雨と銀が重なり合う描写に、自然と足を止めさせられるような掌編でした。
霞んだ硝子や雨音、湿った空気が続けて描かれることで、情景がじわじわ立ち上がってくる感覚があります。
言葉は硬質で密度が高いのに、読みづらさよりも、文を追う心地よさが先に来るのが印象的でした。
多くを語らずとも、行間から状況や出来事を感じ取る余地があり、読み手の想像が自然に誘われます。
短い中に張り詰めた空気が保たれていて、雨の存在が物語の背景というより、全体を包む気配として残りました。
一度で終わらせず、もう一度読み返して、言葉の響きを確かめたくなる一編です。

私個人の嗜好として長篇より短篇、短篇より掌篇が好ましいと思っている。言葉数を減らすというのはかなり大変な作業で、苦悩して苦悩して言葉を選ばなくてはならない。だから最終的に残るのは選りすぐられた珠玉の言葉の群れだ。中短篇も素晴らしい完成度のものが多いのに、また更に言葉を厳選した掌篇は、読者に畏怖と陶酔を齎す境地に達している。
高い濃度の言葉の数々を丁重に噛み締める楽しさ。圧倒的な世界観に翻弄される楽しさ。難解な文章に負けまいと、片手で調べ乍ら読み返す楽しさ。
著者の掌篇は、そんな原初的な読書の楽しさを再認識させてくれる。

銀箭とは銀色の矢の様な驟雨を意味する。
目の前が霞む程の雨は、恰も全てを洗い
流すかの様な凄まじき有り様でいて、
同時に水墨画の様な　静止　を見せる。

　四百という少ない文字で驟雨の様を
表すこの掌編。否、白と黒が滲んだ薄墨の
人間模様は、まさに彼岸から死者をも
浮かび上がらせては又、洗い流して行く。

人の業は驟雨に煙る淵よりも更に深く、
一瞬の連続に逢っては、後悔も信用も
　　怨恨も

　　　　　いつの間にか流されて行く。


　只、銀色の矢の降り頻る因果の中で。