークに戻るには宇宙船を直さなければならないが……その目処は立っていない。
うん、割と絶望的な状況だな。
「そういや、スキルを獲得したってログ出てたな」
確認してみれば、確かにログにスキル〈挑発者〉を獲得したと書いてある。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
〈挑発者〉
分類 基礎スキル
概要 相手を怒らせると自身の与ダメージが+20%上昇する。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
どうやらスリーサイズとの言い合いのお陰で有用なスキルを獲得する事が出来たようだ。
使い所には迷うが、条件付きの与ダメージバフは大きいと言える。
「相手を怒らせるのが条件か……冷静な相手には使えないだろうし、発動したらラッキー程度だな」
[スキル〈挑発者〉が発動しました]
「今、そのラッキーが発動しなくても良かったんだけどな……あ〜こりゃ逃がしてくれないな」
後ろを振り返れば、複数体のオオカミが威嚇をしつつ獲物を見定めるように睨んでいる。
しかしその身体は普通の肉体では無く、ロボットのような機械で出来ていた。
[
鉄の軋む音が響く。
目の前のラストハウンド達は、赤いセンサーアイをこちらへ向け、一斉に咆哮を上げた。
甲高い電子音のような遠吠えが、錆びた街の空気を震わせる。
「いいぜ、お前達で戦闘チュートリアルと行こうじゃねぇか」
そう呟く間もなく、視界の右下に新しいUIが浮かぶ。
戦闘モード起動――――武器スロット、スキルスロット、体力ゲージ。
さっきまで探索モードだった視界が、戦闘用のインターフェースに切り替わった。
「なるほどな、こういう仕様か……なら、やってやるよ」
いつの間にか武器スロットに入っていた初期装備のブレードガンを出現させる。
見た所、銃とナイフを混ぜたような銃剣なのだろう。
試しに一体のラストハウンドに向けて引き金を引くと、短いエネルギー弾が一発、続けて二発、青白い軌跡を描いて機械の身体に銃痕を残し戦闘不能にした。
「軽いな。反動も少ねぇ」
だが、敵もやられるばかりではない。
二体目のラストハウンドが跳躍――――――鉄爪が風を裂く音が聞こえるほどの速さだ。
「っとと、速ぇな!」
ギリギリで身を翻し、回避。
地面を滑るように移動すると、鉄粉が舞い上がる。
――――――その瞬間、更に左側から三体目が飛びかかってきた。
「……じゃあ、ありがたく使わせてもらうか!」
ブレードガンを横薙ぎに振り抜く。
赤いスパークが走り、ラストハウンドの頭部が弾け飛ぶ。
機械の断片が火花を散らして転がった。
「どうだ、まだ来るか?」
油断は禁物だ。
残り二体――――――だが、そのうちの一体が、頭部のコアを青白く輝かせ始めた。
ブォォォンと音を立て、背中の推進装置らしきパーツが点火する。
「させるか!」
その瞬間、体が自然と動く。
地面に転がっていた鉄パイプを掴み、目前のハウンドへ叩きつける。
衝撃でバランスを崩した機械獣の胴体を、もう一度ブレードで突き上げた。
金属が弾け、光の粒子となって消えていく。
最後のラストハウンドは形勢不利と判断したのか、背を向けて撤退していった。
自動的に探索モードへと変更され、戦闘終了のログが視界に浮かんだ。
[ラストハウンド×3を撃破しました]
[素材アイテム:錆びたコア×3、獣型装甲板×6]
「……よし、なんとか勝てたか」
息を吐く。
VRであっても、筋肉の緊張や息の荒さはリアルに反映される。
そのリアリティが、今さらながらにゾクゾクするほど心地良い。
「まずは第一歩、と言った所だな」
そう呟きながら、ふと空を見上げる。
鈍色の雲の向こうに、かすかに星が滲んで見えた。
その光は遠く、冷たい。
けれど確かに“帰る場所”を示していた。
「待ってろよ《ステラアーク》。あのポンコツロボットにも、文句の一つや二つは言ってやらねぇと」
俺はバルドの残骸に手を置き、機体メニューを開いた。
その瞬間、無数のウィンドウが視界を埋め尽くす。
それぞれが船体のパーツごとに点滅しており、損傷率と修復に必要な素材が細かく表示されていた。
[必要素材:エネルギーコア×2、電線×5、装甲板×3]
「……流石に錆びたコアじゃ代用にならねぇか」
その辺の敵を倒した程度の素材で宇宙船を動かせるはずがないのは当然だろうな。
だとすると、探索して見つけないと話にならない。
再び船体の外に出る。
夜の帳が降りたこの惑星では、赤茶けた鉄骨の廃墟が影を落とし、どこからともなく機械の唸りが響いてくる。
