光る素質
ふり
1・初心者
管理事務所の中に入ると、ふたりのお客さんらしき女性が待っていた。
ひとりは知っている顔だ。
もうひとりはまったく知らない顔だ。アメリカとかそっちの人だろうか。背が高く、体がガチッと引き締まっているように見える。こちらは水色のフリースに紺色のストレッチパンツ姿だ。
「
僕の気配に気づいた受付の
軽く自己紹介と挨拶を交わす。知らない女性の正体がわかった
「北海道ですと、馬に触れる機会があったんじゃないですか」
ボディプロテクターを装着している逢見さんに聞いてみる。申し訳なさそうに答えた。
「小学生のころに社会科見学でありました。でもアタシは、動物より自然のほうが好きなんです」
「人それぞれ好きずきはありますからね。この機会に馬のことも好きになってくれると嬉しいです」
「はい! よろしくお願いします」
「フラリッシュは変わらず元気ですか?」
一足早く馬具の装着を終えた陽向さん。待ちきれない様子で瞳を輝かせている。
「元気いっぱいです。今日もおやつのニンジンをねだってきて大変でしたよ。今も連れてくるのにべったりで」
「かわいいなぁ。聞き分けはいいし、愛される子ですよね」
ふたりで雑談していると、逢見さんが立って腕を広げて見せてきた。
「お待たせしました。準備完了です」
逢見さんのヘルメットからつま先までチェックをする。あご紐の緩みもないし、各プロテクターは正しく着けられているな。大丈夫だろう。
「バッチリです」
ふたりを伴って管理事務所を出る。少し離れた洗い場の前に、フラリッシュともう1頭の馬——ハガネノココロを待たせていた。
「乗る前に少し触れあってみましょうか」
ふたりに小袋を渡す。中身は2頭の大好物のカットしたニンジンである。
「まずは名前を呼んであげましょう。僕と話すぐらいの大きさで大丈夫ですから」
「フ、フラリッシュ」
逢見さんの声が緊張気味に震えている。少し声が小さかったが、フラリッシュの耳に入ったらしく、目を細めて頭を横に倒した。
「首を優しく撫でてみてください」
撫でられてフラリッシュは、うっとりした表情で逢見さんにスリスリしている。それを受けて逢見さんも、目を細めて「よしよし」両手で撫で続けた。
「人懐っこいフラリッシュですが、初対面でここまで懐くなんて珍しい」
「さては萌和さん、本当は牧場でバイトしてたりしてたんじゃないですか」
陽向さんがハガネノココロにニンジンをやりつつ、少し意地悪気に突っ込む。
「いえ、本当に物心つく前はわかりませんが、触れ合ったことがないんですよ」
逢見さんもポケットに入れた袋からニンジンを数切れ取り出し、フラリッシュの口元に運ぶ。小気味の良い咀嚼音を鳴らし、胃に収める。もっともっとと言わんばかりに擦り寄るフラリッシュ。
「なまらめんこいですね」
「甘えん坊なんですよ。僕を含めたスタッフですら、ついついあげすぎちゃうくらいで」
「気持ちわかるなぁ。こんなにめんこいんなら何本でもあげそう」
「もちろん食べすぎもよくないので、1日3本までにしてます」
「馬ってあまり食べないんですか?」
「ニンジンはあくまでおやつの立ち位置なんです。フラリッシュの場合のご飯は、イネ科チモシーと呼ばれる草を食べていますね」
「どれぐらい食べるんですか?」
「フラリッシュの場合は大体10キロぐらい食べます。ちなみにハガネノココロもそれぐらいですね」
「へえー、お馬さんってたくさん食べるんですね」
ニンジンをすべて食べ終えたフラリッシュが「そうなんだよ。もっとちょうだい!」と言わんばかりに
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