第24話 日常の温もり

 翌週。


 亮は学校の帰り道、ふと空を見上げた。


 夏の終わりを告げるような、そんな夕焼けが何処までも果てしなく広がっていて、胸の奥に柔らかな温かさが夕日と共に差し込む。


(……あいつと、また一緒に見たいな)


 そんな想いが自然と浮かぶこと自体、少し前より心が軽くなった証だった。



 真司も東京での日々を新しい気持ちで過ごしていた。


 仲間と笑い合いながらも、心のどこかに常に亮の存在がある。


 練習後、汗だくのままスマホを開いて「今日も頑張った」なんて短いメッセージを送る。


 すると数分後には、「俺も頑張った。えらい」って返事が届く。


 それだけで、胸の奥に安心が水面の波紋のようにゆっくりと広がった。



 週末、久々に二人は会う約束をした。


 駅で再び顔を合わせた瞬間、ぎこちなさは消えて、自然と笑顔がこぼれる。


「なんか……ちょっと大人っぽくなった?」


 亮の言葉に、真司は一瞬きょとんとした目をしたが照れ隠しのように笑った。


「お前にそう言われると、悪くない気分だな」


 二人で並んで歩き、ファーストフード店でハンバーガーを食べたり、ゲームセンターでクレーンゲームなどをして笑い合ったり。


 それは特別なことではない、どこにでもあるただのありふれた「日常」だった。


 けれど、以前のように当たり前に過ごせる時間が、今は何よりも愛おしく感じられた。


 夜、別れ際に真司が少し照れくさそうに言った。


「こうやって普通に笑えるのって……すごく幸せなんだな」


 亮は頷きながら、小さな声で答えた。


「俺も。お前と一緒にいるだけで、十分だよ」


 二人の間に漂う空気は穏やかで、あの苦しかった日々がまるで嘘のように思えた。


 けれど、確かにその苦しみを乗り越えたからこそ、今のこの温もりがある。


 ――それは、小さな日常の積み重ねが作り出す、大きな奇跡の絆だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る