第21話
◆ 二日目
配置。
もう誰も細かい確認をしない。
「ゾルド」「出る」
「イーリ」「スローかける」
「リリア」「矢通す」
「アニマ」「燃やしますわ」
レイアンは無言で前を見ている。すでに戦闘前の集中モード。
――開始。
ガインッ!
ゾルドの障壁展開が、1回目より明らかに分厚い。
受け止めた瞬間の反動が減り、足が後ろに滑らなくなった。
「ゾルド、踏ん張りが安定してきたな」「……慣れただけだ」
左右に回り込もうとする敵兵。
イーリの声が、戦場の音の中でも自然に届く。
「右二体、動き速い。……リリア、任せた」
「言われんでもやるわ!」
ビュン! ビュン!
そのままの動作でアニマが魔法を叩き込む――
ドォオオン!
炎が地面を滑り、ゾルドの足元だけスッと炎の軌道から外れる。
――アニマが味方を避ける角度を覚えた証だ。
「おお、アニマ、当て方うまなっとる」「ふふ、わたくしの炎、芸術度が増していますのよ」
◆五日目
1回目の戦闘が終わった時――
《レベルアップ!/全員Lv70 達成》
リリアが拳をあげた。「おっしゃああ!! 桁が70揃ったで!!」
イーリも珍しく顔をほころばせる。「……間に合った」
アニマは胸を張り、「これで精神的にも落ち着いて戦えますわ」
ゾルドは小さく頷き、「悪くない」
レイアンは一言だけ、「ここからです」とだけ呟いた。
俺は――マップを開き、確認する。
HPバー、攻撃速度、射程、詠唱タイミング。
全部、“揃った”。
「よし、ここからは――勝ちを“作業”にする」
戦闘、開始。
ゾルドの障壁が先に動く。展開と同時にスローが入り、リリアの射撃がタイミングを合わせる。
イーリ「スロー更新。あと八秒」
リリア「了解、矢続けるで!」
アニマ「焼きますわ――下がって!」
ゾルドが一歩だけ後ろへ滑り、炎が軌道を走る。
敵兵が焼かれると、レイアンがそこに踏み込んでトドメ連打。
ズガガガッ!
銀の重騎士が現れる瞬間――全員もう構えている。
「レイアン」
シュッ――ドゴォン!(音だけバーサーカー)
そこに即スロー、即矢、即炎。
銀が膝をつくまでに5秒かからない。
リリア「……なんやろ、自分でも思うねんけど――楽しいなこれ」
イーリ「うん、前は必死だったけど……今は、“できること”がある」
アニマ「うふふ、たける様の指揮が一番の芸術ですわ」
ゾルド「……戦える相手が、ちょうどいい強さならな」
レイアンは黙って拳を払う。もう、武器すらいらない。
◆十日目(累計30戦)――Lv85
銀が現れるたび、俺以外の四人が口を揃えて言うようになった。
「来たで(ですわ/な/はい/任せて)」
――誰も、もう“脅威”とは言わない。
戦いの中で、呼吸するように役割をこなす。
銀の剣が振られる瞬間には、すでにゾルドの障壁が重なり、
スローが化学的に刺さり、矢が刺さり、炎が走る。
レイアンの拳がトン、トン、トンと淡々と鉄を打つ鍛冶の音みたいに戦場を支配する。
戦闘は、もう“戦闘”じゃない。――“手順”だ。
◆二十日目(累計60戦)――Lv95
そして――
銀の重騎士が出てくる瞬間に、五人全員が前を向く必要すらなくなった。
リリアは矢をつがえながら笑って言う。
「これ、もう作業やな」
イーリが冷静に重ねる。
「でも……気持ちいい」
アニマが炎をまといながら、楽しげに言った。
「狩りとは、こうあるべきですわ!」
ゾルドは肩で息をしながら、しかし笑みを漏らす。
「1000対5――悪くない数字だ」
レイアンは静かに――
「……まだ、上があるはずです」
そう呟いた。
◆三十日目(累計90戦)――Lv98
半透明のマップに表示されている敵の数字は――
《敵数:1000》/《友軍ユニット:5》
だが、初日と決定的に違う点がある。
この数字が、もう“脅威”に見えない。
俺は配置を開始する。動作は滑らかで、躊躇がない。
「ゾルド、いつも通りだ」「了解」
「リリア、丘で射線最大化」「任せとき」
「イーリ、銀を意識しつつ範囲広く」「了解。スローは切らさない」
「アニマ、好きに撃て」「ふふ、最初から全力でよろしいんですのね?」
レイアンは無言のまま前を向く――その姿だけで「準備完了」とわかる。
マップに指を滑らせ、配置を確定する。
《再現戦闘、開始》
◆リリア
ビュン――!
