黒い板は確かに蝕んでいる

ヨイクロ

そこは確かに……

 朝日がが森林にを届け始める。


 訳もわからずこの世に生を受けた時から何一つ変わらない日の入り。


 気付いたら飯があった

 

 気付いたら家があった

 

 気付いたら親が消えた


 気付いたら子供がいた


 何も考えずともが勝手に体を動かしてくれる。だから日が昇れば起きるし、日か沈めば寝る。


 しかし今朝は本能が働かなかった。


 いつも通り近くの湿原で水を飲もうとしたときだ。住処から飛び立ち、体に刻まれた記憶を頼りに進んでいく。しかし目的の場所には、本能では処理しきれない景象がある。



 湿原だった場所に砂漠ができていた。



 よくわからないが、何かによって一帯が砂漠になったのだろう。ただ、住処が砂漠になっていなかったのは僥倖だと思う。


 そんな安心感により思考が放棄され本能に支配される。水を得るため、今度は湖に向かった。


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 突然できた砂漠は、日に日に拡大していった。その分だけ湿地は減っていった。大きな鉄の塊が地面を削り取り、平らにしていく。 それは餌を減らしている行為に他ならないがもはや見慣れた光景だ。


 別に住処は、無くなっていない。別に命は危険に晒されていない、しかし理性………いや、体を動かさない方のが、嫌な予感を感じ取っていた。


 そこにひとつ、またひとつと黒い板が置かれていく。何に使うかわからない、何をしてくるのかわからない。ただ、少なくともそこには住めないな、と感じ取れた。その住めない板が増える度に、我が物顔で共有地を荒らしている事を感じ取り、不愉快になる。



……そうか、こんなにストレスなら住処を移せばいいじゃないか。



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 最近、北海道の釧路湿原にメガソーラーを設置しているというニュースを見ました。


 別に私に専門知識は無いので、頭ごなしにソーラーパネル設置を否定することはできませんが、ラムサール条約で保護されている土地ですし、それに何より湿原という特殊な土地をソーラーパネルごときに使ってよいものかと疑問に思いますね。


 本文では、出来るだけ今起こっていることに忠実にフィクションを書いてみました。拙著を読んだ方が、(ソーラーパネルに限らずですが)社会問題について考えるきっかけになれたなら幸いです。

 

 

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