第5話麦くんと芽衣ちゃん
桜木町の雑居ビルの三階。
父親に住まわせてもらっている少し広めのワンルームに、麦くんと彼女の芽衣ちゃんが、並んで正座をしている。
俺の目の前で。
麦くんはモテる。昔からモテる。顔がとりあえずかわいいのだ。クリクリの目とすらっとした鼻、中性的な顔立ちは、小学校から今まで、PTAのお母さんたちから女教師、後輩同級生先輩ペットの犬猫バイト先の主婦までとりあえず相手が♀なら、モテなかったことがない。
そして麦くんはおつむが緩い。口なんて何時も半開きだ。
その緩さもなぜか良い感じに作用し、麦くんはとりあえずモテる。
そして横に座っている芽衣ちゃん。
いつ麦くんと出会ったの知らないが、もう一年はお付き合いをしている。
牡蠣みたいなビラビラに黒いパイピングが入ったシャツにふわふわの短いスカート、厚底ブーツにツインテール。見事な地雷系。
芽衣ちゃんも口は半開きで、垂れ目で、ほわほわしてて、なんと言うか、本当にお似合いの似た者カップルだ。
「こどもできちゃったー」
芽衣ちゃんがヘラヘラ俺に教えてくれる。
「おめでとうね」
と、俺が言うと、ニヘラーと笑い、
「ありがとねー」
と、嬉しそうに言った。
麦くんて高校出てからカードゲームの転売ヤー以外で仕事してたっけ?
赤ちゃん生れるなら金は必要なはずだ、経験がないのでよく分からんが。
「それで麦くん、これからどうするの? 俺も今、家追い出されてて、援助とか、満足にできる気がしないんだけど」
麦くんにそうきくと、
「うん、働こうと思って、スカくんのパパのとこで、丁稚とかできないかな?」
と、言ってきた。
ダンジョンアタッカー。
こんなことは言いたくないが、麦くんは、きっと芽衣ちゃんも学力は低い。すんなりすぐ稼げる仕事にはつけないだろう。
ダンジョンアタッカーを考えるのは、順当かもしれない。
父親に電話をする。
『あー明日からおっきな現場に入るからな、手がねえ、一週間くらいはそっちに顔出せそうもなくてな、皇海、お前麦くんに付き合ってダンジョン行ってやれ、そもそもスキルがでなきゃアタッカーにはなれねえんだ、そこまで確かめてやれ』
と、言われる。
麦くんにアタッカーとスキルのことを説明し、スキルがないとアタッカーになれないことを告げると、
「そっかー、がんばるぼく」
と、全然わかってなさそうな返事が返ってきたので、とりあえず芽衣ちゃんに一つしかない布団をゆずり、俺と麦くんはフローリングの床にごろ寝する。
まだ五月。
けっこう寒かった。
麦くんも寒かったのだろう、夜中寝ぼけて抱きついてきてウザったかった。
朝おきると、芽衣ちゃんが申し訳程度についているキッチンで料理をしていた。
「おはよー、ごはんたべるー?」
と、きいてくるので麦くんをおこし、歯を磨き、顔を洗い、三人で朝ご飯を食べる。
目玉焼きとロールパン、ウィンナーを焼いたやつ、ミルク。
そりゃあるものだけで作ったおままごとのような朝ご飯かもしれない。これを料理と言ったらグチグチ言ってくる人がいそうなくらい幼稚な朝食かもしれない。でも俺は芽衣ちゃんの、頑張って作ってくれたその気持ちに感動した。嬉しかった。
麦くんも、おいしいおいしいと食べ、芽衣ちゃんが、ほんとー? ありがとー、とニヘラと笑う二人を見ていて、この二人には幸せになって欲しいと感じた。
とりあえず麦くんと二人、みなとみらいのダンジョンに行こうかとすると、
「あたしもいくー」
と、芽衣ちゃんも言い出し三人で向かうことになる。
さくら通りをぬけ、真っ白いダンジョンの建物に入る。
受付で、麦くんのダンジョンアタッカー申請をすると、芽衣ちゃんが、
