暴走のケンタウロス

第9話足止め、再び

終わりです、魔族は終了となります。私もいずれ勇者に討伐されることになるでしょう。

え?この流れ見たことあるって?

気のせいでしょう。


ことの発端はまた例の伝達係であるハーピィ男がドタバタと走って謁見の間に入ってきたところから始まります。

「ま、魔王様!大変です!」

一緒に会議に参加していたアーサーがビクッと跳ねる。

「どうしたの?今は道路の工事個所についてゾンビさんたちと話していたんだけど」

「申し訳ありません、ですが、ケ、ケンタウロスの群れが」

「?」

「ケンタウロスの群れが急に狂暴化して辺りを荒らしまわっています!」

「ええ!?ちょっと、どういうこと!?ケンタウロスにはたしか長がいたでしょう?長が指揮したってこと?」

「はい、ですので連れてまいりました」

そういって傷だらけのケンタウロスが入ってくる。

「魔王様、申し訳…ありません…」

「えぇ!?大変!早く手当てを!」

「お待ちください、見た目より大した傷ではありません。それより私の報告を」

目は真剣である。

「…わかった、聞きましょう。でも手短に!そして話し終わったらすぐに救護室へ」

「ありがとうございます。では手短に。私の仲間たちが突然光りだし狂暴化、レベル40ある私を吹き飛ばして人族を滅ぼすと言って走り出しました…」

手短すぎる!正直何もわからない…。

ケンタウロスは急に光るのか…いや光らないんだろうけど。

「見ていただいたほうが早いかと」

そういってモニタ型の魔物を連れてくる。

勇者騒動でも活躍した魔物で目の魔物と対になっている言わば遠隔カメラだ。


「ヒャッハー!!俺が最強だ!俺の前を誰も走らせねぇ!」

「ヒトゾク、コロス、ヒトゾク、ホロブベシ」

「はーっはっはっはっは!!殺戮の会場は人族の集落だ!」

「殺すコロスころす殺すコロ助」

そんな言葉を発しながら100体ほどのケンタウロスが道すがらにある障害物を壊しながら進行している。


「ひえっ」

世紀末のヒャッハーさんはここにいたのか。

いやそんなことより。

「この攻撃力は…」

「はい、彼らは本来レベル20ほど。束になれば私に追いつく程度ですが通るだけで大きな岩をも壊したり私を吹き飛ばすほどの威力はありません」

戦士レベルかもしれない。いや、あのパーティほどすごくはないんだろうけどここまで数が合わされば人族にかなりのダメージを与えることは可能なはず。

「えぇっと、あなた…」

「ケイロンといいます」

「ケイロンさん、この件は私がどうにかしてみせます。あなたは安心して救護室へ」

「ほんとですか!?ありがとうございます。私の仲間をよろしくお願いします」

笑顔を取り繕い見送り、ゾンビたちも解散させる。


「ああぁぁぁぁ!!!どうしよう、引き受けちゃった!」

やばいかもしれない、この前勇者と和解して魔族を絶対に統括するって宣言したばかりなのに!

え、これでケンタウロスが人族を所かまわず襲ったら確実に戦争になる。

そして約束を破った報いとして最後には勇者に…。

魔族終わったかも。

いや終わりです。

魔族は終了となります。私もいずれ勇者に討伐されることになるでしょう。


「魔王様、私に考えが」

そう言ってゾンビの見送りを終えたアーサーが帰ってくる。

「アーサーちゃん?」

「強制転移です。あの数を長距離全員長距離転移させるのは難しいですが短距離であれば可能です。空に転移すればいいのでは?彼らは飛べませんので走ることができない怪我程度なら負わせられるかと」

かわいい顔して結構えぐいこと考えるね。

「悪くないと思うけど失敗のリスクが大きすぎる。それにあの攻撃力のことを考えるとどれだけ高いところから落ちても大丈夫と思っていたほうがいい」

1か所どうやって進軍していくのかわからないところもあるし。

「なるほど、でしたら封印魔術はどうでしょう?」

「封印魔術?」

「強制的に意識を失わせ、魔法石に封じ込める魔術です。成功すれば確実に無力化できます。ただ…」

「ただ?」

「今から準備となると確実に時間が足りませんしおとなしくかかってくれはしないでしょう。それに彼ら全員と考えると膨大な魔力が必要で」

「必要な時間は?」

「できれば2週間ほど欲しいです。でもあの速さだと1週間ほどで駆け抜けるんじゃないかと」

考える。

うまくいく保証はない、でもこのまま放っておけば確実に人族は…。

「魔力は私のを使う。魔法職の魔族にも手伝ってもらいましょう。毎日貯めればどうにかなるでしょう。それと拘束系が得意な魔族を招集してください」

息をのみ

「参謀アーサー、封印魔術を採用します」

「あ…はい!!」


「足止めを行う!皆、足止めに全力を尽くすんだ!」


一週間?どうにでもなる!

私の仲間はあの常識外勇者にも立ち向かって驚かせるほど強いんだ!



そして物語はまた始まる。

後にこれが「足止め魔王」と呼ばれる事件となることを知らずに。

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