第2話 いきなりトラブルみたいです
いやー、スプリングも碌に付いてない荷台は強敵だった・・・・・・【
現在は中継地点らしき村で休息をとっている。流石に慣れているのか冒険者サマ方は颯爽と宿に消えていった。ゾンビみたいにノロノロしてるのは"積荷"の人達だけだ。
「〜〜〜〜〜ッ!?」
「・・・・・・見事に悶絶してるなぁ、見るからに旅には慣れてなさそうだったし無理もないか」
荷台から出ようとして出れないでいるのは、隣りに座ってたフードの人だった。馬車の中でも気を遣ってくれたし、何より見てて危なっかしいので助太刀しよう。
とはいえいきなり魔法掛けたら怖がられるよな。人見知りって感じでもなかったし、ひとまず声を掛けてみるか。
「すいません、もしよければ回復魔法を使うけどどうする?」
「い、いえ!私だけそんな───っ!?」
「ああほら、無理すんな。他の人はもう行ったみたいだから」
念の為周囲を見渡してみるが、多分大丈夫だろう。俺自身も後からタダで治療しろって言われても困るし、さっさと終わらせてしまおう。
「───【
「あ、ありがとうございます。一人旅は初めてなもので・・・・・・」
この世界でも会釈は通じるっぽいな。にしても、チラッと見えたけど滅茶苦茶綺麗な顔と蒼髪だな。どう見ても平民って感じじゃないが、何でそんな人がお供も連れずにこんな所に居るんだ?
聞きたい気持ちもあったが、下手に首を突っ込むのも怖い。夜行馬車に乗ってる時点で大なり小なり事情があるだろうし。フードの人もすぐ元気になったことだし、お節介はここまでにしとこう。
「助かりました。まさかこんなに身体が痛むなんて思いませんでした。あの、どうかお礼をさせていただけませんか?」
「いや、そこまでは別に───」
「ええ、なりません。"アガペレ修道教会"並びに冒険者ギルドに所属しない者が、治療行為で金銭を得ることは禁じられております」
急に割って入った声に視線を向けると、物語に出てくるコテコテのシスター衣装を纏った女性がやってきた。表情は穏やかなソレだが、目には全くといって良いほど感情が乗っていなかった。
やっべ、普通に見落としてたな。しかし、何で俺が無所属だって分かったんだ?此方の困惑を感じ取ったのか、フードの人がおずおずと質問してくれた。
「えっと・・・・・・その様な決まりがあるのですか?私の家には専属の治癒士の方が雇われていましたが」
「そう思われるのも無理はありません。大抵の治癒士は教会あるいはギルドに属しているので態々名乗りは致しませんので。着用を義務付けられた修道服か、それを身に纏っていないとなると此方を見える場所に付けていませんでしたか?」
「・・・・・・あっ、確かに付けていましたね!あの人は首からネックレスの様に下げていましたが」
「着用の仕方に決まりはありません。私の場合はロザリオとぶつかるのでこうして手首に着けさせていただいてますが」
シスターさんが見せ付ける様に腕を上げると、そこにはブレスレットの様に結ばれた銀のドッグタグがあった。恐らくアレが冒険者の身分証なんだろう。
なるほど、少なくともこの国じゃ治癒士はどちらかの組織に属してるのが当然なのか。パッと見て俺が無所属だって分かるくらいには。
「ははぁ、俺は修道服もソレも付けてないから注意して下さったと」
「おっしゃる通りです。私もまさか貴方が光属性の魔力を扱えるとは思わず、対応が遅れてしまいました。終わった後で口出しする無作法、どうかお許しくださいませ」
「いやいや、こっちとしては丁寧に教えてもらって感謝ですよ。寧ろ、許しを乞うのは俺の方ですから。お目溢し・・・・・・してもらえませんか?」
恥も外聞もなく頭を下げた俺に、シスターさんは静かに頷いて肯定してくれた。良かった、この人が厳格な人じゃなくて本当に良かった!!せっかく嫌な職場から逃げてきたってのに、馬車から牢屋へドア・トゥ・ドアとか洒落にならねぇ。
しかしそんなルールがあるなんて知らなかった。気付かず地雷を踏んだ、なんて洒落にならないからな。もっと行動には気を付けよう。
「ありがとうございます。世間知らずでお恥ずかしい。ご迷惑をおかけしました」
「いいえ、【無知は恥ずべきものではなく、無知をそのままにすることこそ恥】。アガペレ修道教会の教えの一つです。それに貴方の無償の献身を私はとても快く思います」
そう言ってほんの少しだけ女性は微笑んだ。相変わらず瞳に感情が乗ってないが、先程までの冷たさを感じさせない雰囲気だった。
しかしそれも一瞬のことだった。すぐに空気を引き締めたシスターさんは、改めて俺に忠告してくれた。
「───ですが老婆心を一つ。この世界は貴方の献身に報いる程優しくはごさいません。無償は搾取の土壌となりかねず、また治療行為で金銭を稼ぐ者にとっても愉快ではないでしょう。どうか御自重くださいませ」
「・・・・・・以後気を付けます」
「ご理解いただけて何よりです。ああ、自己紹介もせず申し訳ありません。アガペレ修道教会所属にして二等級冒険者パーティ【明星】に席を置く"イーグレット・トゥエルブ"と申します。以後お見知りおきを」
そう言い残し、イーグレットさんは馬車へと戻った。どうやら馬の快復に勤しんでいたらしく、甘える様に擦り寄られながら回復魔法を掛けていた。
うん、何かしらスキルアップのネタにならないかと遠目に見ていたがさっぱりだ。まあ簡単に盗み取れたら苦労しないか。やはり魔法を鍛えるなら腰を据えて、専門家の指導を受けるほかないだろうな。
そんなことを考えていると、フードの人が上着の裾を控えめに引っ張ってきた。あれ、まだ何か用?
「あ、あの!一緒にお食事でもいかがですか?軽食をご馳走するくらいなら目くじら立てられません・・・・・・よね?」
「・・・・・・注意されてすぐその提案とは、アンタも随分チャレンジャーだな。だけど魅力的な提案だ。是非───」
ご一緒したい、と言い掛けた所で甲高い鉄を打つ音が鳴り響く。俺の言葉を遮った音色が何なのかは流石にカーツ少年も知っていた。物見櫓から放たれるソレは、村の危機を知らせる警鐘だ。
「魔物だッ!魔物の群れが向かって来るぞーッ!!」
「そんな、これって───っ!?」
「ああ、どうやら飯はお預けらしい。冒険者さんとこに急ぐぞ!」
どうやら俺の夜逃げはいつの間にかハードモードに切り替わったらしい。どうしてこうなった・・・・・・!
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