熱々にひんやりを(豊田祐樹✕豊田詩音)
んふふ~。今日は気分がいいわぁ。昨日寝る前のはちみつ湯が良かったのかしら。
そう思いながらるんるんとテーブルを拭いていると。
カランカラン
「ママー!今日は監視付きで来たよー!」
「こんばんわ。ゆうちゃんと一緒に来ちゃいました」
「あらいらっしゃい!座って座って!!」
でたわねラブラブ夫婦!今日は揃ってごらいてーん!!
「何飲むー?」
「今日はハイボール飲みたいな。雑に濃いやつ。ママもどうぞ」
あー、いいわね雑に濃いやつ。たまに飲みたくなるのよねー。
「私はコーラといつものアイス下さい」
「あ、それ俺も食べようと思ってたんだよ。俺も一つ」
「はぁい」
こんな時の為にお皿も予め何枚も冷やしてあるのよ!ママに抜かりなし。
でも、ちょっと準備いるから先にお酒の準備。アタシもいただきまーす。
「先に飲み物渡しちゃうわね。」
「待ってました!それじゃ」
「「「乾杯」」」
喉を貫くこの爽快感!!たまらねぇのよ。おっとアイスの準備をしなくては。
「あ”~!酒ってのは不思議だよなぁ。飯食ってお腹いっぱいでも飲みたくなるんだから」
「ゆうちゃんは本当にお酒が好きだよね」
「おう!毎日でも飲みたい」
「それは身体に悪いからダメだよ」
「へいへい。分かってますよ」
仲睦まじい夫婦のやり取りを聞かせたバニラアイスにブランデーをたっぷりとかける。心なしかいつもより溶けるのが早い気がするわね。
「はいこちらでぇす」
「おーこれが言ってたやつか」
「はい。とっても美味しいんです」
「それじゃさっそく」
バニラアイスをスプーンで持ち上げると、そこからぽたりとブランデーが零れ落ちる。それが何故か勿体なく感じてしまい、出来るだけ零れないようゆっくりと口へ運ぶ。
「うまっ」
口に入れた途端に分かってしまった。これは美味いやつだと。
「ふふ、良かったです。私もいただきます」
「気に入っていただけてなによりよ」
口に運ぶスプーンが止まらない。これをいつも詩音は食べていたのか?まぁ、来るたび食べたくなるのは分かるな。
「いやこれめっちゃ美味いわ。今度家でもやろうぜ」
「うん、今度買ってくるね。ママさん、後でどんなのが合うのか教えてもらえないでしょうか」
「いいわよ。今度メモでも書いて渡すわね」
「ありがとうございます。助かります」
なに?まさか家でも食べられるというのか!?是非お風呂上りに食べたいな。
るんるんとした気持ちで食べ進めていくと、気付けば目の前のお皿は空っぽになってしまった。
まだ、食べ足りない。
「ねぇママ、このアイスおかわりしていい?」
「あ!ゆうちゃんずるいよ。私もおかわり」
おっ!やっぱりおかわりを求めて来たわね!もちろん準備は万端!だーけーどー?そのまま同じものを出すのは三流よ!!
「ふっふっふ。そんな甘い物が大好きなお二人のためにー?」
デキルオカマであるアタシは、とあるカラフルな袋を取り出した。
「てれれれっててー!チョコスプレー!!」
「うわママ最高。もうアイス見えなくなるくらいかけて」
「あ!私も見えなくなるくらいかけたいです」
「よろしくってよー!!」
こんなのかければかけるだけ美味しいですからねー。あ、ちょっと溢した。
そしてもうアイスが見えなくなったお皿にブランデーをかける。もうチョコスプレーの塊にかけてるようにしか見えないわね。胸やけしそう…。
「はいこちら『バニラアイスのチョコスプレー盛り~ブランデーをかけて~』になります」
良い名前募集中で~す。
甘党夫婦は目の前に出てきたチョコスプレーの塊に目を輝かせる。その手に持つスプーンも出番が待ちきれないみたいね。遠慮しなくていいわよ!おかわりも勿論あるわ。
「ん~~~~!美味しいねゆうちゃん」
「ああ、美味すぎる!」
「ふふ、満足そうでなによりよ」
二人ともとっても美味しそうに食べるわね…アタシも後で試してみようかしら。
「あ、そうだママ」
「なあに?早く食べないと溶けちゃ…もうない」
なんなら二人とも綺麗に完食している!?お酒もないじゃない!?
