ゲームシステムって強すぎる
ヨムヨム
第1話
気がついたら、俺は知らない場所にいた。
ほんの一瞬前まで、大学の講義室でノートをとっていたはずだ。教授の単調な声に眠気を覚え、ついペンを落とした――そこまで覚えている。
なのに次に目を開けたとき、そこは木の匂いのする石畳の路地だった。
「え、……え? どこだここ?」
まわりを見回すと、剣や槍を持った男たちが行き交っている。荷馬車が土煙をあげ、甲冑姿の兵士が通りを走っていく。
ファンタジーゲームや異世界漫画でしか見たことのない光景。
――異世界転移? いやいや、そんな馬鹿な。
そう思った瞬間、頭に鋭い痛みが走った。
「っ……う、ぐ……!」
脳が焼けるみたいな感覚と同時に、意味不明な情報が流れ込んでくる。
配置枠。コスト。ユニット。スキル。戦場マップ。
頭の中で、ゲーム画面のようなイメージが広がっていく。
――タワーディフェンス。
俺が大好きだったジャンルのゲーム。敵が道を進んでくるのを、弓兵や魔法使いを配置して迎え撃つ、あのシステムだ。
「は? 異世界転移? しかも能力はTDだと? ああ、勝手に頭に……情報が入ってくる……」
息を整えながら、俺は理解した。
「……なるほど。俺はこの世界で、“タワーディフェンスのシステム”が使えるってわけか」
現実感はない。けど、頭の中の円形配置マスや、見えないUIがやけにリアルで、冗談じゃ済ませられない。
* * *
「おい、あんた!」
呼び止められて振り向くと、粗野な男が机を前に座っていた。背後には剣を持った兵士が立っている。
「ここは傭兵ギルドだ。戦う気があるなら登録してけ。名前を書け」
差し出されたのは羊皮紙。表には“傭兵登録名簿”と書かれている。
俺は思わず息をのんだ。
「傭兵……? 戦争の世界ってわけか」
この世界では、戦うことが日常なんだ。
なら俺みたいな貧弱大学生は、生きていくために何かしら身分を持たなきゃいけない。
「……鈴木、たける」
震える手で、名前を書いた。
こうして俺は、異世界の戦乱に巻き込まれた“ひ弱な新米傭兵”になった。
* * *
傭兵ギルドを出ると、俺は深呼吸をした。
「……ふぅ。まずは情報収集、だな」
ゲームでもそうだ。いきなり突っ込んで全滅――なんて初心者あるあるを、俺は何度も繰り返してきた。
異世界でも同じ。ルールを理解してからが勝負だ。
街は活気に満ちていた。活気、といっても穏やかなものじゃない。
通りには武器を抱えた傭兵たちが歩き、あちこちで剣の手入れをしている。
酒場からは大声と笑い声、そして罵声。
ここでは「戦い」が日常なんだと、嫌でもわかる。
酒場の扉を押し開けると、すぐに煙と騒音に包まれた。
粗末な木のテーブルのあちこちで、傭兵たちが飲みながら戦果を語り合っている。
「聞いたか? 北の砦を落としたのは《鋼の斧》だ!」
「へっ、あんなやつらただのゴロツキだろ」
「だが敵将を斬り伏せたんだ。今じゃ英雄様扱いだぜ!」
英雄――その言葉が、この世界の価値観を端的に表していた。
活躍さえすれば英雄、称賛。逆に役立たずは嘲笑、放置。
極端だけど、わかりやすい。
俺は隅の席に腰を下ろし、こっそり聞き耳を立てながら情報を整理していく。
――この世界の人間は、敵を倒すと魔力を吸収する。
――その魔力が体に蓄積され、やがて強さに変わる。
――だから、戦えば戦うほど成長できる……ただし、生き残れればの話。
「なるほど、自然成長型か」
俺は思わず小さく呟いた。
「でも俺は……経験値ポイントを割り振るレベル制。完全に別ゲーだな」