まるで“生きる廃墟”だ。
「ホラーマップと言われても信じるレベルで不気味だな」
見上げれば、雲の切れ間に一つだけ青白い月が浮かんでいた。
その光が、荒廃した街並みに冷たい輪郭を与えている。
――――その時だった。
ガンッ、と鉄板を蹴るような音。
反射的に振り向くと、瓦礫の陰から何かが動いた。
「……おいおい、またハウンドか?」
だが、違う。
姿を現したのは、ヒトの形をした機械だった。
全身が灰色の外装に覆われ、片目だけが赤く光っている。
そのボディの胸部には、古びた文字で“
「……ロボットか?」
「――――そこの者、停止しろ」
壊れた機械のように冷たい声であり、動作は正確無比。
まさに、警備ロボットそのものだ。
「この区域は危険だ。旧管理AIの残骸が稼働している。そう易々と踏み込んで良い場所ではない」
「そうは言ってもな、俺は修理素材を探してるだけだぞ? ここがどんな所かすら分からんのに止まれと言われてもな」
「……ならば」
瞬間、ケロスの腕が変形する。
銃口のような砲身が展開され、紫色の照準光が俺の胸を捉えた。
「待て待て待て! 別に敵対したい訳じゃねぇよ! ここの事が知りたいだけなんだ」
「………………」
ケロスの光が一瞬だけ弱まる。
そして、何かを考えるかのように沈黙する。
「お前は一体何だ?」
「……私はこの《惑星フェロス》の守護端末の一体。だが今は、主を失った亡霊に過ぎない。名も知らぬ来訪者よ、修理素材を探していると言ったな?」
「その通りだ。宇宙船が壊れていてな、少なくとも治るまでは離れらんねぇ」
何処かで無事な修理素材を探さないと、宇宙船を動かす事さえままならない。
だがこんな荒廃した惑星じゃ、宇宙船を動かしうる質の高い素材なんて落ちてるのかすら不安だ。
「ならば、《セクター07》に向かうといい。そこでは比較的上質な素材が手に入るだろう」
「セクター07――――そいつはどこに?」
「あそこだ」
遠くで雷が鳴る。
その稲妻の中に、一瞬だけ“塔のような構造物”が浮かび上がっており、ケロスはその視線へと向いていた。
恐らくあれが――――――《セクター07》。
[新たなクエストを受注しました]
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
修復クエスト『宇宙船の修復』
報酬:不明
タスク
1.《セクター07》に行く
2.電線×5、装甲板×3の回収
3.エネルギーコア×2の回収
4.機体メニューに素材を入れる
概要
宇宙船を修理するにはそれ相応の修理素材が必要だ。
だが気を付けるといい、危険な暴走ロボットが蔓延っている。
探している間、私は貴様を守護しよう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ケロス、お前も手伝ってくれるのか?」
「私の使命は「この星に居る
「なら俺はその使命に感謝しないとな」
[
初めてのパーティーメンバーがNPCのロボットとは思わなかったが、とても心強いな。
少なくともあのポンコツロボットとは大違いだ。
「宜しく、ケロス」
俺がそう言ったその時――――――背後から聞き慣れた声が聞こえた。
『ハクさん? 聞こえマスカ? 貴方の大好きなスリーサイズですヨ!』
「っ?! 通信が回復したのか?!」
噂をすれば、いつの間にかスリーサイズが通信を回復させていたらしい。
その音声に多少の安心感が――――――全然無いな。
『やっと信号を拾えまシタ。(液体を啜る音)適当な惑星に落としたんデスガ、大丈夫そうデスカ?』
「おう大丈夫に聞こえるのなら即刻お前の耳を修理した方が良いぞ。つーか何優雅に茶啜ってんだ、こら」
こっちは大変な目に合ったってのに、吞気にティータイムってか?
その啜る音、こっちにもちゃんと聞こえてるからな!
お前が目の前に居たら一発殴ってやりたい気分だ。
『お茶では無く高級オイル缶デス。まぁ人間で言うお茶なのであながち間違いでは無いデスガネ』
どっちでもいいわ!
『ともかく、
不慮の事故だぁ?
どの口が言ってるんだ、このポンコツロボットめ。
アドバイスも……なんか無茶させられる気配しかないな。
「…………あ~
『えぇ! 待ってマスネ!』
通信が途切れる。
仕方なくため息をつき、目の前に広がる廃墟を見据える。
「通信は終わったか?」
「今終わった。じゃ、行くか」
その足取りの先には、廃棄された文明の残滓と、この惑星に秘められた“過去”が待っているのだった。
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