第14話 パジルク王

 崖の上に上がってきた、兵を率いてきたパジルクの王は、たしかにラヴァル王に似ていた。

 彼はデデン王に敬意を表しつつも、ラヴァル王を見るとあからさまに嫌そうな顔になる。


 あ、これは、ラヴァル王には交渉が難しいヤツでは?と私でも感じる空気である。


「デデン王、今まで貴方が東の国々のための防衛に尽力いただいたこと、我々東の国々の王は感謝している。デデン王もご存じの通り、あの悪夢の天変地異の影響から我々は未だ立ち直れずに、不甲斐ないばかりだ」

「……そうか……それで、あの兵は?西に行きたいというのはどういう事情によるものだ」

 敵対するつもりはないという主張にも、厳しい表情を崩さずデデン王が単刀直入に問いかける。


「実はタリス王より書が届いたのだ……あの元凶がマイカ国、旧ラヴァル王朝にあり、神を打つ為に神器を集めているので協力して欲しいと」

「……」

「……」

 ??

 私達が出発した後かな?たしかにアレクサンドランス様も神器を結構な数所持していたが、家臣達全員に行き渡る数には足りていなかった。

 なんとなく、タリス王に手紙を書かせて鳥呼びをさせているアレクサンドランス様の様子が背後に見える気がする。


「すでに東にある神器は集めて鳥伝で持たせたが、我々は自らの国の事を理由に、それだけで責任を果たしたとはいえぬのではないかと、常々の思いがあったのだ……そして、先の薬師協会からの通達で開祖様がお戻りになられたと聞いて薬師達がこぞってこちらに出発したのを見て、奮起した……力を持たぬ彼らが自らの危険を省みず前線に出立しているのに、我らが武器を持ち、なぜ国に残る理由があるのか……恥ずかしくもようやく我らがなすべき事に気がついたのだ。我らは此度の元凶である神なるものを討つ」

 バーランドおじいちゃんが感涙しながらメモをとっているが、私の尽力じゃないよ?

 多分、アレクサンドランス様の手紙が原因の気がする。

 なんとなく……めっちゃ上から目線で痛いところをぐりぐりしながらマウントとった手紙を書いてそうだ……。


 ラヴァル王は、めちゃくちゃ納得できない表情で彼を見ている。 

 まぁ、彼らがここで黒兵と戦い出したのは昨日今日ではなく何年も戦い続けている。当然、東の国々に援軍も頼んでいるはずだ。

 ラヴァル王は、元ラヴァル王朝の王族でもあるし、北大陸統一を謳っている国の王族である。さらにはこうやって東をまとめて兵を出せるくらい従兄弟の力は強く残っていたのだから、当然パジルクは援軍を送ってくると思っていたはずだ。


 今更感は強く、さらに『タリス王の助力願い』をめっちゃ押してくるあたりで、ラヴァル王には一ミリも関係ない!という態度があからさまである。


「なるほど……パジルク王よ、経緯は承知した。実は我らは今、神々の末裔達と共闘し、彼らを駆逐すべく作戦を決行すべき最中にある……助力いただけるのであれば何より心強い。感謝する」

 パジルク王は、申し出を断られないことに安堵したようだ。


「感謝など……今日まで知らぬふりでデデン王に甘えていた我らの怠慢、叱咤され罵倒されても当然の立場だと理解しているつもりだ」

 デデン王は、パジルク王の謝罪を首をふって不要だと示す。


「しかし、我らは戦いのためにこの地を離れねばならない、すでに計画は動き出した。バーランドに仔細を説明させるが、パジルク王には、この土地を、南の門を守っていただきたい」

「……あの門を?……」

「そうだ。あれが最後の砦となるであろう……計画が失敗した場合、我々はむこう千年この先の大地を踏む機会はなくなるだろう……」

「………承知した」

 パジルク王は、思うより重大な役割と察し、真剣な表情で、その申し出を引き受ける。


「基本は門の上からの矢をかける程度ですむが、時々、恐ろしく強い個体が出る……時に門を飛び越え侵入することもある……神器でしか攻撃が通らぬこともある……タリス王の要請で神器を手放したとのことだが……武器は?」