「あたしもするー」
と、言うので、妊婦はヤバい妊婦は、と説得し、ロビーで待っててもらう。
俺と麦くんと職員さん三人でダンジョンの入り口、二十メートルはある観音開きの門の半開きの扉の間を通ると、
「あっ、」
と、麦くんが声を上げる。
スキルが生えたらしい。
「麦くん、スキル何?」
俺がきくと、
「うん、美人局だって」
と、麦くんが答える。
スキル美人局、職員さんもゴミを見るような目で麦くんを見ている。
麦くん…………………。
ダンジョンから出て、受付に備え付けてあるインターフェイスで、俺と麦くん芽衣ちゃんの三人で麦くんのスキル樹形図を見る。
『ジゴロ・スキル・美人局→ポン引き』
樹形図が一本道だ。それにしても最初のスキルがポン引き、麦くん……。
職業はきっとこのジゴロだろう。
「麦くん、スキルおめでとー」
芽衣ちゃんは何も気にせず、と言うか、美人局の意味も分かっていないのだろう、麦くんと手を取り合い、ぴょんぴょん跳ねている。
妊婦さんだからね、跳ねないでね。
はしゃぐ二人を止め、芽衣ちゃんをロビーに残し、麦くんと二人もう一度ダンジョンに戻る。
大通りから外れ、脇道を行く。
「スカくん、なんかスキルのやり方が分かる感じがする」
と、麦くんが言い出し、
「おきゃくさーん、いいこいますよー」
と、いきなり言い出した。
何やってんだと思ったら、確実に発情したゴブリンが一匹いきなり現れ、麦くんに寄っていく。
攻撃的な感じじゃなく、欲望に染まった、エロそうな目で、麦くんに近づいていく。
麦くんはゆっくりとゴブリンの後ろに回り込み手の平大の石を拾い、後頭部を思いっきり殴りつける。
エロい気持ちでいっぱいだったゴブリンが無防備に、急所に一撃を喰らい、ぐべーと言いながらうつ伏せに倒れた。
それから麦くんが倒れたゴブリンの後頭部に何遍も石で殴りつけ、そのうちドロドロに溶け、ダンジョンに吸収されていく。
麦くんは靴を脱ぎ、靴下を片方脱ぎ、ポケットから小銭をジャラジャラ靴下の中に入れていく。
麦くん小銭持ちすぎだろ。
靴下パンパンだ。
「消費税って、なんかよく分からないうちに小銭が溜まってくよね」
と、はにかむように笑う麦くん。
小銭の計算とか、確かに麦くんには難しいかもしれない。なんか納得してしまった。
簡易的なブラックジャックを作った麦くんがまたポン引きを発動し、ワラワラゴブリンがエロい顔して寄ってくる。
エロに頭がやられ無防備になっているゴブリンの後頭部を小銭靴下で滅多打ちにする麦くん。寄ってきたゴブリンが多いため、俺も「あぽぅ」と言いながらチョップでゴブリンを殺していく。
めちゃくちゃ効率がいい。
麦くんが呼んで、俺と麦くんで殲滅。
二時間ほどで百近いゴブリンを殺しまくった。
麦くんの小銭靴下がその使用用途を大きく逸脱した使い方に耐えられず、千切れ飛び、狩りはそこで終わり、ポケットいっぱいにビー玉サイズの魔石を詰め受付に帰る。
ロビーで待っていた芽衣ちゃんがやってきて、三人で換金をすると、魔石の数は百十七個、今日の売り上げは五万八千五百円也。麦くんと山分けで一人二万九千二百五十円。ホクホクだ。
まず三人でニトウリに行き、麦くんと芽衣ちゃんの布団を買い、生活用品を買い、ウニクロで着替えを買って、靴下を三十足買った。
雑居ビルに帰り、買ったガスコンロでささやかなお祝いの鍋パーティーをし、眠った。
麦くんがなんとかダンジョンアタッカーになれそうで、一安心した。
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