二章 助手ができました。女子二人に囲まれています。

2-1

 明くる日の放課後。

 涼介は不良として悍ましい噂もあるクラスメイトの東美波との約束のため、ファミレスへ向かうつもりで昇降口まで来た。

 いつもは直帰する涼介が珍しく寄り道の予定を考えていると、彼を見つけた小柄な少女が歩み寄ってきた。


「涼介くん。もうお帰りですか?」


 ロッカーから靴を出し掛けた涼介が聞き覚えのある声のした方へ振り向くと、学校指定の鞄を小脇に提げた平野有紗が興味を抱いた面持ちで涼介の横に立っていた。

 有紗は目的を探るように彼の全身を眺めたが、答えが推察できずに口を開く。


「今日はいつもより少し早いお帰りですね。何かご予定でも?」

「まあ、ちょっとね」


 有紗は涼介が親しくしている数少ない生徒だが、そんな彼女が相手でも美波との関係が知られるのは心理的に躊躇を感じた。

 平野さんは僕が師匠と呼ばれていても事情さえ知っていれば納得してくれだろう。それでも東さんからすれば誰であろうと言い広めて欲しくはないだろう。他の人に知られてもいいのなら、僕と二人きりで会おうなんて考えないはずだ。

 涼介は美波の心中を察したつもりで秘匿が正しいと判断したが、涼介の思考など知らない有紗は純粋な興味の目で質問を重ねる。


「記録大会が近いこの時期に予定、というのは少々気になります。メモリースポーツに関係することですか?」

「ま、まあ、僕、人を待たせてるから」


 咄嗟に嘘を思いつかなかった涼介は事実と変わりない口実を作って立ち去ろうとした。だがすぐに自身の発言のミスに気が付いた。

 待ち合わせしてることバラしちゃってる!

 案の定、有紗の表情が驚愕に染まり、もともと大きい目をさらに見開いた。



「涼介くん。誰かと待ち合わせですか。相手は誰ですか?」

「……誰でもいいだろ」


 やけくそに告げて更なる追及が有紗の口から出ないうちに昇降口を抜けることにした。

 だが有紗は涼介が逃げるのを予期したように涼介の制服の裾を掴み、無理矢理その場に留まらせた。

 返答を聞いてますます興味が強くなった瞳で涼介を見上げる。


「一緒に帰りましょう涼介くん」

「なんでその答えに至ったの?」

「涼介くんが待ち合わせてるのが誰なのか気になります。会ってみたいです」

「……僕一人だけの判断じゃどうにも答えられないよ。本人がどう思うかわからないじゃないか」


 自分が待ち合わせている人物が校内問わず名の知れた不良女子である以上、独断で有紗を連れて行くと癪に障るのではないか、と恐さがあった。

 しかし有紗は涼介の躊躇も意に介さず確信ありげに微笑む。


「涼介くんがメモリースポーツ抜きで他人と仲良くなれるとは思えません。その人、涼介くんの正体を知ったうえで待ち合わせてるんじゃないですか?」

「……正、解」


 歯切れ悪くも渋々で涼介は肯定した。

 自身の推察が当たったことに有紗は嬉しそうに笑う。


「どんな人かはわかりませんが、涼介くんの実力を認める者同士ぜひともお知り合いになりたいです」

「いいのかなぁ?」


 肯定してしまった手前、今さら連れていけないと言いづらくなってしまった。

 頭の中の美波に謝りながら涼介は有紗の同伴へ考えを傾けた。


「早速行きましょう涼介くん」


 有紗が涼介の肩を押すようにして促し、自身のシューズロッカーから靴を出して嬉々と履き替え始める。

 平野さんは口が堅いから多分大丈夫だろう。

 そう思い込んで涼介は自分へ言い聞かせ、ロッカーの前で外履きの靴へ履き替えた。

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