第16話 あの……名前がすでに強そうなんだが?
ぬるい湧水の空間を後にして、クロは緩やかな下り坂を慎重に歩いた。
先ほどよりも空気は冷え、代わりにどこか金属の匂いが混ざっている。
「……血の匂い、じゃないよな。モンスターの気配は無いし」
足を進めるたびに、水音が次第に明瞭になっていく。
やがて、通路の先にかすかな青白い光が揺らめいているのが見えた。
「光……? 発光する石……?」
クロは歩みを緩め、ツルハシを手に持ち替える。
光は規則的に瞬くでもなく、揺れるように淡く明滅している。
生き物の発光にも似ているが、そんな気配は無い。
通路を抜けると、そこは複数の支柱が折れて崩れた旧作業場のような空間だった。
天井が少し抜け落ち、そこから地下水が滴り落ちている。
その水滴が、中央の巨大な鉱石に当たるたびに、淡い青白い光がふわりと広がっていた。
「これは……なんだ?」
クロはそっと近づき、巨大な鉱石の表面に手をかざした。
微かに温かい。呼吸をするように光が脈打っている。
「……まるで、生きてるみたいだな」
ツルハシを構え、まずは軽く一撃。
カン、と乾いた音。
鉱石が震え、光が少し強まる。
「よし……いけるな」
クロは慎重に角度を変え、採取用の力加減で表層だけを削り取る。
パリン、とガラスの薄膜のような破片が剥がれ落ち、小さな欠片が足元に転がった。
ログが静かに浮かぶ。
《『ルミナイトの欠片(低級)』を入手しました》
「ルミナイト……!? 名前からしてレアじゃないか。よしよし――」
しゃがんで拾い上げた、その瞬間。
ゴウッ……!
空気が、一気に重くなった。
「……っ!?」
足元の地面がわずかに震え、次の瞬間、巨大鉱石の光が激しく脈動した。
まるで心臓が跳ねるように、一度だけ強烈に輝く。
「おいおい、嘘だろ……?」
振動は増し、崩れた作業場の壁が低く呻くような音を上げる。
天井から砂利がパラパラ降り、空気が熱を帯びた。
――ドゥンッッ!!
「……ッ!? な、に、これ……!」
床の奥、縦穴の闇の方向から、重低音の咆哮のような衝撃が響いた。
圧力だけで体が押される。
クロは反射的に一歩後ろへ跳ぶ。
縦穴の方で、青白い光がゆっくりと……いや、確実にせり上がってくる。
「……まさか、隠しボス……?」
光が形を成す。
輪郭は巨大な四足獣のようでもあり、鉱石の塊のようでもある。
体中にルミナイトと同じ青白い鉱石が埋め込まれ、動くたびに内部から光が漏れた。
名前が視界に浮かぶ。
《エリアボス:星晶獣骸・アステリオン・レクス》
「あの……名前がすでに強そうなんだが?」
クロは苦笑しつつ、すぐに戦闘態勢へと意識を切り替える。
アステリオン・レクスの足が岩を踏み砕き、ゆっくりとこちらへ向き直った。
かすかに鉱石の擦れる音――。
次の瞬間、天井の透き間から差す光を反射し、巨大な光線が口元に集まる。
「おっとっと、いきなりブレス!?」
クロは反射的に横へ回避し、岩壁に身を滑り込ませる。
直後――
ズドォォオオン!!!!
青白い閃光が通路を焼き、壁を大きく抉った。
温度が一瞬で跳ね上がり、風が逆巻く。
「……マジでレア素材の周囲って危険だな……!」
クロはポーチから素材爆薬の小瓶を取り出し、アステリオン・レクスの足元へ向けて構える。
「よし、やるか……!」
ボス戦が、静寂を破って始まった。
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