第22話

酒場の個室。

テーブルの上には皿と酒、それから――全財産が詰まった金貨袋の山。


「これで全部、だよな?」


袋を結びながら、誰かがぼそっと言う。


「うちらの財布、スッカラカンやな」

リリアが苦笑する。


「でも……進むんですよね」

イーリは指を揃えながら、淡々と小金を整えていく。


「100万Gって……“次の段階”ってやつ、そんなに高いんだな」


「強くなるつもりなら、これくらい払う覚悟が必要だろ?」

俺は冗談めかしながら笑う。


「で、誰を覚醒させるか、だよな」


自然と全員の視線がテーブルを囲む。


「火力は足りてるやろ。ウチもアニマも撃ち放題やし」

リリアが指を鳴らす。


「支援は、前線が安定してこそ成立する」

イーリがゾルドのほうを見る。


「芸術は舞台あってこそ、ですわ。盾が舞台なら、わたくし燃やすだけですの」

アニマは胸に手を当て、妙に誇らしげ。


「戦線が崩れなければ、削りは成立する。核が先だと思う」

レイアンは静かに、はっきり言った。


視線が集まった先――ゾルドは腕を組み、ただ一言。


「……任されよう」


「そうね。あなたがいなければ、あの戦場は維持できない」

イーリの言葉に、誰も否定しなかった。


俺は立ち上がり、テーブル中央に金貨を並べる。


「じゃあ――最初の覚醒は、ゾルドにする」


◆資金投入 → 覚醒起動


ギルド奥の魔法陣部屋。

金貨を台座に置くと、魔法陣が淡く光り始める。


「始めるぞ」


誰も、止めようとしなかった。

ゾルドが中心に立つ――次の瞬間。


ゴオオオオッッ――!


光が立ち上がる。

床から天井まで一気に満たす、眩しい光柱。


「うわっ……!」

リリアが目を覆う。


「魔法の光じゃない……もっと“機械的”……」

アニマが興奮を押し殺しながら呟く。


「……システムの光、だ」

そう呟いた瞬間、光が収まった。


ゾルドは、何も変わらぬ姿でそこに立っていた。

しかし――空気が違う。


「……終わった」


「職業欄、確認した?」

俺が聞くと、ゾルドは無言でステータスを開き、短く答えた。


「“守護騎士”とある。見たことはない」


リリアが目を丸くする。


「騎士は聞いたことあるけど、守護って……」


「覚醒により、既存職から派生した可能性があると思われますが」

レイアンが冷静に分析しながらも、指先がわずかに震えていた。


ゾルドはさらにステータス欄をスクロールし、淡々と報告する。


「スキル名が変わっていた。《魔法障壁》が、《魔法障界》になっている」


「障界……?」

イーリが目を細め、結界の文字を口にする。


「指定した範囲を、すべて魔法障壁で覆えるようになるらしい」


その瞬間、部屋の空気がピンと張り詰めた。


「それで? まだ何かあるの?」

アニマが前のめりになる。


ゾルドは一拍置いて、次を読み上げた。


「《集心》。戦場にいる敵の意識を、自分に向ける。……そう書かれていた」


「……全部、こっち向くんか。やべぇなそれ」

リリアが笑う。


「戦場を固定できれば、動きが安定する」

レイアンが淡々と続ける。


ゾルドは頷き、


「……そういうことだ」


静まり返った空間で、俺はゆっくりと息を吐いた。


「……なるほど、これぞ《覚醒》……だな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る