頭の中に浮かぶメニュー画面を見ながら、心臓が高鳴る。
普通なら年単位で強くなる世界で、俺は数回の戦闘で仲間を一気に強化できる。
つまり――俺のシステムは、この世界において“チート”そのものだ。
「よし……ルールはわかった。あとは実践、か」
震える膝を叱咤しながら、俺は酒場を出た。
異世界。戦乱の街。傭兵の世界。
そのすべてが俺に牙を剥こうとしている――けれど、同時にゲーム脳の奥底をゾクゾクさせていた。
「最初のユニットを、見つけなきゃな」
* * *
そして俺の「初任務」が決まった。
傭兵団に混ざって、敵の斥候部隊を迎え撃つ小規模な戦闘。
小規模……らしいが、俺にとっては地獄の縮図そのものだった。
剣を掲げて叫ぶ男。盾を構えて突進する兵士。矢が飛び交い、地面にはもう血の匂いが広がっている。
「う、うわ……マジでゲームじゃない……本物の戦争だ……!」
震える俺の頭の中に、あの円形の配置マスが浮かぶ。
だが肝心の“ユニット”はゼロ。配置するものがなければ、俺はただの無力なガキだ。
「ちっ、あの新人、岩陰に隠れてるだけじゃねえか!」
「やっぱり使えねぇな!」
傭兵たちの罵声が耳に突き刺さる。
でも俺にはどうしようもない。力も技もない俺が前に出たら、一瞬で死ぬのは目に見えていた。
そのときだった。
戦場の隅で、ひとりの少女が倒れていた。
耳と尻尾を持つ――獣人の弓兵。
矢筒は空で、弓を握る手は震えている。
周囲の仲間らしき傭兵たちは、彼女を見捨てて走り去っていた。
「おい、そいつはもう役立たずだ! 置いてけ!」
「獣人のガキなんてどうせすぐ死ぬ!」
少女は必死に立ち上がろうとしていた。
だが膝は震え、矢も尽き、誰も助けようとはしない。
――チャンスだ。
俺の頭に、契約のための光が浮かぶ。
【契約可能:対象 弓兵:リリア】
ただし、相手の同意が必要。
「おい! 君!」
岩陰から叫ぶ。
「俺には……仲間を“ユニット”にして戦わせる力がある! 俺と契約すれば、もう一度戦える!」
少女の目が揺れる。
「……ウチなんか、誰にもいらんって……そう言われて、捨てられたんや」
「だったら俺がもらう! お前は役立たずなんかじゃない!」
俺は必死に叫ぶ。
「このまま死ぬよりマシだろ! 戦って、生き延びたいなら……俺に賭けてみろ!」
少女は一瞬唇を噛み、そして小さく頷いた。
「……わかった。ウチは、まだ死にたくない」
その瞬間、光が彼女を包む。契約成立だ。
――同時に、俺の目の前に新しいウィンドウが開いた。
【配置可能マス:解放】
円形のマスが戦場に浮かび上がる。
「……なるほど。ユニットがいて初めてマスが見えるのか」
俺はすぐに気づいた。
高台――敵を一望できる射程の広いマス。弓にとってこれ以上ない場所だ。
俺はリリアのコアを高台のマスにスライドさせた。
「今回の勝負のカギはここだ……! よし、配置するぞ――リリアいってこい!」
次の瞬間、少女は光となり高台に転移した。
矢筒は空だったはずなのに、矢が次々と湧いてくる。
「いけ! 撃て!」
俺が叫ぶと、矢は放たれ、敵兵が次々と倒れていく。
「な、なんだあれは!? あの獣人の娘が……!」
「敵が止まったぞ!」
高台からの連射は圧倒的で、戦況が一気にひっくり返っていった。
味方の歓声が上がる中、俺は岩陰で拳を握った。
「よし……これだ。これが俺の戦い方だ!」
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