第10話
空間の歪みが静まり、辺りを吹き抜けていた風も、まるで行き場を失ったようにすっと消えていった。
星環の光を受けて淡く輝くサークレットに手を添え、女は小さく息を吐く。
「……すまないね。半径数メル以内に人がいないよう登録していたはずなんだが、どうやら想定以上に影響が出たようだ」
ほつれかけた白金の三つ編みを指でなぞり、彼女――アルマ・ヴェルデイアは視線を周囲に巡らせる。
散らばる木の葉を一瞥したのち、その淡い青の瞳が静かにセツリたちを捉えた。
「……逢瀬の最中に恐縮だが、少し聞きたいことがあってね」
その声音には柔らかさと、どこか人の理を超えた冷ややかさが同居していた。
セツリは背後にいるクララの不安を悟りつつも、振り返ることなく正面のアルマを見据える。
「僕たちは、やましいことなどしていません。……聞きたいこととは?」
そのまっすぐな眼差しに、アルマは口元をわずかに緩めた。
「若いのに、なかなか肝が据わっているな……。――後ろの彼女は、どうやら満更でもないようだよ。世の女性は往々にして、自分を守ってくれるナイトに憧れるものだ。」
その言葉に、セツリは思わず後ろを振り向く。
そこには、頬を染めてぼんやりと彼を見つめるクララの姿。
まるで何か魔法をかけられたかのように惚けている彼女を見て、セツリは再びアルマに視線を戻した。
クララは、アルマに悪い印象を抱いていないようだった。
むしろ惹かれるように一歩前へ出て、少し恥ずかしそうに問いかける。
「それは……賢者様も、ですか?」
その言葉にアルマはきょとんと目を瞬かせ、やがて俯いたままクツクツと小さく笑った。
「……あぁ、そうだったかもしれない。――かつては、ね」
遠くを見つめるようなその瞳には、懐かしさと哀しみが揺れていた。
二人は警戒していた心をいつの間にか緩め、今度はクララが口を開く。
「それで……賢者様のお聞きになりたいこととは、一体?」
アルマはゆるやかに視線を戻し、二人を見据える。
声の調子が、ひときわ静かに、深く沈む。
「――教えてほしい。
二人のうち、どちらが“理と人の狭間にある力”……第六のギフトを授かったのかを。」
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