第10話 タルサス星人は鼻をつかう(後編)
湿気を含んだ南風が僕らの頬を撫でた。
雨上がりの土の匂いがした。
僕は泥だらけの巾着袋を受け取ると、中に入っているものを確認した。巾着袋には、やはり体操服が入っていた。
大和は現場検証中と言わんばかりに、側溝や巾着袋、それを受け取った僕の写真をスマホで撮っている。
仲が良くなってから気づいたのだけど、大和は何かにつけてスマホで写真を撮る。
「何それ、現場検証?」
僕は冗談めかして言った。
大和は真面目な顔をして答えた。
「僕、写真好きなんだ。撮ったときの、匂い、光、風……。そのときのことを思い出せるじゃん。」
「へえ、インスタとかにあげてんのかと思った。」
大和は、キョロキョロと周りを見回してから、声を落として僕に言った。
「実は、タルサス星の本部に、地球の情報を送る使命があるんだ。」
「やっべ、地球、侵略しようとしてるじゃん。」
突然の“宇宙人ごっこ“にも、もうすっかり慣れっこになっている。
大和は僕の手から巾着袋を受け取ると、中に入っている体操服を取り出して顔に近づけた。
僕はそれを見て、思わずその手を掴んだ。
「え?やめろよ」
「え?なんで?雨宮のものかわかんないじゃん。あと犯人の匂いも追跡しないと」
「いや、いや、体操服の匂いを嗅ぐのはちょっと、やばくね?変態的というか。」
大和は一瞬だけ考えるような顔をして、真顔で言った。
「まあ、確かに泥の匂いが強すぎて、犯人の匂いはわからないか」
「そ、そうだよ。やめときな」
「だよね。でも、雨宮のだってことはわかったよ。汗と砂と、服の洗剤の匂い。この前の匂いと一緒。」
僕の頭の中に、少し陽が傾いているグラウンドで、日に灼けた雨宮が踏み切り板を蹴って跳ぶ姿が思い浮かんだ。
「お前、マジで。俺の前だけにしといたほうがいいぞ。。。」
「へへへ。」
大和は体操服を巾着袋に戻しながら、少し照れくさそうに笑った。
「でも、これ本人のとこに持っていったら、紗奈には完全に俺らが犯人だと思われるよな……」
「……あ、そっか。名取さんに僕、疑われてたし。でも、匂い辿っていったらわかったって言えば信じてもらえるかも。」
「そんなわけないだろ。だいたい、大和の宇宙人的というか、変態的な匂いの能力なんて信じてもらえるわけないじゃん。そっちのほうがドン引かれるよ」
「だよね…。」
大和は少しがっかりしたように肩を落とした。
「しょうがない。明日の朝、こっそり戻すか。」
「うん、そうしよう」
僕らは顔を見合わせた。明日の朝の計画を練りながら線路沿いの道をもどっていった。
僕らの声は、薄暗くなり始めた水田の上を風に乗って消えていく。遠くで、踏切の音が鳴りはじめていた。
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