第2話
スライムが飛びかかってくると、デイビッドは棒を大きく振り回した。
木がゼリーのような体にぬちゃりと当たり、スライムはゴムボールのように後方に跳ね飛ばされた。
彼は自分の手にある棒を見つめ、目を見開いた。
「うお……マジか。ほんとに効いたのか?」
口元に不敵な笑みが浮かんだ。
「おぉぉ……これは面白くなりそうだ。」
彼は突進し、アドレナリンが急上昇した。棒を高く振り上げ、スライムに叩きつける。
ぐちゃっ。青いスライムが草の上に飛び散った。
「どんな気分だよ、ああ?!」
デイビッドは叫び、声が裏返った。
「どんな気分だよ、ジャニー!?ああ!?気持ちいいか?!」
彼はさらに棒を力強く振り下ろした。
「俺が全部やったのに浮気かよ、この自己中のクソが!」
棒は何度も振り下ろされた。彼の腕は震えていた。
「それとよ、クソ親もな!オレに全部のせいだと思わせやがって!」
さらに一撃。
「そしてお前もだ、クソ上司!」
木の棒が激しく当たり、スライムの粘液が顔と胸に飛び散る。
ようやく攻撃を止めたとき、スライムは蒸気を立てる水たまりと化していた。
デイビッドはその上に立ち尽くし、汗を滴らせながら、腕を震わせていた。
彼は粘液で濡れた棒を見つめた。
「……ちょっとやりすぎたかもしれない。」
かすれた声でつぶやいた。
「完全にやりすぎだ。」
彼はよろよろと後ろに下がり、草の上に座り込んだ。まだ呼吸は荒い。
風が首筋の汗を冷やしていく。
聞き覚えのあるチャイムが鳴った。ホログラムが草の上に再び現れる。
「スライムを倒しました。この情報はデータベースに追加されます。」
ベポの明るい声が響いた。
デイビッドは目を細めて見上げた。
「へぇ、ありがとな、声さん。なんだか知らんけどな。」
彼の頭上に半透明のバーが浮かび上がり、+15 EXP と表示されて上昇した。
レベル表示が 0 から 1 に点滅する。
さらに別のホログラムウィンドウが現れ、勝利の音が鳴った。
「おめでとうございます、ホーク・メイサー!レベルアップしました。ステータスポイントを割り振り、スキルを選択できます。」
デイビッドは青い文字を見てまばたきした。
「へぇ……これは結構すごいな。」
パネルが開き、ステータスが表示される:
筋力:1
敏捷性:1
スタミナ:1
魔力適性:1
ステータスポイント:2
彼は顎をさすりながらつぶやいた。
「うーん……どれに振ろうかな。魔法?いや、俺に呪文が使えるとは思えん。ホークならできたかもだが、証拠も経験もねぇ。却下。」
彼は「筋力」を1回タップした。数値が2に上がり、腕が筋トレ後のようにビリビリと感じた。
「いいね、いいね。かなりいい感じだ。」
もう一度タップ。筋力:3。棒の握りがしっかりしていて、今にも折れそうな感覚。
スキルメニューが開き、3つの選択肢が表示された:
ダッシュ – 一気に移動
ランニング – 走る能力を回復
二段ジャンプ – 空中で二度ジャンプ
デイビッドは首を傾げた。
「えーと……ランニング、当然だな。今の俺、走れもしねぇし。」
彼は「ランニング」を選択。青い光が胸から足へと広がり、電気のような温かい刺激が全身を駆け巡る。ホログラムはふっと消えた。
草原にひとり立つデイビッド。足を軽く動かし、棒を構える。
「じゃあ……試してみるか。」
彼は前傾姿勢をとり、走り出した。足が草を踏みしめる感触は軽く、シロップのような鈍さはない。
さらにスピードを上げ、世界がぼやけ始める。
「オレは……!」声が震える。
「走れる!オレ、走れるぞおおおお!!」
彼は歓声を上げながら草原を駆け抜けた。涙が頬を伝い、風が肌を叩いた。
何年ぶりかで、自分が生きていると感じた。
しばらくして、デイビッドは果てしない草原から抜け出した。
木々が柱のように立ち並び、葉がささやく。空気は冷たく、松と湿った土の香りが漂う。鳥のさえずり、水の音が遠くから聞こえる。
「すげぇ……」
木々の間に伸びる細い土道に足を踏み入れながらつぶやいた。
「まるで夢の中だ。どうやってここに来た?他の奴らは?まさか、人間は俺だけか……?」
顎をさすり、にやりと笑う。
「でももし、俺だけが男で、女がいたら……ふふっ。女……」
ニヤニヤと grin。
「俺と……子孫を残すしか……って、いや、それはまずいな。」
首を振る。
「落ち着け、デイビッド。集中しろ。」
道は森の奥へと続いていた。木漏れ日が差し込み、静かな光が差し込む。
そのとき――動きが。前方に、杖をついた人影が見えた。
デイビッドの心が高鳴る。
「人だ!」
彼は棒を振りながら走り寄った。
「やあ、おじいさん!」
老人が振り返った。長い灰色のひげを蓄え、つぎはぎのマントを羽織っていた。杖には見たことのない模様が彫られている。
「おや、こんにちは、若者よ。」
その声は穏やかだが、目は鋭かった。
デイビッドは満面の笑みを浮かべた。
「うわぁ、ほんとに人間だ!誰もいないかと思ってたよ!」
老人はほほ笑んだ。
「それは光栄だ。実は町に向かってい――」
「ちょっと待った。」
デイビッドは老人の杖をじっと見つめながら口を挟んだ。
「茶番はやめよう。杖をよこせ。」
老人がまばたきした。
「な、何だと……?」
デイビッドはスライムまみれの棒をバットのように構えた。
「もう一度言わせるな。杖を渡せ。さもないと、これで叩きのめすぞ。」
棒の先から青い粘液が垂れている。
老人の笑みが消えた。
「そうか……なら仕方ないな……」
デイビッドはにやりと笑った。
「思ったより頭の回るジジイだな。」
だが、杖を差し出したその瞬間、老人の握りが変わった。
驚くほど素早く回転し、杖をデイビッドの鼻に叩きつけた。
激痛が走り、HPバーが 6 → 3 に点滅する。
血が唇から噴き出し、鼻を押さえて後退した。
「なんだよクソッタレ!?」
老人はまっすぐ立ち、目は冷たくなっていた。
「何もおかしくない。お前のような盗人から自衛しただけだ。」
杖を再び構え、彫刻が淡く光り始める。
「次に誰かを襲う前に、お前を始末しておくとしよう。」
デイビッドは棒を握りしめながら後退し、血が森の地面に滴る。
「待て、待ってくれ、じいさん――」
老人が一歩踏み出すと、森は静寂に包まれた。杖が、低く唸るように光を放った。
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