第10話 料理人、異世界のゲテモノを捌く
「ハルト、これは食べられそうか?」
『オイラも持ってきたぞ!』
ゼルフとコールダックはお互いに競うように何かをたくさん持ってきた。
食材が確保できるうちは、この世界のものを食べることにした。
初めはゼルフがコールダックを見つめていたが、少し可哀想に思い、別のものを探しに行かせた。
「これは……うなぎ?」
「リヴァーイールっていう獰猛な魔物だな」
バケツに入っているうなぎのような魔物はパチパチと電気を放ちながら泳いでいる。
電気を放つうなぎって言われた方がしっくりくる見た目をしていた。
「えーっと……お前は……」
『ジャーン! オイラの大好物だ!』
「ヒィイイイイ!?」
コールダックが咥えてきたのはカエルだった。
特段カエルが嫌いなわけではない。
ただ、大型犬サイズのコールダックが咥えてくるほどのカエルだ。
「中々でかいな!」
俺よりも身長が高いゼルフと同じくらいの手の大きさをしている。
バスケットボールのように丸々としたカエルをガシッと捕まえて、こっちに見せつけてきた。
「うわっ……」
若干引いている俺にカエルはペロリと舌を出して舐めてきた。
「うぉおおおおお! 今すぐに捨ててこい!」
全身の身震いが止まらない。
鳥肌なんて生ぬるい。皮膚の下を氷の針でなぞられているみたいで、全身がぞわぞわとする。まるでホラーだ。
『めちゃくちゃ美味しんだぞ!』
「らしいぞ?」
ゼルフは今も俺にカエルを押し付けようとしてくる。
だが、また舐めてきそうで気持ち悪い。
「カエルが美味いのは知ってるから、そいつを仕留めてくれ!」
「やっぱり美味いのか! 任せろ!」
ゼルフは剣を鞘から抜くと、一瞬でカエルにトドメを刺した。
「これでいいか?」
「うぉおおおおお!」
剣の先にはカエルが突き刺さっている。
長い舌がダラーンッと出ており、それはそれでさらに気持ち悪さが増している。
こいつらは気にならないのだろうか。
コールダックに至っては、カエルを見てよだれがダラダラと流れている。
「はぁー、キッチンカーに運んでおいてくれ」
「わかった!」
ゼルフは嬉しそうにうなぎとカエルを運んでいく。
異世界のうなぎとゲテモノで何を作ろうか。
それよりもまずはあいつらを捌くところから始まるからな。
「あー、やっぱり気持ち悪いな」
俺はガスコンロでお湯を沸かすと、カエルを塩と湯でぬめりを落としていく。
あっ……ちなみに俺はお湯をかけるだけで、ぬめりを落とすのはゼルフに任せている。
「そのまま皮を剥いだら教えてくれ」
カエルには独特の匂いがあると聞いたことがある。
食べる部分はほぼ足の部分だけど、ぬめりをしっかり取らないと何をしても不味くなるからな。
幸いなことに味は鶏肉と白身魚の中間らしいから、調理はしやすそうだ。
「はぁー、うなぎって捌いたことないんだよな……」
もっとめんどくさいのがうなぎの方だ。
体が強い粘膜に覆われているから、ぬめりが強い。
それにしっかりと固定をしないと、ヌルヌルとして暴れてしまう。
本当は金属の串とかで固定するが、さすがに固定するものもないしな……。
「あー、ゼルフよ。君の剣でこいつの動きを止めてくれないか?」
「あっ、いいぞ!」
「えっ……いいのか?」
「こいつ美味いんだろ?」
試しにゼルフの剣で目打ちできないか聞いてみたが、思ったよりも快く引き受けてくれた。
それだけうなぎに期待を寄せているのだろう。
まな板にうなぎを置くと、ゼルフは勢いよく剣を突き刺した。
――バリバリバリ!
