7話 買い被られても大丈夫!

「という事で、捕らえてきました」

「驚いた……昨日、頼んだばかりだったよな」

「早めに動いて損は無いですからね。特に今回の敵は情報よりも名が通っていましたから……まぁ、正解だったと勝手に考えています」

「元Bランク冒険者のガバンとアジールだもんな。確かに放っておけば多くの人達が襲われていただろうが……はぁ、詳しくは聞かねぇよ。ありがとな」


 そう、ハンズは無駄に首を突っ込んで来ない。

 ユッコも気にはしているけど変に話に割り込んでは来ないから楽だ。まぁ、聞いたところで俺がはぐらかすのは目に見えているから仕方ないか。仮に聞かれたらソフィアとアリスに一任したで済ませようと思っていたし。それに証拠なんて目の前に提示した元ギルドカードだけで十分だ。


「それで得られた話に関してですが……と、このような感じですね。一応、魔道具を展開させておいたので普通に話しても問題はありませんよ」

「……逆に聞くが盗賊団を勇者が潰した事はバレても良かったのか。また面倒事に巻き込まれかねないんだぞ」

「潰した時点でバレていますよ。問題は情報を取られたという事を察するようにする事、です。相手は体裁を保つ方達のようですからね。敵に回すのならば徹底的に潰さないと困るでしょう」


 元から相手が誰なのかは予想がついていた。

 それでも、相手の立場からして下手に噛み付けば勇者と言えども痛い目にあいかねない。なんだかんだ言って俺がパーティから抜けていない一番の理由がそれだしな。勇者の仲間なら変に高性能な魔道具を持っていてもおかしくはないし。


「スレッド伯爵公、元から勇者という存在に対して否定的な意見を述べていました。保守的な考えが強い方だとは思っていましたが……こうも他者の意見を聞けないようであれば懐柔は不可能でしょうね」

「……はぁ、すまねぇな。本来なら上に伝えたい話ではあるんだが」

「構いませんよ。噛んできた犬を振りほどいたところで罰せられはしません。アチラが影で勇者を陥れようとするのならば同じ事をするまで。運の良い事に俺達は俺達で良い人材を手にしましたから」


 軽く指を弾いて二体の人間を転移させる。

 見た目は普通の人間と変わらない二人の男でしかないが……その内部に関しては俺とアリスの手で軽く弄らせて貰った。要は一人一人が俺の手で自由に操れる魔道具と大差ない屍だからな。違うところと言えば本人達の魂をトレースした影響で話せたり、自立して動けたり、食事したり出来るところくらいか。


「どうにもスレッド公は俺の妹達の強さを甘く見過ぎているみたいです。単体で勇者を倒せるだけの力を持たなければ奪われるだけだというのに」

「本当に……勇者の仲間の力で良かったよ」

「はい、俺もそう思っています。負ければ最後、その精神も身体も自由に扱えるアリスの力は間違いの無いものですから」

「……お前の事だけどな。まぁ、いい」


 俺の何が怖いというのか、本当に心外だな。

 俺が出来る事と言えば魔道具や武器、薬品の作成くらいだぞ。まぁ、俺は別に善人を自称しない。むしろ、この世界で妹達が担うべき尻拭いをしている俺は悪人寄りだろう。いいや、こうして悪人を食い物にして糧にしている時点で俺も大概に善人とは程遠い話か。だから、別に少ししか気にしたりしないから安心してくれ。


「その先の依頼報酬は何が欲しい。もちろん、出来る限りの事と限定させてもらうがな。事と次第によっては俺が全身全霊を持って対応してやる」

「でしたら、問題ありませんよ。俺が求めるのはスレッド公派閥の人間のディストへの侵入の禁止です。出来なければ制限で構いませんよ。もしも難しいのであれば俺とユッコのみ、他の街へ派遣に出して頂けると助かります」