開始と同時、リリアが矢を放つ。
一本。
一本の矢が、三人の頭蓋を順に貫いて突き抜けた。
「一本で三殺やな。はい次」
二射目。六体目までの血が丘を汚す。
動きに淀みがない。狙っていないように見えて、全てが急所。
弓が弧を描くたび、敵兵が倒れるのではなく、“消えていく”感覚に近い。
◆イーリ
「スロー、入れる――」
空気が、音を立てて歪んだ。
先頭の敵がピタリと足を止める。まるで地面に杭でも打たれたように。
リリアが一瞬目を見開く。
「止まって見えるで……こんなんえぐいわ」
イーリは静かに息を吐いた。
「……銀にも重ねる。たけるさん、タイミング任せる」
デバフLv99――“スロー”というより、“停止”に近い。
◆アルマ
「撃ちますわ――燃え広がりに注意、いえ、気にしませんわ!!!」
ズガァァァン!!!
アニマの魔法が地面を“線”ではなく“面”で焼いた。
視界の三分の一が炎で消滅した。
ぼおおおおおおっっ!!
燃え上がる轟音に紛れて、悲鳴も聞こえない。焼けたやつは即死だ。
リリアが呆れたように笑う。
「あー……ウチの仕事、減ってんな?」
ゾルド「問題ない。敵が減れば、守る幅が狭まる」
イーリ「……効率的」
アニマ「たーのしっ!!」
◆ゾルド
敵の数が目に見えて減っている。それでも逃げ出す者が、なお突撃してくる。
「ゾルド、前詰めろ」「ああ」
ゾルドの障壁がバシィン!と音を立てる度、前へ押し出される敵兵が弾け飛ぶ。
もう“耐える”のではない。“押し返している”。
かつてゾルドを吹き飛ばした衝撃――それを、今は彼自身が与えている。
◆そして、銀ランクの重騎士
土煙の奥、銀色の鎧が近づいてくる。
以前はその存在だけで全員が身構えた。しかし今――
「銀、来る」「レイアン」
返事はない。だがレイアンは一歩前へ。拳を握るだけで十分だ。
ズドン!
拳と剣がぶつかり、地面にひびが走る。
ゾルドの障壁がバシィン!と鳴り、衝撃を押し返す。
もう“耐える”のではない。“押す”側だ。
「スロー、残り三秒……二、一――切れた。
アーマーダウン、入れる!」
イーリが声を上げ、ロッドを振る。
銀の鎧に淡い鈍色の膜が灯り――防御が落ちた。
「リリア、いける」「任せぇ!」
ビュンッ!
矢が鎧の継ぎ目を貫通し、銀の身体がぐらっと揺れた。
「アニマ、重ねて焼け」「全焼ですわぁ!!」
ドガァァァン!!
炎が面で押し寄せ、銀の背後の雑兵をまとめて焼き切る。
ユニットの誰にも一切かすりもしない。
リリアが苦笑する。「相変わらず味方に当たらん仕様、助かるわ」
矢をつがえながら、リリアが眉をひそめた。
「――レイアンが射線にかぶっとる」
レイアンの足が、すっと横へ滑った。
リリア「……なんや、言葉理解したんか?」
たける「レベル99だ。可能性はあるな」
その一瞬のズレで、射線が完全に通る。
「止める」「任せた」
ビュン、ビュン、ビュン!
矢が目穴、首、脇へと正確に刺さり、
レイアンの拳がドッ、ドッ、ドッと続く。
ゾルドの障壁は、もはや誰にも破れない。
銀の剣が叩きつけられるたび、逆に銀の体勢が崩れる。
イーリが淡々と告げる。「アーマーダウン、更新完了」
アニマが笑う。「では――もう一枚」
ズガァァァン!! 炎の面が二重になり、逃げ場が消える。
銀の膝ががくりと落ちた。
「――とどめや!」
最後の一矢が兜の奥へ吸い込まれ――
銀ランク・重騎士、撃破。
戦闘終了後、最後の経験値振り分けを行い全員のレベルを99にした。
視界に白い光が走り、ステータス画面の下に、新しい欄が“点滅”した。
≪Lv99:最大値到達≫
≪覚醒条件:解放可能≫
≪必要資金 1,000,000G≫
リリア「――なぁ。なんか、光ったで?」
俺は静かに笑った。
「……覚醒、出たな。これで“次”へ行ける」
アニマ「覚醒……!? いったい何ですの!?!?」
リリア「うちら、どうなってしまうんや」
ゾルド「金(かね)か……」
イーリ「……たけるさん、所持金、いくら?」
俺「全員の財布、出せ。今すぐだ」
アニマ「こ、こんな時だけ傭兵長権限を振りかざす男ーーー!!!」
――かき集めた全財産。
合計:1,000,020G。
ギリギリだった。
俺はマップを開き、誰を選ぶか視線を走らせる。
「……一人だけ。覚醒できる」
戦場を100回越えた五人が――一瞬、真剣な顔になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます