第8話 足止めの果てに
「非戦闘員はこちらの転移陣にて!すぐに来るぞ!急ぐのだ!」
リッチーが魔王城に住んでいる住民の避難を行っている。
「リッチーさん、あなたも避難を!」
「いいえ、魔王様。私は最後までお供いたします。」
「でも…私は」
「安心してください魔王様。私はアンデット、簡単にはやられません。いざという時はなりふり構わず逃げます。アンデットはしぶといのですよ、すでに死んでいますしね!カッカッカッ!」
「リッチーさん…」
「おっと、これで最後ですか。そろそろお客様がお見えです。準備いたしましょう」
「わかりました、よろしくお願いします」
「強かったな、久しぶりに腕が鳴ったぜ」
戦士がグルグルと腕を回しながら言う。
「しかし、とうとうたどり着いたな」
見上げるほどの大きさの魔王城がそびえたっている。
城の周りが削り取られて入ることができない。
「どうする?飛び越えるか、…いや、どうやら歓迎しているようだ」
戦士が飛び越えようとしているが勇者が止めながら言う。
見ると入口にある跳ね橋が徐々に降りていく。
「行こう」
玉座の間に到達する。
「よく来たな!勇者よ!歓迎する!」
一度言ってみたかったセリフだ。
「魔王!」
勇者が剣を抜く。
「待って!少し話し合いがしたい。いいだろうか?私を倒す時間はいくらでもあるだろうから」
「なにを!」
「待った戦士、いいだろう、何を話す?」
やっぱり話し合いには応じてくれる、よかった。
「そうだね、まずは手紙のこと。なぜ破ったの?」
「読むに値しない卑怯で低俗な内容だったからだ」
「ふむ、でもあれは私の本心。魔族と人族は手を取り合うべきだと思っている」
「お前たちはいつもそうだ、そう言って俺たちをだまして全てを略奪する。ゴブリンに襲われた集落がいい例だ!」
「あれは勝手に…いや、言い訳はやめておく、確かに私の責任だ」
「それにこの度の中魔王と声する魔物はいくらでもいた!ここまで邪魔をしてきた以上放置はできない!」
僧侶だけがなぜか複雑な顔をしている。
「やっぱり信じてはくれないか。じゃあ交渉決裂ということだね。でも1つだけ。人族と手を取り合ってくれる魔族もちゃんといる、それだけはわかってほしい」
「それは…いや、わかった。少しだけ認めてやる」
「あっ!あともう一つ!私を倒したら他の魔族に手を出さないでそのまま帰ってほしい」
「…なるほど、わかった。この旅の目的は君の討伐だ。これ以上は手を出さないと約束する」
「よし、では始めよう」
魔王エルクルが椅子の横にあるボタンを押す。
床が爆破され勇者一行を落とそうとする。
「僕が!」
魔法使いが杖を振ると地面を盛り上がらせ阻止。
その間に火、雷、土、風、闇の矢の一斉射撃の準備を整え、発射する。
「守ります!」
僧侶が前に出てシールドをはる。
「くっこの…!」
連続で何度も攻撃するがビクともしない。
「メテオ!」
魔王固有魔法、小さい隕石を降らせる。
魔王城の天井を突き抜け「ドゴオォン!」という音とともにシールドへ向かっていく。
ビクともしない。
「これなら!」
異世界転生の利を生かして研究した魔法を試す。
例えばニトログリセリンによるダイナマイトのような爆発。
ビクともしない。
例えば水蒸気爆発を改良した爆発。
ビクともしない。
例えば炎を周りにおいて熱さによる攻め。
意味がないようだ。
燃やし続け酸素を無くす。
意味がないようだ。
その後も思いつく限りの魔法をシールドへぶつけていった。
…
「はぁ…はぁ…もう手が…魔力も…」
そして張られていたシールドが消える。
「終わりかな?すごいね、僧侶が消耗しかけてるのなんて初めて見た」
僧侶が汗をかいているのが見える。
でもそれとは別に何か迷っているような…いや、どちらにせよもう意味はないか。