その瞬間、電気が勢いよくキッチンカーに伝っていく。
ああ……これは完全に電力系が壊れた気がする。
試しに冷蔵庫を開けてみたが、電気が付いていたからよかった。
それに獰猛と言われているだけのことはある。
大きくキッチンカーが揺れるほど、バタバタと動き続けていた。
「カエルの準備はできたか?」
「皮なら剥いだぞ」
俺はうなぎが息絶える間に、カエルのお腹を開き、内臓を取り除いていく。
主に食べるのは後ろ脚になるため、関節に沿って包丁を入れる。
すると切り分けたカエルの脚は鶏肉に似ていた。
残りの部分はスープの出汁とかに活用するのが良いだろう。
「こいつも動かなくなったぞ」
うなぎもやっと諦めたのかその場で息絶えていた。
俺は左手で腹側を押さえ、右手に持った包丁の刃先を頭の後ろ、剣のすぐ外側に当てる。
包丁を腹側から尾へ沿わせて滑らせると皮と身が音もなく割れていく。
うなぎの皮は思ったほど堅くはなく、包丁は骨に沿って素直に進んだ。
白い肉が露出すると、薄い脂がにじんで光っている。
「また石ができてきた」
「ああ、こいつも魔物だからな」
うなぎの中から黄色の魔石が出てきた。
魔石はお金にもなるからと、ゼルフに残しておくように言われている。
その後も作業を続けていくと身は少なくなったが、無事にうなぎも捌くことができた。
初めてにしては中々の出来だろう。
俺はゼルフに剣を返すと、布でぬめりを落としながら拭いていた。
剣をあんなことに使って申し訳ないな。
だが、俺はちゃんと確認したぞ。
「こいつらで何を作る気だ?」
剣の手入れを終えたゼルフはすぐに戻ってきた。
「せっかくだからうなぎの蒲焼とカエルの天ぷらにするつもり」
「何かわからんがうまそうだな」
すでにゼルフからよだれが出そうになっていた。
両方とも淡白な白身だから、きっと美味しいだろう。
俺は早速フライパンを火にかけ、油をほんの少し入れる。
うなぎを置くと、じゅっと音を立てながら、皮が反り返って弾けた。
脂が浮き上がり、焼き色がつく頃には香ばしい匂いが周囲に広がる。
「もう食べれるか?」
「いや、まだだな……。ってか邪魔だから外で待っててくれ!」
段々とゼルフがフライパンの中を覗いてくるから、邪魔で中が見えない。
ゼルフは少し寂しそうにキッチンカーから降りると、外からコールダックと共に窓から覗いていた。
よほど何を作っているのか気になっているのだろう。
昨日は毒を入れていないか見ていたのに、そのことすら忘れていそうだ。
一度うなぎの身を返し、余分な脂を拭き取ってから、手作りのたれを垂らす。
しょうゆとみりん、砂糖が混ざった液が熱で泡立ち、とろりとした艶が身の表面を覆う。
焦げつく寸前で火を止める。
甘い香りが残り、照りの中に油の粒がきらりと光った。
網などなくても、十分に食欲を誘う色と匂いが広がっていた。
「次はカエルの天ぷらだな」
酒に漬けておいたカエルの脚の水気を取り、水で溶いた衣にくぐらせて、多めに入った油の中に入れる。
衣が音を立てて開き、カエルの白い肉がふっくらと膨らんでいく。
水分量が多いのか、油がパチパチと飛んでくる。
表面が淡い金色に変わったところで、箸先で軽くつつく。
衣がパリッと割れ、中から湯気が立った。
どうやらしっかり揚がっているようだ。
あとは下にキッチンペーパーを敷いたバッドに置いて油を吸わせれば完成する。
「お前らでき……あれ?」
さっきまで窓から覗いていたのに、いつのまにかどこにもいない。
あれだけ楽しみにしていたのに、どこに行ったのだろうか。
チラッと窓から覗くとゼルフの姿が見えた。
俺はキッチンカーから降りて、ゼルフに声をかける。
「おーい、でき……ってなんだこれ!」
キッチンカーの前には大きなイノシシと剣を構えるゼルフの姿があった。
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