ep3.主人公だって、人間だもの。
西暦2324年の未来
オフィスにて...
「私も過去....、というより、あなたと同じ、現代から来た人間ですから。」
(....ンマジでーー!!?)
俺は急いで及川に確認を取る。
「ちょっと及川さん!!ここって俺以外に現代人居たんすか!?」
「まぁな。けど、ここにおる現代人はジブンで二人目、....つまり、今のとこまだサキと特人しかおらへんよ。」
なるほど...。つまり、サキちゃんが一番最初に未来に来た現代人、俺はその第二号ってことか!!
でも、そもそも一体なんで、この関西弁未来人は現代人を連れてきてるんだ...?
「今、『なんでこの美少女は現代人を連れてきてるんだ?』と、思ったやろ?」
「あ、ハイ。」
「ええやろう、教えたる!まずはこのグラフを見よ!!」
及川は一方的に話を進め、唐突に右手を前に突き出した。すると、空中に謎のグラフが展開された。
それは液晶に表示されたとかそういうことではなく、本当に何もなかった空間に突然グラフが表示されたのだ。
(す、すげぇ!これが未来のテクノロジー!)
そして、彼女はそのグラフを指さし、自慢げに口を開けた。
「これは個人のステータス...つまり、その人間の能力を数値化したものや!」
人間の能力が数値に...?と、一瞬及川の言っていることが理解できなかったが、恐らくゲームキャラクターのステータス表示のようなものだろうと、勝手に納得した。
「や、やっぱ未来ってすげぇな...!で、一体それはどういう原理で計測してるんすか?」
この俺の当然の疑問に、目の前の及川は相変わらずのドヤ顔のまま、こう答えた。
「んー未来やから!細かいことは気にすんな!」
(...便利な言葉だな。)
俺はこの自称宇宙人ハーフ女をどこまで信用していいのか分からなくなったが、とりあえず、目の前のグラフをまじまじと眺めることにした。そのグラフは五角形に広がっていて、五つの項目を元に数値が振り分けられているようだった。
そこには、『攻撃力』、『守備力』、『素早さ』、『知力』、そして『運』の5項目がある。
「ほら、とりあえずウチのステータス見てみ。」
(ほうほう、これが
名前:及川・エクストラデッキ・梅子
攻撃力:730
守備力:240
素早さ:870
知力:430
運:520
....なるほど。分からん。
と、及川のステータスグラフとにらめっこを繰り広げていた俺に向かい、及川が解説を挟む。
「ステータスは全てマックス1000や。一般人の平均は大体、400~500の間くらいやな。」
「...とすると、及川は攻撃と素早さが高めってことか。」
ふむふむ。自分が数字で評価されるのはちょっと嫌ではあるが、確かに興味はある。
そんな事を考えていた俺の横で、及川が思いついたように声を出す。
「せや、サキのステータスも見せたれ。」
「あ、はい。分かりました。」
及川に指名されたサキちゃんは嫌な顔一つ見せず、先ほどの及川と同じように空中にグラフを展開して見せた。
(なんか、美少女のステータス覗くのってちょっと興奮するな。)
そして俺は、彼女の前に展開されたステータスを舐めるように眺めた。
名前:谷 紫咲
攻撃力:99
守備力:99
素早さ:1000
知力:610
運:440
特力:1000
「これが私のステータスです。」
彼女のステータスグラフは、及川と比べかなり歪で、触れたら怪我をしそうな六角形をしていた。
「なんか....、尖ってんね。」
俺がサキちゃんのステータスに小学生のような感想を添えた、その時!
及川が待ってましたと言わんばかりに声を上げた。
「そのとーーり!よう気づいた!実はな、ジブンら過去から来た人間は何故か必ず、ステータスが特化すんねん!それがウチが過去から未来に人を集めてる理由の一つや!」
『過去から来た人間はステータスが特化する』...?
どういう理屈でそんな現象が起こっているのか皆目見当もつかないが、今は及川の言っている事を信用するしかないらしい。
実際、サキちゃんは攻撃力と守備力が100しかないが、素早さと特力がカンストしてしまっている。まぁ及川の言葉を借りるなら、めちゃくちゃ特化したステータスだ。
....ん?特力?こんな項目、及川の時あったか?
