第12話 付き纏うイト1
◇
「
ど迫力の赤髪スパイラルパーマがトレードマークの
コミュニケーションよりも自分の興味の方が大切で、会話をせずに生きられるならそうしたいと真剣に願っている。
凛華には、そんな陽太のことが珍獣のように見えるらしく、どうしても仲良くなりたいからと言っては、距離を縮めようとして頑張っていた。
「陽太は飲み会には来ないよ。よっぽど興味があることが起きない限りね」
それを聞いた凛華は、髪をクルクルと指に巻きつけながら頬を膨らませて「ええー?」とむくれていた。凛華は、とても陽気で明るい。それこそ、陽太とは真逆のタイプにあたる。桃花には、どうして凛華は陽太にそこまで執着するのだろうという疑問が、いつもあった。
「なんでそんなに陽太じゃないとダメなの? なんか面白そうだなーってだけなんでしょ?」
「だって川村くんみたいな人、私の知り合いにいないんだもん。穏やかで口数少なくて、笑う時なんて微笑む感じじゃない? そんな人、今まで見た事がないから。みんなガハガハ笑う、雑な人ばっかりだったからさー」
「あんたねえ。これまでの知人一同に謝りなさいよ。それ、私も入ってるでしょ!」
桃香が凛華の額を指でピンっと弾くと、えへへと笑いながら凛華は頭を掻いた。
「確かに陽太は穏やかに見えるからね。でも、興味が湧くとものすごい前のめりになるよ。それこそこっちが引いちゃうくらい」
「えー、それなら私にそれくらい興味持ってくれたらいいよねえ」
桃花は、身を捩りながらそう言い切る凛華の姿に、少し呆れてしまった。色恋以外の話なら、凛華と桃花はとても気が合う。ただし、いざ恋愛の話になると、どうしても合わないと感じるところがあった。
そもそも凛華には、とてもかっこいいと評判の彼氏がいる。それなのに、わざわざ陽太に近づこうとする理由も分からない。
「凛華って彼氏いるでしょう? なんでわざわざ陽太に近づかないといけないの?」
何気なくそう訊くと、凛華は顔を曇らせた。そして、突然語気を荒げて桃花に噛みついてきた。
「彼氏がいるのに違う男の話をしてるってことは、うまくいってないってことでしょ!」
「えっ?」
その勢いの強さに、桃花は驚いた。話したくないことがあるのなら、深入りしない方がいいかも知れない。それでも確認しておきたいことはある。陽太に遊びでちょっかいを出されては困るのだ。
陽太は、桃花にとって大切な幼馴染だ。凛華が気まぐれに近づこうとしているのなら、それは阻止しておきたい。陽太は異性に慣れていない。桃花以外とは、挨拶を交わすことも難しい。
事務的な話や発表など、目的のある場合はそれでもどうにか対応出来る。ただ、雑談となるとかなり難しい。事前に詳細を聞いておいて、陽太を少しでも傷つける可能性があるなら、相手がどんなに自分と仲のいい友達であっても、絶対に紹介はしないようにしている。
「別れたってわけじゃないんでしょ? 陽太は人間関係が得意じゃないから、あまり揉め事に巻き込みたくないんだけど……」
すると、桃花の返しが気に入らなかったのか、凛華は桃花を睨みつけた。そして、いつもの凛華であれば絶対に言わないであろう言葉を、桃花へと投げつけてきた。
「別に川村くんはあんたのものじゃないでしょ!」
桃花は、凛華のあまりの怒りように呆気に取られてしまう。これまで一度も見たことがないような憤り方に、凛華に何かあったのかと心配になって来た。
「いや確かにそうなんだけど……。ねえ、なんか怒り方激しくない? 凛華らしくないよ」
一般的な幼馴染という程度であれば、確かに出過ぎた真似かも知れない。それでも、陽太の人嫌いの程度を考えると、これくらいの口出しはしても大丈夫だろうと桃花は思っている。
たとえ恋人じゃなくても、大切だと思う人は出来る限り守りたいと思うものだろう。桃香がそう考えていると、凛華が今度は突然ボロボロと涙をこぼし始めた。感情の浮き沈みの激しさに、桃香だけではなく、凛華自身も驚いているように見える。
「えっ!? ちょ、ちょっと、どうしたの? 何があったのよ。陽太の話はいいから、自分のことをちゃんと話してよ」
桃香は、子供のように嗚咽を漏らす凛華に歩み寄った。普段の凛華は、あまり感情の波が負の方へ寄ることは少なく、いつもカラッと陽気に笑っているような子だ。
それがこんな泣き方するなんて、よほどのことがあったに違いない。そう思って、彼女に手を伸ばした。手を握ろうとしてそっと触れた瞬間、凛華はぎゅっと目を瞑り「うっ!」と呻き声をあげた。桃花はその異様な痛がり方に疑問を持った。逃げようとする凛華の手を掴むと、そのままぐっと引き寄せる。「痛い!」と喚いた凛華の服の裾を、強引に少し捲り上げた。
「何、これ……」
そこには、大小様々なあざがあった。まるでそういう模様の服を着ているかのように、隙間なくひしめき合っている。それが全て、服を着ていれば人に見られないような場所にばかりあることが、そのあざの異常性を物語っていた。
「凛華、これ…」
「ケガしただけよ、なんでもな…い、か…ら…」
凛華はそう言いながらも、突然フラフラと不安定な状態に陥った。体が左右に大きく揺れている。そして、視線も定まらず、左右に大きく振れていた。
「めまいがするの? 大丈夫?」
そう言って彼女を支えようとしていると、突然凛華の体から力が抜け、倒れ込んでしまった。
「凛華! ねえ、凛華!」
桃花は座り込んで、凛華の体を支えた。その顔を見てみると、いつの間にか顔にまであざが浮かび始めていた。
——あれ? この模様どこかで……。
体にあるあざをじっくりみる事は出来なかったけれど、顔に出たことでその模様に気がつくことができた。桃花はどこかで見たことがあるその模様を思い出そうと、記憶を辿る。
「あ、これ……」
思い至って、左腕の袖を捲った。そこに、一つだけではあるけれども、似たようなあざがあった。
「え? これ、よく見たら全く同じ?」
桃花は背筋に冷たいものが這うのを感じた。何か恐ろしいことが起きようとしているように感じる。
あざだらけで情緒不安定な友人、左腕に現れている全く同じあざ。それが意味するものはなんだろうかと思い悩んだ。
「病気? ケガでできたあざなら、こんなに同じ模様になるなんて不自然すぎる」
そう思いどうしようかと考えていると、後ろから男性に声をかけたれた。
「桃花ちゃんだよね?」
桃花が振り返ると、そこには長身で赤い髪の男性が一人立っていた。
◇
ふっとそこで映像が途切れた。
「あの、どうしたらいいですか? 凛華はまだ眠ってて……」
「心配せずとも良い。いいか、今から元いた場所に戻れ。そして、あの娘を医務室に連れて行ってやれ。あとは私が片付けてやる」
そして、桃香の額をトンっと指で突いた。すると、桃花は夢を見ているような半眼になり、そのまま無言でもといた場所へと戻って行った。
貴人様はその様子を確認すると、短く息を吐いた。そして、額に手を当てて思い悩むような仕草をした。
「……イトか。全くあいつらは本当に懲りないな」
そう呟くと、スウっとその場から姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます