第16話 レイアン視点

 戦闘の後、酒場は賑やかだった。

 皆が笑い、グラスを掲げ、勝利を祝っている。


 俺の耳に、たけるさんの声が残っていた。


 「――レベル70まで、ぶっこむ!」


 その瞬間、自分の内側で何かが爆ぜたのを覚えている。

 あれは、ただの強化ではない――“生存本能そのものへの覚醒”だった。




 俺には、二つの呼ばれ方がある。


 レイアン――

 総合戦術理論を読み漁り、戦場の地形と兵科の動きを分析する、本好きの青年。


 バーサーカー――

 怒りでも狂気でもない。“思考を切り捨てる”という純粋な戦闘アルゴリズム。

 暴走ではなく、“戦闘専用の別人格”といったほうが近い。


 世間はそれを“狂気”と呼んだ。

 だが俺の中では、それはむしろ――“戦うための静寂”だった。




 あの時、俺は聞いた。


「――レイアン、前だ。銀ランクを落とせ」


 銀ランク。

 常識で言えば、挑むことすら侮辱にあたる格上。


 ――だが、たけるさんは迷わなかった。


 そして――。


 「レベル70まで、ぶっこむ!」


 たけるさんの手がディスプレイを滑るたびに、

 俺のステータスが、跳ね上がっていくのが“感覚”でわかった。


 速度、筋力、耐久、気配察知、痛覚遮断。

 全てが“爆発的”に強化されていく。


 その瞬間、胸の奥で、初めて“勝てる”という感覚が生まれた。


 バーサーカー状態になる前――ほんの数秒だけ、意識が残る時間がある。

 あの時、俺は確かに思った。


 ――これは“暴れる”んじゃない。“勝ちを奪いに行ける”戦闘だ


 そして――意識は暗転し、「狂戦士(バーサーカー)」が引き継いだ。


 暗闇ではなかった。

 “黒い静寂”の中に、たしかな“勝利への線”が見えた。




 「銅ランク、おめでとうございます」

 イーリさんがそう言ったとき、俺は小さくうなずいた。


 たけるさんは笑って、「まだまだ強くなる」と言った。


 ……そうか。

 これは“ゴール”ではなく、“まだ序章”だ。


 俺の暴れる場所は、もう決まっている。

 だから――


 「たけるさん。俺の“配置座標”……これからも、指定してくれますか?」


 静かに問うと、たけるさんはいつもの調子で笑った。


 「ああ。お前の席、もう用意してるからな」


 その言葉が、妙に心地よかった。

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