第29話 逃げてきた妖精

 あくびとけのびをしてベッドから出ると、ギフト君は外にある畑に向かいました。


 お家の玄関をなんぎして開けて、昨日ふった雨の水たまりにキラキラを見つけます。


 外に一歩出てみると、つるつるすべって向かい側の木にぶつかって止まりました。


 気を取り直して畑に向かうと、なんだか冷たい風が吹いています。


 ギフト君が思わずくしゃみをすると、畑の中からふたつの悲鳴が聞こえます。


「誰かいるの?」


 声のしたほうに向かうと、


 そこにはかじった野菜を持っている背中に羽根のある妖精がふたりいました。


「おなかすいてるの?」とギフト君。


「恩は必ず返すから、ここにおいてくれ!」


「お願いします!」


 頭を下げたその男の子の名前をラウ、女の子の名前をトバリと言うそうです。


「人間に見つかって、逃げてきたはいいけど、里に売られたんだ」


「それに・・・もう・・・ちから、が・・・」


 空中から地面に落ちそうになったトバリを、ギフト君はとっさにキャッチしました。


 急いでお家の中にふたりをまねいて、冷蔵庫を開けてアイスクリームを食べさせました。


 みるみるうちに元気になってきたふたりは、冷蔵庫に住みたいと言い出しました。



「あの・・・それから・・・」


「窓・・・の、ところ・・・」



 必死に窓をたたいているのは、テントウムシホタル。


「僕たちのトモダチ、冬の世界が平気なテントウムシホタル、名前はチャップ」


 チャップはおしりの光をてんめつさせます。


「あいさつをしているんだね。いてもいいよ」とギフト君。



 ギフト君が絵に書いたお家を、冷蔵庫の中に作ります。


 そのお家の中に入ると、妖精たちは安心したのか眠りはじめました。



 寝ぼけていたムルムルが「アイスが食べたい」と朝ご飯のあと言い出します。


「そうだ、紹介しないと」


 ムルムルを片手に乗せて冷蔵庫を開けると、警戒したチャップがおしりを光らせます。


「どういうこと?」とムルムル。


「今日から、住むって」とギフト君。


「どういうこと?名前は?」


「ラウとトバリとチャップ、だよ」とギフト君。


「名前おぼえてやる気なんてないけどね!!」


 ムルムルは生まれて初めて、自分で冷蔵庫の扉を閉めましたとさ。





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