第15話足止めの魔王様
後悔していたんだ。
ただなんとなく生きて、なんとなく働いて、甘いものだけが私の娯楽で、なんとなく死んだ。
私の人生って何だったんだろうって。
だからこの世界に来たときは本気で生きてみようと思った。
最初は戸惑ったけど、私のことを慕ってくれる人がこんなにいる!
短くてもいい、この人たちのためにできることを全力でやろう!
だから、私が死ねばいいと思っていたんだ。
ズメイさん、ミトリさんたちとケンタウロスたちが激突する
「だめえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
その寸前、
「魔王様あぁぁぁぁぁぁ!!!」
アーサーを乗せたハルを先頭に1000はいるであろうハーピィたちがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
「なんだあれは!?」
両者ハーピィたちを見上げる。
シールドが割れるほどの勢いでハルとアーサーがこちらに突っ込んできた。私のこと見えないはずでは…?
「うああぁぁぁぁ!!よがっだぁ!間に合いまじだぁ!」
ズビズビの状態でアーサーが抱き着いてくる。
「えぇ?いったいどういうこと?まだ時間がかかるはずじゃ」
「ハル様が封印魔術に詳しい協力者を連れてきてくれたんです!みんなが出発した後すぐに完成して…それで…!」
「協力者って?」
「詳しいことはわかりませんが、人間のように見えました」
一体誰だろう…。ハルさんが連れてきたのだから危険はないと思うけど。
「魔王様」
「ハルさん…」
「この2週間弱、お力になれず申し訳ありませんでした」
これだけのハーピィの数をそろえたり封印魔術のことを調べたり駆けずり回ったのだろう。
ボロボロだ。
「ありがとう」
「…はい!」
そう言ってハーピィたちの応援へ向かう。
「なんだ!こいつら!」
縄のようなものをケンタウロスに巻き付けている。
当たれば一撃だが速すぎて捕まらないようだ。
「胴に括ったぞ!上げろ!」
そう言うと1頭につき10匹のハーピィがひもを引っ張りケンタウロスを持ち上げる。
「おおおぉ!!」
「重ぉぉ!!」
「血祭だぜぇ!ハッハァ!」
うちのハーピィ部隊だろう、言葉遣いが一部おかしい。
「封印術が書かれた布を広げろ!100頭が入るサイズだ!でかいぞ!」
ハルが指揮し自体を把握した魔族たちも手伝い数人がかりで運んできたであろう布を広げていくる。
「ぐす…見ていてください魔王様。絶対に成功させますから」
アーサーも立ち上がり術式が組み込まれているであろう魔法石を取り出す。
「封印します!一斉に落としてください!」
「魔族たちは離れよ!巻き込まれるぞ!」
四天王が指揮し封印の舞台を整える。
「全部隊!!離せえぇ!!」
その声でハーピィたちが一斉にひもを離し地面へ激突させる。
その瞬間、魔法陣が光りだす。
落下ダメージはないようで落ちた瞬間こちらに向かってくるものやハーピィを襲おうとするものも現れるが間に合わない。
「魔法石よ!封印!」
アーサーの言葉で魔法石と魔方陣がさらに光っていく。
「なんだぁこれは!?うおおぉ!!」
その光がケンタウロスたちへ移り次々と魔法石へと吸収されていく。
そして最後のケンタウロスを吸収した瞬間、役目を終えたように魔方陣が光を失い、焼けた跡のような状態となって残った。
「やり…ました…!」
ここ何日もまともに寝ていない弊害か地面へへたり込もうとする。
が、それを防ぐように受け止めお姫様抱っこをする。
「ま、魔王様!?」
最大の功労者をそのままにしておくわけにはいかない。
ちゃんと宣言をしなければ。
「同士諸君…!私たちの…勝利です!!」
「「「うおおおおおぉぉぉぉ!!!」」」
「やったーーーーー!!!」
「うああああぁぁぁ!!!」
その叫びはどこまでもどこまでも続き、近くの人族の町まで聞こえるほどだったという。
封印魔術は成功した。
--数日後--
魔王城会議室にて
「アーサーちゃん、今日の議題は?」
「はい、まずいくつかのハーピィの集落から苦情から」
「苦情?」
「『魔王の部隊は戦争でも起こすのか?』であったり『ハーピィが燃えながら火山へ突っ込もうとしている』『ウチの娘の言葉遣いがひどいことになっているんですけど!』など…」
「すみません、うちの部隊が…」
「ハルの部隊か。見込みがあるな、我が鍛えてやろう!」
すごいうわさが流れている。早く何とかしなければ。
「魔王様?一人で解決しようとしてボロボロになって帰ってくるとかやめてくださいよ」
ミドリさんが言う。
「そんなことしないよ!」
風評被害が過ぎる。
「魔王様はすぐ死のうとしますからな!」
カタカタと笑うリッチーさん。
「えぇ!?そんなこと…」
あるかもしれない。
「ごめんって、もうしないから!」
顔が赤くなる。
「っていうかロンギさん!今アーサーちゃんのこといやらしい目てみてたでしょ!」
「魔王氏!?見てないでござるよ!」
「あ、話題をそらしましたね」
「ふふっ!じゃあ今日も頑張りましょうか、足止めの魔王様!」
「アーサーちゃん!?私その名前認めてないからね!」
そして会議室に屈託のないような笑いが久しぶりに響いていく。
私が笑い、アーサーが笑い、みんなが笑う。
そんな時間がいつまでも続けばいいと思った。
終わり
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