第9話
スパイク・ボアは喉の奥から唸り声を上げた。唾液が口から泡立ち、傷ついた脚とえぐられた目から血が滴り落ちている。その巨大な体は怒りで震え、大地を掻くたびに地面が揺れた。再び突進する準備をしているのだ。
デイビッドはスティッキーをまるで伝説の剣のようにくるくると回した。先端からはまだスライムが滴っている。
「よし、ダリル。このポークチョップをグリルに乗せようぜ!」
ダリルは鋭い横目を投げ、表情は冷静で殺気を帯びていた。
「調子に乗るな。一歩間違えば真っ二つにされる。」
デイビッドは気にせず笑った。
「落ち着けよ、俺にはプロットアーマーがある。」
「……プロット、何だと?」
「気にすんな!」
再びボアが突進してきた。蹄の下で土が爆発的に散る。ダリルが先に走り出し、剣士のような精密な動きで斜めに斬りつけた。刃が肉に深く食い込み、火花が散る。
ボアが悲鳴を上げ、よろめく――だが止まらない。
「次は俺だ!」デイビッドが叫び、狂人のように突っ込む。
下げた頭に片足を乗せ、高く跳び上がり、スティッキーを傷ついていない目に叩きつけた。ズチャッ!
スライムの残骸が目の上に広がり、怪物の視界を半分奪った。
スパイク・ボアが激しく暴れ、デイビッドをぼろ切れのように宙へ放り投げた。彼は叫び声を上げながら宙を舞い――奇跡的に再び背中の上に着地した。
「俺のこと気に入ったみたいだな!」デイビッドはカウボーイのようにまたがりながら笑い声を上げた。
「お前を殺したいだけだろ!」ダリルが怒鳴り、後脚を斬りつけて注意を引き裂く。
ボアは激しく回転し、デイビッドを振り落とそうとした。彼は短いスパイクの一本に必死でしがみつき、スティッキーを鞭のように振り回した。
「イーハー! 今から俺がボア・テイマーだ!」
「ふざけてないで攻撃しろ!」ダリルが怒鳴る。
「わかったよ、わかった!」
デイビッドは危ういバランスで立ち上がり、スティッキーを高く掲げ、背中の棘の間に何度も突き刺した。
「悪いブタめ! 悪いブタだ!」
「おい……まじかよ……」
デイビッドが言い終える前に、怪物は突進してきた。
回転する巨大な塊が、凄まじい衝撃とともに二人にぶつかった。
ドオオオオオオオオン!!
デイビッドとダリル、二人とも空へ吹き飛ばされ、身体が空中で激しくねじれた。
風を切って、デイビッドの叫びが響く。
「ダリィィィィィィィィィル!! これ最悪だああああああああ!!」
ダリルは歯を食いしばり、サーベルをしっかり握りながら上昇していく。地面がどんどん遠ざかっていく。
下では、スパイク・ボアが回転しながら、二人が落ちてくるのを待ち構えていた。
空中で、二人は並んで宙に浮かびながら、同時に目を見開いた。
デイビッドがバタバタと暴れながら叫ぶ。
「ダリル! ダァァリル! 俺たちマジで死ぬぞおおお!」
ダリルは死に向かって落ちているというのに冷静だった。
彼は腰のベルトに結んであったロープを取り出し、正確にデイビッドの腕に巻きつけた。
デイビッドは叫びの途中で目を瞬かせる。
「ちょ、なんだこれ!?」
ダリルはロープを引き寄せ、デイビッドを自分の方へ引き寄せながら言う。
「俺は今日死なねぇ。だが――お前が終わらせるんだ、ミスター・ホーク。」
デイビッドの目が見開かれ、心臓が高鳴る。
「終わらせる? 何を――まさか、おい、やめろよ!」
ダリルは空中で体を固定し、腕に力を込め、デイビッドを円を描くように振り回し始めた。
最初はゆっくりだったが、回転はどんどん速くなり、風がロープを唸らせた。
デイビッドはぐるぐると回されながら、スティッキーを握りしめて叫ぶ。
「ダリルゥゥゥ! 目が回るってば!!」
「いいことだ。少しは黙るだろ。」
「おいおいおい、吐きそうだって! ちょ、なにやってんだよ!?」
ダリルの声が鋭く響いた。まるで死刑執行人が判決を言い渡すように。
「お前をあのスパイク・ボアに投げつける。」
デイビッドの顎が落ち、風が頬を叩いた。
「はぁぁぁ!? マジかよ!?」
「その棒を使え。」
デイビッドはスティッキーを見下ろし、スライムが光を反射しているのを見た。
そして下を見る。回転する地面と、待ち構える怪物。
それでも、彼の口元には自然と笑みが浮かんだ。
「……へっ。いいぜ。スティッキーと俺でやってやる。」
下ではスパイク・ボアがまだスパイクボールの形で回転していた。
その一つの血走った目がデイビッドを見据え――そして、一瞬怯えたように震えた。
ダリルは最後の一振りを加え、叫んだ。
「行けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
デイビッドは大砲の弾のように真っ直ぐ落下した。
スティッキーを頭上に掲げ、勢いでまるで燃える流星のように見えた。
「スパイク・ボアァァァァァァァァ!! ぶっ倒れろおおおおおおお!!」
ボアは恐怖に怯え、スパイクを震わせ、悲鳴を上げた。
そして――
ドオオオオオオオオオオン!!
デイビッドが突き刺さるように衝突した。
土とスライムと血が爆発し、戦場を巨大な煙が包み込んだ。
衝撃波で老人の荷馬車が傾き、ロバが恐怖で鳴いた。
空から、ダリルは息を吐き、肩の力を抜いた。
上がる煙のキノコ雲を見ながら呟く。
「……やりやがったな。」
次の瞬間、重力が彼を引き戻した。
「あ、そうだったな。」
ドシャッ!
顔面から地面に落ち、体を泥の上に投げ出した。
彼は土に向かって呻く。
「……毎回これだ……」
戦場は静まり返った。
ただ、デイビッドが着地した場所から上がる煙だけが残っていた。
それが勝利の証なのか、それとも――さらなる地獄の始まりなのかは、誰にもわからなかった。
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