どっちでもない(紫藤由良)
お店の看板をOPENにして今日も一日頑張るかと伸びを一つすると、一人の女の子がお店に飛び込んできた。
「ママーーーーーーー!!」
中々に大きな声を上げながら飛び込んできたこの子は
「どうしたの急にボヘミアンラプソディして」
人でも殺して来ちゃったのかしら?
「最近気になる人が居ます」
おっと、撃ち抜かれたのはアンタの方だったのね。
「あら、とってもいいことじゃない。恋せよ乙女♡」
いいわね若いって。アタシはそういう話を聞くとまず微笑ましいという感情が湧き上がってしまうわ。それはそれとして気になるから耳を澄ますしガンガン聞くけどねっ。
「二人も居ます」
「ごめんゆらちゃん、二股宣言は流石に一旦止めるわね」
流石に微笑ましいで収まらない内容なのよ。取り敢えずお冷飲んで落ち着きな?お菓子は?ポテチね。はいお水とポテチ。
「ってか…え?ちょっと待って?ゆらちゃん最近彼氏と別れたばかりだったわよね?」
ギャン泣きしてたわよね?初彼氏だったし。
「うん。浮気されたから泣きながら連絡先消した」
「結構引き摺ってたけど吹っ切れたのね。えらいわ」
「えへへ」
「それで次の恋を見つけにいったと」
「うん」
「そしたら…?」
「二人気になってる」
「あんた彼氏に浮気されたのよね!?」
まったく同じことしてない!?類友なの!?やっぱり惹かれ合うものなの!!?
「うん。だけどしょーがないじゃん。気になってんだもん」
「恋多き乙女なのね…取り敢えずどんな子なの?」
もしかしたら類友かもしれない。止める事は出来なくても、せめてマシな方を薦めてあげないと…。男も女も涙は見たくないものね!
「えっと、一人は学校の同じクラスの子で、大人数で話した事はあっても一対一で話したことはないんだけどさ」
「うんうん」
「私と一緒でハーフで、ちょっと親近感みたいなのがあって、つい気にしちゃってたんだよね」
ほーう。いいわねちょっと楽しくなってきたわよ。ついカウンターに身を乗り出してしまうわ。ちなみにゆらちゃんのお母様はフィリピン人よ。ハーフ特有の綺麗な顔立ちしてるのよねぇ。なんでこんなに可愛くていい子なのに浮気されちゃったんだか。
「そしたらある日友達から『最近目で追ってるし気になってるの?好きなの?』って言われてさ。あ、そうなのかもって思っちゃって、その時からずっとモヤモヤしてるんだ。自分で言うのもなんだけどめっちゃちょろいと思うんだよね」
「いいじゃない青春してて。アタシはいいと思うわよ?」
「でもちょろいかちょろくないかで言えば?」
「ちょろい」
その聞き方ズルくなーい?
「あははは!やっぱりママもそう思うよね~私もそう思うー」
彼女はけらけらと笑っているが、アタシには分かる。目は笑っていないし、腕を組む手はいつもより力が強い。顔も強張ってしまっている。…というか泣きそうじゃないのよ。
「あーやっぱ私ってちょろいんだ。しかも同時に二人もって最低だよね」
なるほど、自己嫌悪か。まぁ、それも仕方ないだろう。自分を裏切った元カレと同じ感情を持っているかもしれないのだから。それは間違っていると頭ごなしにいう事は簡単だが、それは感情を押しつぶす行為。美しくないわね。きっと、何か答えが欲しくてお店に来たのよね。さて、どう言葉をかけてあげるべきか…。
というかそもそも…なんか元カレ至上主義だったあの頃の熱をゆらちゃんからは感じないのよね。一応聞いてみるか。
「一つ聞きたいんだけどさ。アンタのそれって本当に恋愛的な感情なのかしら?」
「え?どういう事?」
「前の彼氏が居た頃のゆらちゃんって物凄い真っすぐで熱い子だった筈よ?腹立つくらいのろけるし、正直何度も殴りそうになったわ」
まじで口から砂糖出るかと思ってたのよ?ブラックコーヒーが甘く感じるんだもの。
「いやーそれほどでも」
「だから不思議なのよね。恋愛みたいな感じがしないというか。男性としてじゃなくて人として気になってるって感じがするわ」
ゆらちゃんはちょっと人見知りあるかもだけど、大好きな元カレにはとっても真っすぐだったからね。ゆらちゃんらしくないのよ。なんて言えばいいのかしら、思春期特有の気持ちのブレみたいな。
「………あー、なるほど。なるほど。え、そうかも」
さっきまで不安そうに、何かに怯えていた彼女はみるみるうちに目に光を宿していく。なんならすごい勢いで立ち上がろうとして席からこけそうになっていた。
「え、待って!そうかもしれない!!そうかも!!!」
おお、テンションの上がりが半端ないわね。ギャル味と若さを感じるわ。
「あ、やっぱり純粋に人として気になってるだけだった感じ?」
「うん。確かに元カレに向ける好きと違う。もう一人も同じ感情だからそうだと思う!えー…でもマジで良かった」
「あら、それはどうして?」
「自分も元カレと同じクソかもしれないって思ってたからさ。ほんとにありがとねママ」
あらいい笑顔。そうそう、アンタはそうじゃなくちゃ!
「それほどでもなくってよ!きっとぽっかりと空いた胸に、何かで埋めようと焦ってたのかもしれないわね」
でも、それでは埋まらない事がほとんどよ。ただ虚しいだけなの。
「そうなのかな」
「まぁ、このくらいの時期はみんな誰しも敏感になったり勘違いしがちなのよ。それを正してあげるのも大人の役目ってわけ」
「おー、ママかっこいい!」
ふふーん!また一人、救ってしまったようね!流石アタシ。
「じゃあお礼にお酒一杯注文するね」
「おうあと半年は待てや二股未遂」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます