第20話町と図書館

次にニチレンに会えたのは夕方の牢屋越しだった。

あまり掃除をしていないのか錆びた鉄の匂いがするのと埃っぽい。

アーサーちゃんを置いてきてよかったかも。

「ご迷惑をおかけします…」

「いや、まぁ私たちはいいんだけど…」

私たちは魔族なので下手に助けようと動くとこちらも捕まる。

知り合いかもと言ったら面会だけはさせてもらったけど。

「すみません、身分を証明できるものは持っていたので通れるとは思いますが、確認に時間がかかるので2日ほどは拘束されるかと」

「2日!?あの、私たちお金もないし泊まる宿も決めてない状態なんだけど」

さすがに王から直々に頼まれてきた人を置いて王都へは行けないだろうし。

「安心してください!こんなこともあろうかと魔王さんの荷物の中にお金を入れています」

「いつのまに!?」

慌てて荷物を確認すると本当に入っていた。

しかも机に立つくらいの札束が。

怖い!この子本当にやばい!

ずれているというよりずれすぎて怖い!

「私も気づきませんでした。不覚…」

ハルも悔しそうにしている。

…というかこんなこともあるかと思っていたのか。


「じ、じゃあ泊まる宿を早く決めないと。日が暮れたら探すのは大変だ」

「宿に関しては私が泊まっていたところを使ってください。転移の手続きに時間がかかるかもと思い1泊広い部屋を取ってあります」

有能なのかそうでないのかわからなくなってきた。

「あー、うん、じゃあ使わせてもらうね」

そして宿の場所などのやり取りとしてからその場を離れることにした。

お金は全て使ってもいいと言われたがさすがにお断りした。

必要な分だけ使ってちゃんと返そう。



翌日、私たちは町の観光へと乗り出した。

「魔王様!こっちへ行ってみましょう!」

アーサーがとても楽しそうにはしゃいでいる。

連れてきてよかった。

「いろんなものがあるね」

というより文明が結構進んでいる。

お金も全部紙幣だったし製紙技術が結構進んでるのかな。

これは図書館もかなり期待できそうだ。


「これは何でしょう?」

見ると雑貨屋の前でハルが板の上に銀色の刃が何枚も連なっているものを持っている。

刃は板とつながっていて上から押し下げると、全ての刃が一斉に動くようだ。

え、ほんとに何それ?拷問具?

「お客さん、お目が高い!それは自動野菜カッターだね!」

「自動?」

そして唐突に人参を取り出した。

「まな板の上に野菜を置いて、上の刃を下ろす」

実演して見せる。

「そうするとあら不思議!輪切り野菜の完成だ!」

「ほんとだ魔王様!自動ですよ!」

ハルが驚きアーサーも目をキラキラとさせている。

いや、手使っとるがな。

「「魔王様!買いま…」」

「買わないからね」

「う…そうですか…」

ハモって言わないで。こんなもの買ったらリッチーさんに怒られるよ。

「残念、なんで売れないんだろうな~」

こういうくだらない発明ってどの世界にも作る人いるんだなぁ。

とはいえこの反応、詐欺かと思ったが真っ当に商売しているらしい。


「お客さん、その格好、旅の人?だったら魔境方面には行かない方がいいぞ」

「はぁ、どうしてでしょう?」

急だね、やっぱり魔族に忌避感とかあるだろうから注意喚起かな。

「最近その近くに行ったんだが、とんでもない数の馬がこっちに向かって逃げてきてたんだよ」

おや?

「気になって見てたら魔物が大量に来てなぁ」

おやおや?

「咆哮をあげて馬を襲おうとしてたんだよ」

おやおやおや?

「そうしたら今度はハーピィの群れが来てなぁ。馬を横取り!持ち上げて落下死させて食っちまったんだ!」

「へ、へぇ…、そんなことがぁ…」

「横取りされた時の怒りの咆哮もすごかったなぁ!だから気を付けた方がいいぞ!何年もここにいるがこれまでそんなこと一度もなかったからなぁ」

「…」

マズい、とんでもない方向へ勘違いされてる。

これ王様に伝わっちゃってたら友好関係どころじゃないかも。

「ん?姉ちゃん、汗すごいぞ、大丈夫か?」

「ひっ!あ、イエ、ダイジョブデース」

「急にカタコトになったが…まぁいいか、体調が悪いなら早く帰んな」

「アリガトゴザイマース。イコウ、アーサーちゃん、ハルさん」

「え?は、はい」

二人とも別の雑貨を見ていたようでこちらに気づいていなかったようだ。

そしてその場からそそくさと逃げた。

見られてたのか…。


その後、一通り見て回った後、一番の目的の図書館へと入った。

ケンタウロスの件が見られていたことは現実逃…後回しして資料探しをするためだ。

「突然魔族や人間が光って事件になったような事象を探そう」

「はい、とはいえ探すためのキーワードが弱いですね。文献を探すのは骨が折れそうです」

アーサーの言う通り、司書さんにこういう資料がないかと聞いてもあまりいい返事は帰ってこなかった。

調べるにしてもかなりの時間が必要そうだ。

「うーん、じゃあ今日はざっと見て回る程度にしておこうか。人族の図書館にはどういったものがあるかも気になるしね」

そう言って回ろうとしていたら突然後ろから声を掛けられる。


「突然生物が光る現象、それだったら300年前の旅行記、カルル・ヴェイルの本に少しだけ載っているのを見たことがあるよ」

「ほんと!?じゃあそれを…ってうわぁ!なに!?誰!?」

急に現れた第三者に私とアーサーは驚きハルが身構えた。


「その反応、傷つくなぁ」


振り返ると男がいた。

片手に杖、頭に帽子、その姿は見覚えがある。

勇者パーティの仲間の1人、魔法使いファウストがそこにいた。


「待ちくたびれたよ、魔王君」

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