第二十七話 不思議な子供
夕方過ぎ。
俺は一日の仕事を終えて片付けをしていた。今日は少し混んだから片付けが山の様だ。
仕込みの確認は最悪後回しにしても問題ないだろう。あぁこんなに天気がいいのに、外でまったり日向ぼっこがしたい。
とりあえず、掃除を終わらせるか。
シンクで洗い物を進めていると、ドアが開く音がした。
「すいません、今日の営業は...」
見知った顔が笑顔でこちらを見て第二十七話
「おぅ、お前だけか?」
「っスよ、みんなはまだみたいっスね」
緑が一人で入ってきた。こいつと2人になるのは初めてだな。
まぁ赤以外は二人きりになったことは実際ないが。
「調べ物はどうだったんだ?」
「いんや、全然っスね。図書館行ってみたけど収穫ゼロでした。」
緑がやれやれと言ったパフォーマンスをして見せる。
「美咲も権三さんも調べてくれているからそれを待とうぜ」
「自分の象徴は自分の手で見つけたかったんスけどねぇ」
言わんとしていることはわからなくもないがな、自分の特別な力になるんだから自分で見つけたいわな。
「ところでなんスけど...」
「ん?」
「そこの五差路に見たことのない子供がしゃがみこんでいたんスけど、近所の子っスかね? 声かけたけど無視されちゃって...」
子供? そりゃこの近所には子供もいるけど、そこにしゃがみこむなんてのは見たこともないぞ。なんならそこの小さい鳥居が怖いって理由で、あんまり近づく子供がいないなんて噂も聞いたことがあるくらいだし。
いったん店の外に出てみる。ケガをしたとか具合が悪くて、なんて理由だったら洒落にならないからな。
緑の言った通りそこには子供がいた。実際ここに住んでいて初めて見る子だ。歳は十歳くらい? の男の子にも女の子にも見える。最近はボーイッシュカットの女の子なんてのもいて、なんなら服装もスポーティーで、上は黄緑色のパーカーで下はマスタードのハーフパンツ。おっさんの目には見分けがつかないのよ。なので当たり障りのない呼び方をしよう。
「君、どうした? どこか具合が悪いのか?」
「...別に、遊んでくれる奴がいないから暇してるだけ」
「そっか、怪我とか具合悪いんじゃなくてよかったよ」
ほっと胸をなでおろす。しかしやっぱり声を聴いても判別はつかないか。
しかし、このまま放置するのもな。 今日は少し日差しがきついし、水分補給とか大丈夫なんだろうか?
「なぁ、のど乾かないか? ここ俺の店なんだ、なんか飲ませてやろうか?」
子供の顔がパァっと明るくなる。
「...良いの?」
「あぁ、好きなもん飲ませてやるよ」
「...ありがと!」
俺はひとまず子供を連れて店の中に入ることにした。
「お、さっきの子供!誘拐したんスか?」
おい緑、お前には何も出してやらないからな。
「今日は外少し暑いからな、あんなとこにいたら干からびちまうだろ。 飲み物でも出してやろうかと思って連れてきたんだよ。」
「大地君やっさし~」
おわっ!!びっくりした!!いつの間に来てたんだ?
ボックス席から美咲と権三さんが顔を出す。
「邪魔しとるぞ」
「なんだ来てたのか、びっくりした二人もなんか飲むか?」
「ありがと、じゃあアイスコーヒー」
「わしも同じで」
「おれは~...」
「誘拐犯扱いする奴には何も出さん」
「!? そんなこと言わずに!謝りますから~!」
黄と黒が大笑いする。カウンター席に座った子供がその光景を不思議そうに見つめる。
そういやまだ名前聞いてなかったな。
「なぁ、名前なんて言うんだ?」
「...
うーん、名前から男か女かわかるかと思ったが、これもダメだったか。
しかも名前を聞いてしまったことで、もう『君』呼びができない。自分で自分の首を絞めてしまったことに気づく。
よし、こうなったら呼び捨てにしよう。
「
「なんでって、家の前にいただけだよ?もうずっと誰も遊んでくれなくて寂しかったんだけど、懐かしい感じがしたから出てきたんだけど誰もいなかった」
? 家の前? あぁ、あの辺の家の子なのかな? 俺が見たことないだけだったのかもな。
「大地君、どういうこと?この子どうかしたの?」
「あぁ、さっき悠斗に外に子供がしゃがみこんでいて、声かけたけど無視されたって話しててな」
「そのくだり必要っスか?」
「今日は意外と日差しも強いし、怪我とか体調崩したとかだったら大変だからな、様子見に行って連れて来たってわけだ」
「知ってる子なの?」
「いや、見たことないが近所の子なんだろう?権三さんは知らないか?」
「ふむ、わしも初めて見る気がするがのぅ」
なんと、権三さんも初見か。たまたまこっちに来てるだけだったりするのかな?親戚の家に預けられているとか?
誰も遊んでくれないって言っていたのはこっちには友達がいないからってことなのかな?
「ねぇ~大地さん、俺にもいい加減何か飲み物くださいよ~」
おっと本気で忘れてた。そろそろ緑にも何か飲ませてやるとするか。
「ほら、コーラでいいか?」
「やった~!」
「コーラって何?」
「ん?コーラを知らないっスか?」
「もしかしたらそういうのを禁止にしている家庭なのかもよ?」
黄が指摘してくれる。確かにその可能性は十分にあり得るな。厳しい家庭なのかもな。
「飲んでみるっスか?」
「おいおい、勝手に飲ませたら
「そうよ、やめといたほうがいいんじゃない?」
「
「でもな、預けられているおうちの人たちに怒られるかもだぞ?」
「? 預けられてなんていないよ?」
「「「「 ???? 」」」」
ん?なんか話がかみ合わないぞ?
「君、
美咲が
学校が終わった赤と青が到着したようだ。
「おー、みんな揃ってるな。遅くなって悪い」
「こんにちは、美咲さんどうしたんですか?そんなところにしゃがみこんで」
「実はこの子の話がなんかおかしくてな、詳しく話を聞こうとしてたんだ」
「子供?」
「そうっス。なんか色々わからないことだらけで」
「...へぇ~...」
ん? なんか反応が薄いな。こいつらはこの子の事を知ってたりするのか?
「もしかしてお前ら何か知ってたりするのか?この子の家とか、家族の事とか」
あれ? 二人ともなんか顔が青白くなってないか? 体調が悪いのか?
気づけば外はさっきまで天気が良かったのに、いつの間にか曇って雨が降りそう...いや降ってきたな。一気に暗くなってきた。
あれ? 青がゆっくり後ろを向いたけどどうした?
「...なぁ、お前らの言ってる子供って、どこにいんの...?」
赤の振り絞ったような声が静かな店内に少し響いた。
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