最終話

翌朝。街はまだ、昨夜の余韻をほんのり残していた。

ステテコパンツとこんぼう姿のアレンが、荷物をまとめて出発の準備をしている。身ぐるみを剥がされているため、まとめる荷物も実際はない。

「さすがにこの装備はきついか……レベルを上げてから出直すか、それとも前の街に戻るか……」

そんな選択肢が頭をよぎる。


と、子どもたちが駆け寄ってきた。


「ステテコ様ー!」「街のみんなから、プレゼントがあるんだ!」


子どもたちの手には大きな袋、開けてみると昨夜の祭りでビンゴの景品になったアレンの壊れかけた剣や鎧、防具の破片が、鍛冶屋や大人たちの手で丁寧に修理され、包まれていた。


「ステテコ様ー! みんなで直したんだ!」

「本当は景品だったけど……やっぱり勇者様に使ってほしいって!」

「ステテコ様のままじゃ魔王に負けちゃいそうだもん」



「そうだよな。俺もステテコのままだと負けそうな気がしてた」

アレンは苦笑しながら、嬉しそうに子どもたちを見渡した。


「ありがとう」

アレンは目を細め、静かに頭を下げた。

装備を整えてステテコ様改め勇者アレンは再び旅立つ。


子どもたちは手を振りながら、「ステテコ様、行ってらっしゃい!」

「またお祭り一緒にやろうね!」と声を弾ませる。

アレンも笑顔で手を振り返した。アレンの格好を真似したステテコパンツとこんぼうの小さな勇者達に見送られながら、胸に決意がじんわりと広がる。


「勇者の剣をこの街に飾って置きたかったけどな、ステテコパンツとこんぼうを飾らしてもらおうか?」と市長は大きく笑った。


アレンは修理された剣を再度見つめ、歩き出す。


「……必ず、また帰ってくる」

誰に聞かせるでもなくつぶやくと、子どもたちが一斉に「待ってるよー!」と叫んだ。


市長はアレンを見送りながら、にこりと笑った。

「よし……祭りも盛大にやったし、街のみんなで勇者を送り出せた。となれば――いよいよ勇者の像じゃ!」


「今日から働くんじゃなかったの〜?」と周りがざわめく。


市長は胸を張って叫んだ。

「あのせっかちな勇者のことだ。こっちがモタモタしていると、すぐに魔王を倒してしまうぞ!」


「そうだ!そうだ! 祭りする前に出ていこうとしてたもんな!」

「早く銅像を作り始めないと!」


市長は力強くうなずいた。

「祭りを一緒にやってくれたから、パンツ一丁の像は勘弁してやろう! ワシは約束を守る政治家だ。立派な像を作ろう!勇者アレンここにありみたいな」


すると、子どもたちが一斉に騒ぎ出す。

「ステテコパンツのステテコ様が良い!」


「えっ……祭りやってくれたのに結局ステテコ一丁!?」

「もっと立派な鎧の姿とか……」


大人たちが驚く一方で、子どもたちは目を輝かせて大喜びした。

「ステテコ様の像がいいよー!」

「そうだ!そうだ!」と大人たちも笑いながら賛同していく。


市長は再び胸を張り、威勢よく言い放った。

「ワシは約束を守る政治家だ! だが皆の案も捨てがたい。ステテコパンツはパンツなのか? それとも立派な服装なのか? ここは皆で話し合おう!」


街の広場は笑いと歓声に包まれ、こうして勇者像の姿は決まっていった。





エピローグ

この街に勇者の銅像が建ったのは、アレンが魔王を倒したすぐ後のことだった。

銅像の下の石碑には、こう刻まれている。


勇者アレンが魔王を倒した記念に、我が街の友ステテコ様の像をここに残す。


その銅像は、ステテコパンツとこんぼうの装備で走り回る勇者の姿をしていた。


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祭りの実行委員は勇者様 @saru2000

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