第13話 出立?

 翌朝、カリス達は予定通りマイカ国に向かって黒達を駆逐しながら進み始めた。


 そして、マイカ王とデデン王も部下達を呼び計画を説明すると、最も確実な方法について知恵を出し合う。


 薬師達は、戦場で使えるようにと基礎薬をとにかく作りまくった。勿論、私も薬師として基礎薬を彼らとともに作りまくる。時間の経過とともに、東の大陸にいる薬師さん達が基礎草をもって続々と集まってくれたので、さらに基礎薬の生産量は、刻一刻と増えていった。

 

 レドの作戦では、北大陸の半分程度を囲むほどの素の道を作るので、時間がかかり何の妨害がなくても6時間程度必要だとの事だった。


 つまりは、最低でも6時間は強襲に耐える必要がある。彼らを行動不能にできる基礎薬は、それなりに武器となる。


 計画は、最終的には黒達が行動しない夜に紛れて、それぞれの担当の拠点の傍まで移動し、防御に有利な布陣をしてもらった後に、神器を鳥が後から届ける形になった。


 問題というか……懸念があるとすれば、レドが素を繋ぐまでの6時間の間に南の門が手薄になる事だ。

 デデン王もラヴァル王もこの拠点からほとんどの兵を連れて離れるため、南の門が狙われると容易に突破され、そこから黒兵が東に侵入する可能性がある。


 だが、だからといって、そちらにさく兵力はなかった。


 昨日、レドが一掃したため、今はまだその影すら見えてはいないが……レドの言う通り、素が西に集まり黒兵が再生しているなら、その前日にカリスが滅したかなりの数の兵達の素や魂も再生している可能性もあるので油断ならない。


 だが、私にできる事は限られている。

 各々ができる事を、最善を尽くすしかない。 私はその日、基礎薬をひたすら作る作業に没頭した。


 こうして、あっという間に一日が終わる。


 日が落ち、篝火が焚かれ始めると、兵達の準備が揃い、いよいよ出立となる。


 今日1日、黒兵の姿は見えなかった。


 もしかしたらマイカ国側に攻め上っているカリスの対応に追われて、こちらに目がむいていなかった可能性もあるが……。


 その静けさが、嵐の前の不気味な静寂のようにも思えた。


 兵が揃いいよいよ出陣である。

 皆が、緊張の面持ちで、出立の宣言を待つ。

 テントから出てきたラヴァル王は、中央に立つデデン王の前に進でると……跪いた。

 その様子に周りの兵達がざわめいた。


「今日まで共に戦えた事……光栄に思う……これは、文字通り私達の最後の戦いになるだろう……我々はもうここには戻らぬ覚悟だ……願わくばこの世界が……この大陸の光が我らの去った後も健やかに輝く事を心から願う」

「……」「……」

 ラヴァル王の後ろにいた家臣達が、ざっと同じように跪く。


 デデン王は、静かに彼の言葉をうけとる。

 そして、ラヴァル王を立たせ、強いハグをした。

「ーー……」

「……」

 ラヴァル王は、驚きに目を開く。

 

 デデン王は、そっと彼を離し、今一度その眼差しでゆっくりと、彼を見る。

 そして、胸を軽く自身の拳で叩く。


「友よ、善き日に再会を果たそう。我々は友とともに再会の祝杯をあげる日を忘れることなく待とう……それが何十年、何百年後となろうとも……我らは友の名を忘れることはない。それがデデンの誇りだ」

「ーー……」


 デデン王の言葉に家臣達が追随するように胸に手をあてて、誓いを示す。

 その瞳には、誰もが友の帰りを、無事を願う心が、尊敬と信頼だけが宿っていた。


 ラヴァル王は耐えきれぬ感情に、目を潤ませた。家臣達は視線を伏せながら啜り泣く。


 ラヴァル王は、デデン王に促されるようにして、応えるように胸に手を当てる。

 震える唇が、きゅっと引き結ばれる。

 その瞳は、その姿を刻むようにしっかりとデデン王を見据えた。


「善き日にまた会いましょう」


 その言葉と共にふわりと笑ったラヴァル王の瞳からポロリと涙がこぼれ落ちる。

 デデン王は、微笑みながら、力強いハグで再度彼を抱きしめた。


 善き日に……。


 明日を誓う2人の言葉に、皆が同じ言葉を胸に刻み反芻し、その言葉に込めた意味を悟る。



「出立!!」


「デデン王!!大変です!!」

「?!どうした?!」

 

 デデン王が力強く宣言した直後、バーランドおじいちゃんが転げるような勢いで飛び込んできた。

 皆が何事かと緊張に彼を見る。


「大陸の東……東の国々の兵が南門に大挙してございます!!」

「?!」


 その言葉にデデン王がすぐに走って崖の上から見る。

 そこには、無数の明かりに照らされた兵達がいた。


 彼らのもつ国を現す旗は様々な紋様があった。

「どういう事だ?」

「彼らがいうには南の門を開けと」

「………」

「……」

「……まずは、話を聞こう……代表はおるのか?」

「一応東の連合国の代表はパジルク王が名乗っております」

「……私の従兄弟だ……私が話をしよう」


 ラヴァル王が対応を買って出る。


 大国が大国のご親戚というのはアルアルであるので、へぇ……という思いであるが、なぜこのタイミングでこんなにも兵を率いて彼らが西を目指すのか、何やら偶然の一致では片付けられないタイミングを感じる。


 だが、すでに計画は始まっている。

 ラヴァル王もデデン王も到着が遅れれば遅れるほど、自軍の不利になりかねないので一刻の猶予もない状態である。


 ささっとまとまる話だといいけど……。

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