コツブ編

第9話:そう来たかあ

 合間に有休をとれば大型ゴールデンウィークなんてニュースで言っていたけど、高校生にはサボるという手段しかない。

 でも、常識とかは関係なく個人的にサボるという手段は嫌い。授業の価値は正直未だにピンと来ないけど、やるべきことをやらないっていうのは、なんかダメな気がする。


 そういうわけで、明日から五日間の休み。ただ、今年はいつもと違う過ごし方をすることになりそう。


「愛情を感じる味がしますね」

「大袈裟だって」


 昼休み、階段。

 ミニハンバーグを食べているイドちゃんの顔は、青メッシュのぱっつんや長い黒髪、端正な顔立ちにモデルさんのような体型の大人っぽさと相殺するくらいに純真無垢。

 私はというと、星のヘアゴムで作った二つ結びよりもちょっと大人びた気持ちでサンドイッチを口にしている。


 友達とおかずを交換こしているってお母さんに言ったら、わざわざ交換用の容器を買って、卵焼きやミニハンバーグを詰めるようになった。「お母さんがしたいからしているだけ」って上機嫌で言われたけど、そこまでしてもらうとまあまあ恥ずかしい。


 ただ、コンビニのサンドイッチは結構魅力的。

 家だと高いって理由でスーパーの安いパンのほうが優先されるし、かと言って自分のお金で買いたいかって言われると微妙で、なかなか食べる機会がなかったから。

 お昼ご飯にするっていうのは、なんだか贅沢している気分になる。

 それに、イドちゃんが嬉しそうに食べるのを見るのは、まあ、悪くない。


 あっという間にたいらげたイドちゃんはウェットティッシュで手と口を拭くと、サンドイッチの包装と一緒にレジ袋へしまった。


「じゃあ、容器もらうね」

「いつもごめんなさい。私が洗って返すべきなのですが」

「『こっちが勝手にやっているのに洗ってもらうなんて失礼でしょ』って言っているのはお母さんだからね。私が言うのもなんだけど、甘えてよ」

「では、失礼します」

「……私に甘えてってことじゃないからね?」


 絡みついた腕をトントンと叩いてほどいてもらう。油断も隙もないうえに、天然でやっているっぽいから困る。


 食べ終えるのを待っていたのか、お弁当箱をスクールバッグにしまった瞬間にイドちゃんが尋ねてきた。


「確認なのですが、ゴールデンウィークは空いているんでしたよね?」

「うん。交霊会の仕事、取ってきてくれたってことだよね」

「はい!」


 スクールバッグから取り出された茶封筒を受け取って中身を見る。


 ……いやいや待て待て。


「ねえ、動物霊の案件ってよりどりみどりなんだよね?」

「はい。いろいろありました」

「じゃあ、この案件を選んだ理由って?」

「小さくて可愛らしい、ペットショップにいるような動物を頼まれましたから。ぴったりなものを厳選しました」


 自信満々にそう言って、褒めてほしいと言わんばかりに頭を差し出してきた。まあ、たくさんある案件のなかから選んでくれたのは確かだと思うから、その分はなでてあげる。


 確かに、言った。先週の土曜日、動物園にもう一度行ったときに、休憩所でくつろぎながら。

 イメージしていたのは、こう、モフモフした感じ。モルモットとかハムスターとか。ふれあい広場で戯れてきたあとだったからかもしれない。


「そういう案件って他にはなかったの?」

「ありましたが、せっかくのゴールデンウィークなので、少し遠い場所へ行くのもよさそうと思って」


 二泊三日。状況次第でそれ以上。五日間まるまる使いかねないなって思って準備を整えておいてよかったよ、本当に。


「旅行ができる案件ってなかなか回ってこないらしいんです。三日間以上の休みが必要なうえに動物霊が絡んでいるので空いていたんだと思います。あと、交通費だけではなく旅費もしっかりと交霊会から出ますから安心してください」


 うーん。まあ、ちゃんと考えて取ってきた案件っていうのは分かったし、イドちゃんがなんとなくで仕事をしているわけじゃないってことはもう知っている。

 ただ、ほんの少しだけずれているっていうだけで。


「もしかして、気に入りませんでしたか?」

 ああ、もう。そんな不安そうな顔しないでよ。

「気に入らないってわけじゃないからね、もちろん」


 霊に貴賤はないとは思うし、救えるのなら全部救いたいから全力でやるだけ。

 だけどね。


 ……さすがにコクワガタは想定外だったんだよ。

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