「私と家臣2人が剣を持っている……」

「…………んん?!」

 私はその申告に彼の武器をみると、そこにはリドフェの片手剣があった。


「あああああああ!!!」

「ど、どうした?!」

「開祖様、いかがしましたか?!」

「それ!!それ!!それ!!神器!!!リドフェの神器だよ!!」

「?!」「!!」「!!」

 パジルク王が、私の指摘に驚きつつ、腰から剣をとった。


「私の剣を開祖様はご存じですか?」

 私は差し出してくれたそれを確認させてもらう。 

 間違いない……リドフェの片手剣だ。

 リドフェは武器を次々乗り換えるタイプではないので、神器はほぼ存在しない。これ一本だ。

 この少し刃が沿っているナタのような形が特徴的な片手剣である。


「間違いない……これ、どこで拾ったの?……王の祭事でもらったものじゃないよね?」


 リドフェがずっと持っていたものなので、祭事で与えたものではないだろうと聞いてみると、急に空気が凍った。


 あ……しまった。


「そ、そうじゃなくて、王の正当を疑っているとかじゃなくて……」

「……さすが開祖様……よくご存じのようですね……かつてパジルク王が受け継いだ宝剣はラヴァル国に奉じております」

 パジルク王は、ちらりとラヴァル王をみた。


「……」

「……」

 ラヴァル王が背にかけた大剣をとって置いた。


「これが、パジルク王の宝剣です……パジルク王……今更ではあるが……長きに渡り無断でお借りし、申し訳なかった。神器をお返しする。そして、そんな私が言えた事ではないが、その片手剣をお借りできないだろうか」

 ラヴァル王の言葉にパジルク王は少し眉をあげて驚いたようだ。

 そして、ちらりと私を見た。

 な、何?


 パジルク王は、その剣を握った。

 そして……引き上げようとして……止まる。


「………」「……」「……」

 そっと手を戻す。


 あ、重くて持てなかった?…………ね?


 微妙な空気が部屋に流れる。


「このような状況だ。剣は一旦『貸し』ということで貴方に預けておきましょう……片手剣については、開祖様が願うのであれば、薬師協会に奉じるという形でもかまいませんよ」

「!!」「!!」

 バーランドおじいちゃんと思わず顔を見合わせてしまった。

 薬師協会に奉じるって……くれるってこと??ちょっと、パジルク王気前が良すぎない?!王の儀式でもらった神器ではないにしても神器だよ?


「勿論、神器を奉じる我々の献身をどのように報いていただくのかは、今後の薬師協会の協会長等々の人事によって……おいおい」

「……」「……」

 ただではなかった。どうやら薬師協会の偉い人になりたかったようだ。

 パジルク王……ちょっとズレている感覚の子かもしれない。

 なんか、小物感がすごいね?


 いや、まてよ!!本当は、もしや謝礼は不要だけれど、気を遣われちゃうから適当にお返しを要請した??

 バーランドおじいちゃんはすっごい嫌そうな顔でパジルク王を見た。


「薬師協会の人事は薬師の育成と薬草学にどのような貢献があったかで決められるものであるので、そのような寄附で決められるようなものではありませぬ」

 しっかり、しっかりNO!の返答にもパジルク王は、にこにこしている。


「勿論、私も横暴を働く気はない。パジルクからの推薦人が基準に見合わなければ拒否してもらっても良い。だが、昔と違って、大陸の中心は東にある今、時代に合わせて薬師協会のあり方も東によってもおかしなことではない……このようなことになって、マイカ国やラヴァル国の薬師が薬師協会の主軸を担うのは的外れというものだ」

「……」

 バーランドおじいちゃんは、ごもっともな正論にぎりりする。

 デデン王もまた、拒否権付きの提案なので、断る理由もないだろうとバーランドおじいちゃんを見る。

 

「開祖様のご意向を差し置いては」「いいと思うよ?」「!!」

 バーランドおじいちゃんが、良いのですか?!という顔になる。


 私には薬師協会のことはわからないけれど、額面通りに受け取るなら、人事にむいた人を推薦したいって事だしね?


 それに、パジルク王が言う通り東の国が今後すくなくとも数100年の間は中心に経済を回していくことになるだろう。

 黒を殲滅しても、土地はすぐには戻ることはない。大陸のどちらが中心か考えなくてもわかる。

 

「ただ、パジルク王、薬師協会が今後どうなっても、薬師達には、黒の殲滅の後に土地を取り戻すために力を貸してもらうことになるので、相応の理解と協力をお願いすることになるよ」

「承知しました」


 とりあえずリドフェの神器が手に入ってよかったね!!

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