第29話脱出とワールドシステム
「魔王様、魔力はまだありますか?」
全員が牢屋を焦りながら調べている中、落ち着いた声でアーサーが尋ねた。
見ると瓦礫の下の魔法陣の位置を確認している。
「…うん、まだまだ余裕」
「ハル様、鎖が出ている位置と…あとはそこと、あそこ、魔法陣が見えるよう瓦礫をどかしてください」
「わかりました」
「私も手伝うよ」
アーサーの一言で、私たちは即座に動き出す。
「えっ…どういうことですか?」
急に落ち着きを取り戻した二人を見てニチレンだけがうろたえる。
「大丈夫、アーサーちゃんはこういうの得意だから」
そう言って瓦礫をどかしていく。
「魔王様、この場所に魔力を流してください」
「わかった」
そうして魔力を流すとバチン!という音が聞こえる。
ニチレンにつながれていた鎖が消えたようだ。
「えっ、こんな簡単に…?」
ニチレンが驚いていると、
「あとここと…その瓦礫の下、2か所お願いします」
淡々と調べて指示をしていく。
魔力を流していき、最後の1つを流し終わると効力が消えたかのように魔方陣の光とシールドが消えていった。
「よかったです…」
ほっとしているアーサーに対してニチレンは目を見開き唖然としている。
「アーサーさん、どうやって…?王都の魔法陣、魔法使いのファウストさんでも手こずりそうなものですよ!?」
「このタイプの魔法陣はよく研究してましたから。それに図書館に行ったとき同じようなものが書いてある本を見た覚えがあったので」
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
毎度思うけどアーサーは天才だ。
そうでなければケンタウロスを封印するような魔法陣なんて作れない。
今回もまた助けられてしまった。
「アーサーさん、あなたは…いえ、今はいいでしょう。王様を追いかけましょう!」
ニチレンの一言で牢屋を壊し、地上への階段へ向かう。
その途中で『それ』を見つけた。
1つの大きな牢屋の中に『それ』はあった。
宙に浮かんだ球体。
それを取り囲むような機械。
石の台にキーボードのような何か打ち込めそうなものがある。
そして宙に浮かんだホログラムディスプレイ。
そこには『World System グロム王国 第7代王 ベルク・グロム ■■■■■■■■ 起動完了』と書かれていた。
「なに…?これは…」
私は思わず立ち止まってしまった。
明らかにこの世界では存在しえないような未来的な機械だ。
「グロム王国、ベルク…王国と王様の名前です。前に来た時はこんなものは…」
どう考えても今回の事件に何か関係ありそうだ。
「これ、突破できる?」
牢屋を指さす。
「シールドが張られています、不可能ではないですけど、それまでに絶対見つかります」
アーサーにも目配りするが首を横に振る。
「…今は行こう、契約も今日中の会合だしね」
地上への階段へと走っていく。
そして私たちは見逃していた。
『魔王システム 起動完了』
その言葉が書かれていることを。
「王様!」
私とニチレンが謁見の間に飛び込むと、王様は玉座に座りながら待っていた。
横に二人、誰かが倒れている。
「騎士団の!?なぜこんなことを!」
倒れているのは騎士団の人のようだ。
「抜け出したのか、そこまでできるとは思わなかったぞ」
「答えてください!」
「はぁ、ニチレンよ。何を焦る?こやつらは余に逆らいおったからな。まだ死んではおらぬ」
そう言いながら足蹴にする。
「な!?」
ニチレンはギリギリと歯を食いしばり今にもとびかかりそうだ。
その前に私は前に出る。
「あなたは王失格だね」
「なに?」
「何も考えず私たちを奇襲し、騎士団の人たちまで手にかけた」
「何を言う?余はグロム王国七代目、ベル…」
「いいえ、ベルクさんに言ったんじゃないの」
「あなたを操っている何者かに言ったの」
「…」
「私は魔王なんて呼ばれているけど、こんなことはしない。少なくとも私はあなたのような人は認めない、王としてやってはいけないことをしてしまったから」
「魔王さん…」
ニチレンがこちらを見る。
「ふん!貴様が何を言おうと、余には絶対かなわぬ!」
「それはどうかな?」
にやりと笑う。
「アーサーちゃん!」
手をあげて合図を送る。
「はい!」
いつの間にか後ろに回り込んでいたアーサーが地面に手を当て魔方陣を形成した。
魔法陣から鎖が出て下半身を固定させる。
「なに!?」
さらにハルも後ろから飛び出してきて魔法の糸を手に絡ませ後ろに固定させる。
「ぬぅ!?」
「私、かなり怒っているから。最初から全力で行くよ」
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