「……最後は不可能だからやめておくわ。制限止まりで良いのなら俺にだって出来る。むしろ、もっと無理難題を吹っかけてきてもいいんだぞ。本当にお前は優し過ぎる」

「ちぇ……そこがキモなんですけどねぇ」


 敵が増えようが四人ならどうとでも出来る。

 俺がいるせいで多くの問題を背負う事になるんだからな。それだけ戦闘では非力な俺は明確な邪魔者でしかない。戦えるとしても長期戦を苦手としている時点で意味は無いんだ。ましてや……魔道具頼りの俺に価値なんてある訳もない。ただ、非力だから戦わないは都合の良い口実だからな。


「俺の守りたい者がいる空間に部外者が入り込もうとしているという事実を……どうして俺は許せるというのですか。本音を言えば、イヴリンを吹っかけてやりたいんですよ。昨日だって言い訳をするので精一杯でしたし」

「やめてくれ。その対処はアランにしか出来ねぇ」

「でしたら、俺が今からする事は見て見ぬふりを続けてください。知らぬ存ぜぬ、ただそうするだけで何事も無かったかのように日常は進みます。見えない世界は見える人達に任せればいいんです」


 戦えない、なら戦える土俵に持ち込めばいい。

 俺の強みは戦闘能力ではなく、商人としての情報戦や立ち回り方だ。それに合わせた力だって持ち合わせているし、事前に準備だって整えてきたからね。現に動かそうと思えば少しくらいは国にも被害を出せる気がするくらいには力がある。


「それに俺には明日すらも見えていませんから。だから、さっさと去りたいんですよね。今いる空間から逃げられた時にはきっと」


 そっと視線をユッコへと飛ばしてみた。

 反射的に逸らしてしまう。当たり前だ、ユッコと視線が合ってしまったんだ。普段ならどうにもない事だというのに今だけはすごく……恥ずかしくて目を合わせられやしない。彼女と一緒にいる世界こそ、俺が本当の明日を作り出していけるんだって。でも、それが許されないのなら……俺はただ戦うしかない。


「邪魔者は殺す、文句はありますか」

「ねぇ、好きにしろ」

「ええ、依頼通りに楽しんできますよ」


 となれば、多めに人員は割いておくべきかな。

 透明な魔力の鳩に声を託して飛ばす。ここら辺は本当に魔道具様々だな。メラクとアルコルの指輪とピアスが無ければ行使も難しかった。本当に俺には魔力操作や魔法の行使という項目において才能が無いらしい。

 さて、送った先は八人。依頼は既に託した。

 なら、このまま少しなりとも自由な時間でも過ごすとしようか。……そうだね、久し振りにゆったりとした時間でも過ごそうかな。八人からの返信が来るまでは仕事に身を置けないだろうし……早めに達成した時の報酬でも作っておくか。新しく作っておきたい魔道具もあるし、丁度いいや。


「って事で、来ましたぜ。師匠」

「おう、馬鹿弟子。来る前に一言あるだろうが」

「え、伝書鳩を送りましたよ。数分前に来ているはずです」


 えっと……なんで、そんなに悩んだ顔を……?

 って言うのは、冗談だ。こういうのは茶目っ気、我が愛しの師匠なら許してくれる自信があってやったに過ぎない。ってか、工房は好きな時に使えって言われているからね。どこぞの大声ブルドーザーとは違うのですよ、我が師匠は。


「どうして胸を張っているんだ」

「俺に魔道具作成や鍛治のイロハを叩き込んでくれた師匠を思い返しただけでっせ。そうしたら無意識に胸を張っておりやした」

「……三下口調はよせ。本気で気持ちが悪い」


 その割には三角巾からハミ出た頬が赤いけど。

 とはいえ、幼いながらに俺は大人。大人ならではの恥というものがある事くらいは知っている。まぁ、師匠もそそくさと奥に下がって行ったから工房を借りさせてもらおうか。本音を言えばアリスがいてくれると楽だったけど……呼べばアイツも来るからナシだ。

 という事で、何から作ろうか。

 素材もあれば、道具だって揃っている。別に打とうと思えば剣でも打てるけど……さすがに劣化品は嫌という程に打ってある。後は冒険者ギルドに流すだけなんだから今更、剣を打つのは遠慮したいな。そう考えると、まぁ、いつも通り魔道具でも作ればいいか。

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