第7話:私たち二人だから見つけられた解決策
「孤独死って、まさか、鹿森さんが?」
連絡が終わってすぐに聞くと、イドちゃんは重々しい表情のまま頷いた。
「少し声を大きくしてしまいましたね」
そう言うとイドちゃんは前を向き、ややあってからもう一度頷いた。しまった、知本さんがいるってことを完全に忘れていた。視えないとはいえ、注意しないと。
「三月中旬に、郵便物をマメに取っていた鹿森さんの郵便受けが溜まっていることを不審に思ったアパートの管理人さんによって発見されたようです。持病が突然に悪化したのかもしれません」
多分、私と知本さんの両方に伝えている。
「孤独死ですから、誰にも看取られずに亡くなったことになります。名前のとおり大きな孤独感を抱えてしまうことが多いんです。実際、霊となって放心した状態でアパートの駐車場にいることが先日に確認されたそうです」
イドちゃんの顔がこっちに向いた。今度は私向けの言葉ってことだと思う。
「四月初旬に鹿森さんの霊を確認したばかりで、優先度はまだ判断中とのことでした。ただ、孤独死は不慮な事故や自殺と同じくらいに悪霊と化しやすい亡くなり方です。孤独という形で大きな未練が残ってしまいますから。なので、早急な対応が必要ではあるんです。ただ、霊を尊重するというのは交霊会の基本方針ですし、私としても、穏便な形で解決したいです」
「うん。私も」
手段を選ばないのなら、無理矢理抱えて連れてくるってことはできるかもしれない。けど、救う方法として適しているかというと、違う気がする。
孤独感。もし、それを癒せるとしたら……。
ふと、ムシリカちゃんを視る。
――瞬間、閃光のようにぱっとアイディアが浮かんだ。
思いつくかぎりだと、これ以上の方法はない。
でも……、と心の中の私が引き留める。周りに合わせて生きてきて、常識まみれになっているままの私が。
ねえ、スズメバチのときみたいにうまくいくとは限らないんだよ?
ねえ、言うは
ねえ、馬鹿げた考えだって思わないの?
ねえ、ねえ、ねえ、……。
「どうかしましたか、リーちゃん先輩?」
はっとすると、青メッシュのぱっつんを携えた純真な顔が目の前にあった。屈んで目線を合わせてくれている。
そうだ。自然すぎて違和感がなかったけれど、イドちゃんはずっと何もないところに声をかけていたんだ。周囲の目とか、常識とかを気にしていたらできることじゃない。
私だって、霊を救いたいって気持ちは同じじゃん。どうして、尻込みなんてしているんだろう。
「ねえ、イドちゃん」
「何でしょうか?」
「一つ、方法を思いついたんだけど、すごく馬鹿げているかも」
「信じますよ」
「えっ?」
切れ長の目は真っ直ぐに私を見つめている。
「私はリーちゃん先輩を信じます。それに、馬と鹿が揃った方法なら縁起がいいじゃないですか。動物霊を相手にしているんですから」
「……ふふっ。何それ」
そんなに真面目くさった顔で言う?
でも、おかげで肩の力が抜けてくれた。
「ねえ、知本さんに鹿森さんの持ち物が何かないか聞いてみてくれない?」
「分かりました」
イドちゃんが立ち上がって尋ねると、何度か相槌を打ったあとにこっちを向いた。
「広場の草陰につば付きの帽子が落ちているそうです。強風で飛ばされてしまったのですが、場所が悪くて誰にも拾われていないとのことです」
「だったら、できるかも」
「どんな方法でしょうか?」
……いざ言うとなると、やっぱり躊躇いがある。
でも、これは動物霊が視える私と幽霊が視えるイドちゃんの二人が揃っていたから見つけられた解決策。
イドちゃんが言った「信じます」を疑う必要なんてない。
だって、真摯に受け止めてくれるはずだから。
私がどれだけ荒唐無稽なことを言ったとしても。
だから、さよならをしなきゃ。言いたいことを喉の奥に押し留めて、周りに合わせてしゃべっていただけの、常識に縛られた私自身と。
「バスを使って連れていく。ムシリカちゃんを、鹿森さんのところに」
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