「そうね…。ええ、もうすっからかん。これ以上は無駄、早く終わらせて」
そうして勇者が近づいてくる
「そうか、じゃあ」
そう言って剣を振り上げた瞬間。
バンッと扉が開く。
「魔王様を守れー!!」
「「「おおおぉぉぉぉ!!!」」」
リッチーを筆頭にドタバタと魔族たちが大勢入ってくる。
「なんだ!?」
そしてズメイ抱えられ一斉に逃げ出す。
「わっ!あなたたち、なんで!?」
「私が呼びました」
リッチーが走りながら答える。
「水臭いではないか!共に最後までいようぞ!もう我も復活できんからな!」
「この先は地下だよ、行き止まり、もう逃げられない」
「逃げるつもりはない!勝ちに行くぞ!もう策も何もないがな!」
と、行き止まりに差し掛かる。
そして全員で待ち構えるように構え、待つ。
「鬼ごっこは終わりだよ」
勇者だけが下りてくる。
「魔王との約束によりほかの魔物を傷つけるつもりはない。君だけを一太刀で切り伏せることにしよう」
実際にそれができるのだろう。
「「「「我々四天王が止める!やってみろ!」」」」
全員が構える。
「では、行くぞ!」
風のように四天王たちの脇をすり抜けるのが少しだけ見えた。
そして目をつぶりその時が来るのを待つ…が…
「…あれ?」
目を開けると
「アーサーちゃん!?」
目の前でアーサーが涙目で立ちふさがり剣が当たる直前で止まっている。
「なんで…?」
「私を舐めないでください。転移阻害シールドの解析、ちょっと時間かかっちゃいました…」
「勇者様」
階段から僧侶が仲間に肩を借りながらが下りてくる。
「やはりおかしいです。こんな…」
「僧侶」
「今まで魔王さんは足止め程度で私たちを殺すようなことはしてきませんでした。森、海、山の件でも魔王さんを悪く言うような人はいませんでした。手紙の件も本当のことなんだろうと思います。根拠は…ありませんが…」
そう言って周りを見渡す。
「それにこんな仲間に慕われる方が悪い人なわけないじゃないですか。ゴブリンの件だって何か理由があったのかと思います」
「なるほど、すまない。あなたは俺が思っている魔王ではないようだ」
そう言って剣をしまい頭を下げる。
「は…はは…」
本当に漏らすところだった。
ゆっくりと立ち上がる。
「ゴブリンの件は…ごめんなさい、何度もいうことを聞かせているんだけど勝手に暴走して集落を襲って…。住民の方々は毎回復活をさせて記憶を消しているの。トラウマになっている人が多くてしょうがなく」
「なるほどそうだったのか」
「魔族にも色々いて私は割と最近就任したばかりだから完全な統制が難しくて。王様にも手紙を出したりしていたんだけどどうにも届かなくて」
「王様か…。わかったこの件は俺が言いに行く。これからはもう魔物に怯え続けなくていいと」
「本当に!?」
「ああ、俺は嘘はつかない」
「あ、ありがとう!」
「ただし、統制に失敗して魔物がはびこるような事態になったら次こそは首をもらうからな!」
「わかった、絶対にこの魔境を統括してみせる!」
その言葉でようやく周りの空気が緩和していく。
「よかったですぅ…ぐすっ」
「アーサーちゃん…ごめんなさい。不安にさせたね」
・・・
「そういえば名前」
「うん?」
「あなたたち勇者とか魔法使いとか役職で呼んでたでしょ。名前はなんていうの?」
「俺はワルク」
「ファウスト」
「私、ニチレンです」
「戦士がワルク、魔法使いがファウスト、僧侶がニチレンね、覚えた」
そして握手をする。
「勇者、あなたは?」
「ユウシエッド・クライムヘルン・ドリエル・セリオール・コルマリン・ツヴェル」
「…」
「ユウシエッ…」
「よろしく勇者!」
終わり
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