「あ、あの~及川さん。この特力って、何ですか?さっきアナタのステータスにはなかったと思うんすけど....」
俺は戸惑うように及川に聞いてみた。すると及川が、またまたフフフっと笑みを溢し、自慢げに話し始めた。
「おう、またしてもよう気づいた!これが二つ目の、ウチが過去から人を集めていた理由!過去の人間は、『
(とくのう?とくのうって、特濃か?...なんだ、ちょっといやらしくなってきたな。)
及川はそう言うと、サキちゃんに目くばせをして謎の合図をした。サキちゃんはその合図を受け取ったようで、コクリと頷いた。
「じゃあ、私の特能を見せますね。少し離れていてください。」
サキちゃんは俺達を離れさせ、開けたスペースに移動した。
そして....
「いきます。特能、『
「うおっ!!」
紫電と叫んだサキちゃんの体から、紫の光が広がった。
(これは....、電気だ!)
なんと、紫色の電気が彼女の周りを囲っていたのだ!
この、現実離れした現象を横で一緒に見ていた及川が、誇らしげに胸を張って教えてくれた。
「これはサキの特能、『紫電』や!こんな感じで、過去から来た人間は特殊な能力、つまり『特能』を使えるようにんねん!」
(なるほど、なるほど...)
こんな展開、そこら辺の一般ピーポーなら急展開すぎて理解が追い付かないだろう。
...しかし、俺はあの石塚特人だ。
俺の脳内は、この先の未来が約束されたことへの興奮で埋め尽くされていた。
(き、キキキ、キタァーーーー!!!!!)
そう、それは、いつも通っている定食屋の店主に初めて「毎度どうも。」と言われた時のような充足感。
それは、俺が券を買った次の瞬間、券売機に『売り切れ』と表示された時のような優越感。
それは、何気なく回した『びっくらぽん』で、シークレットを引き当てた時のような卓越感。
そんなエクスタシィにも近い幸福感に、俺は全身を包み込んでいた
(いやぁまあ俺もこの物語の主人公だし?そろそろ異世界的などっかで無双しだす頃かなとは思っていたんだよねーーー!!けど、まさか未来でチートをゲットするようになるとはなぁ!!とにかく!こういうのは主人公がバカ強い能力をゲットするって相場が決まってんだッ!!)
俺は、自分への厚い信頼と好奇心を元に、まだ見ぬ己の特殊能力を発揮してやろうと意気込んだ。
「じゃあ!俺もいっちょ特能使ってやるか!!」
俺は全身に力を入れ、体の奥底に眠っているパワーを呼び起こす!そんな俺に気づき、及川が何やら慌てた様子で口を挟んできた。
「い、いや特人、一回ウチの話を...」
しかし!ここまで来てしまったら止まれないのが主人公というもの!俺は更に気合を込めた!!
「うぉおおおおおおおッ!!」
おお!?来た来た来た!!何かが俺の体の内側からこみあげてくる感触!!
「もっと!もっとだァ!!」
俺は足を踏ん張って腹筋に力を入れた!!体中に力が漲っていくのを感じる!
「がぁッ!で、出るぞ!!みんな!危険かもしれないから離れていてくれ!!」
と、ここで俺は重大な問題に気づいてしまったのだ!
(し、しまった!主人公の能力なんて、下手したら町一つ破壊しかねないじゃないか!!)
けれど、今更気づいてしまった所で、時すでに遅し!俺の体内で暴れるエネルギーは、もはや留まるところを知らないのだッ!!
「く、来るッ!!俺の特能ッ!!」
出るッ!!!!!!
「ブリュッ!!!」
(ん?.....ブリュ?)
俺はお尻に当たる温もりを感じた。そして直後、俺へと突き刺さる、お尻とは正反対に冷え切った二つの視線。
「・・・・えっw」
「・・・・本気ですか?」
あーあ!!お尻から特濃、出ちゃった!笑
「サキちゃん、トイレは、どこかな?あ、
俺は左手でおしりの周りをソフトに抑えながら、横にいたサキちゃんに御手洗の場所を尋ねる。
サキちゃんは、この世の全ての不浄が目の前に固まっているかのような目で俺を見ながら、3歩後退する。
「この部屋を出て右です近づかないでください。」
(....ふぅ~~っ)
....どうなる!?俺の未来生活!!
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