第3話夏休みいらっしゃい

神社を下りまた歩き出す。歩いていると、また無人販売所が置いてある。監視カメラも無い、さすが田舎だ。見慣れない光景に目を惹かれてしまう。


「……………」


「……………」


視線を感じる。男が見ている。歳も体型も同じくらいの高校生のようだ。睨んでいるようにも見えるし、ただ見ているようにも見える。見慣れない顔が無人販売所を眺めていたから盗みでもするかと思われているのだろうか。無視したいがここに来て早々盗みだなんて噂を流されたらたまったもんじゃない。弁明だけ、弁明だけしよう。


「あの」


「?」


「別に野菜盗もうとか思ってませんよ」


「え、おう」


あれ、違うのか。じゃあなんで見てくるんだこいつ。


「あの」


「?」


「別に金盗もうとか思ってませんよ」


「あ、うん」


金でもないのか。なんで見てくる。もしかして、こんな田舎に知らない奴がいて何しにきたんだと怪しまれているのか?


「あの!」


「!?」


「この村に死体捨てに来たとかじゃないです!」


「……さっきから何と勘違いしてんのお前」


「……」






「へえ、じゃあ今ここに住んでんだ」


「まあ昨日からだけど、急すぎてあんま実感湧いてないんだよね」


「そんな急に住むことになったんならそうなるよな。

やっぱ前井のじーさんぶっ飛んでるなあ」



ただ野菜を買うのを待っていただけらしく、そのあとなんとなく一緒に歩いていた。この人も勝さんのこと知っている。やっぱりここらじゃ知った人なんだ。


「じゃあまだ、この村も知り合いほぼいない感じか」


「ほぼいないな」


「お、じゃあさ、」


と言って一瞬立ち止まりこちらを見る。


「今日俺の家でパーティーやることになってるから、お前も来いよ」


「パーティー?誰かの誕生日か?」


「いいや、夏休みいらっしゃいパーティーだ」


「なんだそれ」


「毎年してるぞ」


「暇なのか」


「暇だ」


なんだかこの村で会う人、みんな明るい。これってもしかして田舎効果なのかもしれない。


「今日来るやつみんな高校生だし、顔合わせといた方がいいだろ」


「何人くらいくるんだ?」


「来るって言ってるのは6人だったかな。あー村にはもうちょいいるぞ」


「案外いるもんなんだな」


「いや少ないだろ」


少し歩くとこいつの家らしいとこに着いた。表札を見ると、『呉原』と書いてある。


「夜七時になったらここにこいよ」


「嬉しいけど、勝手に行っていいのか?」


「まあすぐ仲良くなるだろうし」


とりあえず、行ってみることにした。






時間になり、またここに戻ってくる。空はぼんやりと暗くなっているがまだ明るい。家の前にはあいつが立っている。


「お、良かった、きた」


「流石に無断欠勤はしない」


今日会ったばかりの人の家にあがらせてもらうなんて、こんな経験初めてで少し緊張する。ふすまの奥が騒がしくて、そこには先に3人ほど座っていた。すると1人の男子と1人の女子が寄ってくる。


「あ、この人か!」


「引っ越してきたとかいう人か」


「どうも」


「そうそうこいつだ。名前が………あれ、お前名前なんだ?」


「知らないのかよ!」


「親友なったとか言ってたのに」


「なんも考えてなかったな」


「えっと、野津山自由って言います」


「お前そんな名前だったのか。俺は呉原成悟」


「自由って響きなんかいいよなぁ。あ、名前は筒井雄一郎。」


「えっと、森加奈実っていいます、家は牧場です!」


「牧場?ここってそんなのもあるんだ」


一通り挨拶を終えるが、そういえばもう1人いたことを思い出す。人影のある方を見る。その白髪の人はじっとこっちを見ている。なんか見た事がある。のどかだ。


「…やっぱり五百円の人だ」


「…どうも」


最初は緊張していたが、みんな話しやすい人たちなのもあってすぐに打ち解けた。あと来るはずだった1人は釣りが絶好調だからドタキャンだと。最初に目のあった2人の筒井と森は高一、のどかと呉原は高二らしい。あと呉原は名前からか「ごはら」と呼ばれていた。あだ名、ちょっとだけ羨ましい。




時計も11時を回り、解散することになった。こんな楽しかった夜は久しぶりだ。2人と別れ、途中まではのどかと帰り、そして1人になった。


「海沿いでも歩いて帰るか」


散歩がてら、暗い浜辺の横の道路を街灯を頼りに歩く。聞こえてくる波の音が気持ちいい。浜の端にある堤防はまだ明るかった。で、……そこに誰かいる。うっすら叫び声も聞こえる。怖い。でも海の夜は危ないし、余計なお世話かもしれないが軽く注意だけしに行こう。怖いし、変な人だったらすぐに逃げよう。ゆっくりと浜への階段を降りる。

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