6.5話 主様のためなら大丈夫!
「おお、マスター殿。かなり抑えたでござるな!」
「はぁ……殺したところで情報は得られないだろ。やるのなら適任がいる。処遇自体は情報を抜き取った後だな」
「了解したでござるよー! 既に呼んでいる状態でのでご安心くだされ!」
フィアナはそう言って敬礼して見せた。
それを見てアランは小さく溜め息をついて残された石の椅子に腰掛ける。そのまま、十数秒程度の沈黙が続いた後に少しばかり作られた笑顔を見せた。フィアナはそれを見て軽く顔を背けたが即座に意図を汲んで視線を合わせてみせる。
「悪いな、事後処理を任せてしまって」
「仕方ないですぞ〜。この程度の実力しか無い故に盗賊となったのでござろうから……まぁ、災害に襲われたと思わせるしかないでござるよ」
「はぁ……まさか、魔道具の性能の一パーセントにも満たないというのに、倒れるとは思わなかったんだ。撃ち込んだのだって四肢だけだぞ。それで……はぁ、本当に意味が分からなさ過ぎる」
それはアランの心の底から出た言葉でもあった。
無能、それは確かに事実だ。本人のステータスもスキルも全てが大きく制限されている。妹である勇者がどれだけ鍛えても戦闘面での強さは見い出せなかったのだ。それがようやく花開いたというのに逆に対処出来る存在が限られてしまう。
魔道具全てを解放したアランは勇者で限界。
イヴリンの配下である三人はそう判断した。裏を返せば勇者程の力を持ち合わせていなければ同じ土俵には立てないのだ。それは自身の花を咲かそうと努力して魔道具全てを作り出したアランへの敬意もあるだろう。それとは別に感じたのは底知れぬ本物の恐怖だった。
「ごめん。先に帰って食事の準備でもするわ。ここに居ても無駄に頭を使いそうだからさ。宝とかも回収しておいてくれると助かるよ」
「了解ですぞ! しかし!」
「分かっているよ。ご褒美はあげるから。今度は二人で依頼でも受けて遠出しようか」
「ふふん! お任せあれい!」
恐怖の権化、故に自身の最愛の存在でもある。
背理しそうな感情全てを得られている今がフィアナには嬉しかった。だから、アランの前では愛らしい女子を演じ、転移した直後にその表情を大きく変化させる。考えないようにしていた最悪の結末、それを齎しかねない存在が目の前に転がっているのだ。それがどうにも許せなかった。
「にしても、貴君は本当に愚かでござったな。マスター殿は勇者様でも止められない程の本物の化け物なのでござるぞ。故に拙者達はマスターを───と呼ぶのです」
その言葉は本当であり嘘でもある。
その二つ名は今いる世界では通じない言葉、それでいながらも勇者から説明を受けた者達は等しく呼び方を変えるのだ。それ程までにアランの存在は周囲からすれば大きく、消えた瞬間に多くの者達が路頭を迷う程のものでもあった。
「最初から狙った時点で勝ち目なんて無かったのですぞ。本当に愚か、嘲笑う事すらも出来ない程に救えない存在達でござるよ。最初から勇者の名のもとに平伏していればよかったものを……やはり、余っ程の後悔を与えてこそ」
「ねぇねぇ……フィアナはどうして僕の人形ちゃんを虐めているの」
数秒前まではいなかった背後への気配。
フィアナは一瞬だけ驚愕の表情を浮かべて見せたが声を聞いて即座に整える。敵に回した瞬間に自身の命すらも脅かしかねない存在だ。馬の合わない部分だって多くある。それでも、その声の持ち主は明確に自身の仲間であり、同じ未来を目指す同士でもあるのだ。
「それはお兄様が指定した人形ちゃんのはずなの。……ううん、フィアナはそんな事をしないはず。だって、僕はお兄様から直に」
「違うでござるよ、アリス。単純に脅してアリスの魔法が侵食しやすいようにしただけでござる。どちらも求めるべき世界は同じ、敵に回すような事はしないですぞ〜」
「そっか、それもそうだよね。……うん、さっさと終わらせて褒めて貰わないと。お兄様が僕を求めてくれたんだから早く、そう早く終わらせないと期待を裏切っちゃう」
そう言うとアリスは笑って手を振った。
黒く染まったゴスロリめいた服装、それ以外は中学生でさえも幼いと口にする程の見た目だ。だが、その少女から行われた何かは明確な言語で表せるものではなく、ただ只管にアリスの前にいた者達を喰らい尽くした。
「じゃあね、バイバイ」
「おぉー、いつ見てもすごいですなぁ」
「フィアナの方がすごいよ。僕は……皆の足手まといだから。でも、そんな僕を助けてくれて手を引いてくれるお兄様は……ああ、駄目。こんなんじゃいつまで経っても離れる事なんて」
「てい、でござるぞ」
仲間、同士……それでいて大切な友人。
その意識は明確にフィアナにもあった。恐ろしかったのはお互いの愛する存在への敬意から暴れ始めないか、という一点に過ぎない。だが、目的を達成した今となっては茶目っ気の一つや二つは許せる範囲だと判断出来た。
「妄想は程々にするでござる」
「……うん、考えるよりも結果で見る。きっと、すごく褒めて貰えるから。頑張ったフィアナも同じくらい褒めて貰える、よ?」
「ふふん、それならば安心でござるな!」
お互いに目指すのは一人の主の幸福のみ。
だからこそ、人の道を外れた事であっても容易に行う事が出来た。微かに残る人の気持ちすらも無視して腰に差した主からの授かり物を振るう。いつかは本物を授かるために得物を手に取る。
「して、アリス。……分かっておるな」
「うん……大丈夫、壊すから」
「なら、良いのでござるよ〜。拙者も少しばかりやりたい事が出来てしまったのでな。傍に貴君がいてくれるのであれば悩む事などなくて済むのですぞ」
汚泥に反射する顔のように表情が歪む。
それをアリスは小さく溜め息を吐いてから見詰めて自身の手を翳した。腕輪を通して展開された十個程度の魔法陣、それを視界に収めた事でようやくフィアナも自身を取り戻して笑みを浮かべた。
「……この後は暇ですかな」
「大丈夫だよ……もう放っておいたから」
「そうでござったか! ならば! 余裕ですな!」
アリスは呆れたように再度、溜め息を吐く。
それでも表情の奥底には優しさが滲んでおり、目の前の少女をただ微笑ましく見ていた。そんな折、一つの魔法陣が光り、今いる空間とは別の情景が映し出される。悲鳴と混濁、絶望しか無い世界を二人は軽く見てから目を合わせた。
「悪に与えるべき容赦等ござらんな」
「うん、どうせ……裏切るのなら最初から裏切られないようにしておいた方がいい。善人は悪人になれるけど、悪人は善人になれないから」
「そうですぞ〜。悪人になれ切れないマスター殿のために悪人の我等が動かなければどうにもならないのでござるよ」
そう、二人は自分に言い聞かせるしか無かった。
それがアランの配下として生み出された者達の、死ぬまで消えない最大の命令なのだから……。
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