12.「警察小説」ヴァージョン

 祐樹はその日も、ファミレスで謎の文字列が書かれた紙と睨めっこしていた。

 署にいると、他の警察官に声をかけられたり、別の事件のことで仕事が回ってきたりするので、昼飯がてらファミレスにやってきたのだ。


「ダメだな、今日も解けない。」

 祐樹は、とりあえずで2本の線を引いてみた文字列を前に、悔しそうにつぶやいた。

 これは祐樹が今関わっている事件に関係すると思われる、一種の暗号なのだが、発見から数日経った今も、解く糸口すら見付けられていない。


「これが解けないことには、事件の真相には、多分たどり着けない……」

 祐樹が独り言をつぶやいた、その時だった。


「結構、いい線いってると思ったよ、私は。」

 不意に背後から声が飛んできた。


「えっ!?」

 祐樹が振り向くと、制服姿の女の子が椅子越しにこちらを覗いていた。

 どうやら、後ろの席からこっそり見られていたらしい。


「もしかして、ずっと見てた?」

「うん、割と最初のほうから。」

「嘘だろ!?」

 内容がわからないとはいえ、捜査資料の一つを見られたのは不覚だった。


「しまった……」

 祐樹は思わず天を仰いだ。


「そんなに気にすることないよ。少なくとも、私はいい線いってると思ったから。」

 女の子はそう言うと、席からぴょんと立ち上がり、そのまま祐樹の横を歩いていく。


「あっ、私の名前は真理愛。また会おーね。」

 立ち去り際にそう名乗り、真理愛はファミレスから出て行った。


「……何だったんだ。」

 その様を、祐樹は呆然と見送ることしかできなかった。




 翌日。

 祐樹は昨日と同じファミレスの同じ席で、昨日と同じ暗号の紙を置いていた。

 だが、昨日の失態が脳裏をよぎり、暗号解読に集中できない。

 一応、周囲を見回しているが、今のところこちらを覗き込んでくるような輩は見当たらない。


「流石に、2日連続では来ないよなぁ。」

 ホッとしてつぶやいた、その時であった。


「あっ、昨日の刑事さんだ。」

 聞き覚えのある声が、突然背後から飛んできた。

 見れば、いつの間に現れたのか、後ろの席に真理愛が座って、こちらを向いていた。

 あれだけ警戒していたのに、全く気付かなかった。


「あ、き、昨日の、ま、真理愛、ちゃん?」

 祐樹は思い切りどもりながら、返事にならない返事をした。

 そんな挙動不審な様子を気にする素振りもなく、真理愛はこちらへ身を乗り出してきた。


「昨日、帰ってから署長と相談したんだけどさ。」

「しょ、署長?」

「うん。あなたの暗号解読、凄く興味深いから、一度ウチの署に連れてきてくれないかって言われたの。」

「しょ、署に?」

 その一言で、祐樹はようやく合点がいった。

 この真理愛は別の署の関係者だったのだ。実際、この事件は広域捜査になっているので、いくつかの署が捜査に関わっている。

 通りで、刑事である自分の警戒を掻い潜って、背後にいたわけだ。


「今から、署まで来れる?」

 真理愛が小首を傾げながら尋ねてきた。


「もちろん、行けます!」

 祐樹は上司への返事のように答えた。

 すると、真理愛は満足そうにニッコリと笑った。

「じゃあ、今から行こっか。」




 ファミレスを出た祐樹は、真理愛に連れられるまま、車が多い通りを抜けて、裏路地に入った。

 そこには、小さな雑居ビルがあった。

「ここに、署が?」

「うん、こちらへどーぞ。」

 真理愛が相変わらずニコニコしながら、祐樹を中へ誘導していく。

 始めこそ、捜査協力のつもりでついてきたが、ここへ来て、少しばかり不安になってきた。

 考えてみれば、警察関係者なのに、制服姿の少女というのはおかしい気がする。

 しかも、連れて来られたのは小さな雑居ビル。

 普通、警察署は単体の建物であるはずだ。


「……だが。」

 もし、警察関係者でないとするなら、考えられるのは犯人側の可能性だ。

 これは敢えて誘いに乗り、暗礁に乗り上げている捜査を動かすチャンスかもしれない。

 祐樹はそう考え、真理愛の後を何も言わずについていった。


「ここだよ。入って。」

 真理愛がビルの一室の扉を開けた。


 中は何も置いていない、殺風景な部屋だ。


「あの、ここは……?」

 祐樹が見回しながら尋ねると、真理愛がくるりとこちらを向いた。


「あの文字列にあなたが引いた線、一本消してみて?」

「え?」

 祐樹は文字列上に2本引いてあった線のうち、1本を消した。

「なっ!?これは……!」

「あなたが引いた線は、とても“いい線いっていた”の。でもその暗号を解かれると、ウチの署長だけじゃなくて、そのず~と上の人も困っちゃうんだ。」

「なんてこった……」

 真理愛はニッコリと笑い、拳銃を突き付けてきた

 S&WサクラM360J。


「制服のコスプレをした、マジもんの警察官かよ……!」

 ここでようやく、祐樹は二重に張られた罠で、巧妙に誘い出されたことを悟った。

 そして、この事件の裏には、警察組織の一部も関与していることも……


「だから、あなたを処分するわ。」

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