「夫婦ってどんな関係だと思う?」
「え?どうしたの急に。哲学の話?」
「いや、そうじゃなくてよ。俺達学生の時に付き合ってそのまま結婚したんだけど、その時からなんにも変わってないんだ」
「えっと…いいことじゃない?」
逆に何が悪いってのよ。
「そりゃそうかもしれないけどよ?あの時から変わってないからその…ちゃんとした夫婦になれてるのかなって」
「正直、未だに彼氏彼女みたいな感覚なんです。倦怠期とかレスもなくて…。このままでいいのかなと」
「お互い当時から全然進展してないから成長していない感じがするって事でいいのかしら」
「まぁ、そういう事です」
ふぅ~ん。なるほどね。
「はぁ~~~~~~~~」
つい出てしまうクソデカ溜息。
「あのねぇ、そもそもそういった倦怠期とかレスとかって本来必要ないの。それで、そういった経験が役に立つことなんて再婚かお酒の席くらいしかないのよ!」
「成長してる気がしないだぁ~?じゃあしおんちゃんに聞くんだけど、立派に店長して家計支えてしおんちゃん一筋の優しくてかっこいいこのナイスガイが立派な夫にならないと思う?100点の夫だと思わない?」
「う、うん。100点だと思います」
急に振られて目を丸くするも、しっかりと答える。いい子ね。
「そうよね。じゃあゆうちゃんに聞くわね。家事全てを文句なくそつなくこなす仕事すら任せられるゆうちゃんの事が大好きな夫想いの可愛い女の子が立派な奥さんにならないと思う?100点の妻だと思わない?」
「ああ。100点だと思う」
こっちにも振られることが分かっていたのか落ち着いて答える。いい子ね。
「それが答えよバカ夫婦!!あんたらは0点から全然成長してないんじゃなくて、最初から100点なのよ!二人仲良くお店でアイス食べてる夫婦の何処が不満なのよ!目指すべき理想だわ!このたわけ共!!!」
「分かったら上限突破の120点でも目指しやがれ!!!バーカバーカ!!!!」
あー、やば。久々に声張った気がするわ。のど飴あったかしら。
「分かったらさっさとお家帰ってお互いを確認し合いなさい!お金はまた今度でいいわ!感謝し合えこのバカ夫婦!!出来たらまたこいや!!!」
二人がなんか言っているけど知るものですか。家に帰れ帰れ!!独り身のアタシに対する当てつけかっての。……………勿論、悪気はないって分かってるけどね。
「はぁ…」
つい衝動的に追い出してしまった。でも仕方ないの。こんなアタシに、あの二人は眩し過ぎるもの。嫉妬しちゃうくらいキラキラしてたわ。
店の扉に寄りかかり、ぼーっと天井のライトを見つめる。やってしまったという罪悪感と、なんでアタシはこうなのという劣等感、嫉妬や羨望。溢れて止まらない汚い感情を誤魔化すために、ポケットからいつもの銘柄を取り出す。パチ屋の景品で手に入れたギラギラとしたライターに火を点けて一服。ふーっと息を吐くと、天井に見えるライトの光が煙で遮られて、なぜか安心してしまった。
安心したからなのか脚に力が入らずズルズルとへたりこんでしまう。あーあ、服が汚れてしまうじゃないと、まるで自分じゃないかのように自分に語り掛ける。
「変われたと思っていたのにな」
これじゃなんにも変わってないじゃない。何にもなれていない。あの頃のまま。
「ふふ…変わらなきゃいけないのはアタシ…か」
こんな自分が嫌で嫌で仕方なくなる。でもこれが自分なのだから仕方ない。そう割り切れたらどれだけ楽だったろう。こんなに悲しくて苦しいのに、涙は出てこない。そりゃあそうだ。もうさんざん泣いたからね。
「早く子供作って店に来なくなれ、ばーーか」
自分を傷つける皮肉は、こんなにも簡単に出るのにね。
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