第31話 叙勲と誓い

 都市ガルドの中心にそびえる、白銀の尖塔――ガルド公爵邸。


 広大な中庭を抜け、悠真たちは重厚な両扉の前に立っていた。

 扉には白銀の紋章が刻まれ、二体の獅子が王冠を掲げている。

 静かに扉が開かれた瞬間、冷たい石床を照らす光が差し込み、赤い絨毯が玉座へと続いていた。


 壁には歴代の勇者たちの肖像画。

彼らの鋭い視線が、まるで今を生きる挑戦者たちを見据えているようだった。


セレナ「……緊張する。まさか、また公爵様の前に立つ日が来るなんて。」


リサ「背筋、伸ばして。ほら、肩が下がってる。」


セレナ「だって! あの門番さんからして威圧感すごかったのに!」


ミリア(小声で)「あの人……クリスティアのお父様、なんだよね?」


クリスティア「ええ。けれど今は“父”ではなく、“領主”ですわ。……覚悟しておいてくださいね?」


 その一言に、セレナはぎこちなく笑った。

 リサはため息をつき、悠真は無言で頷く。

――そして、五人は並んで歩き出した。

 都市ガルドを救い、闇を斬り裂いた“蒼紋剣”の英雄たちとして。



 高い天井、壁一面に描かれた古の英雄たちの絵画。

 重厚な空気が流れる中、中央に立つ一人の男――

 ガルド公爵。クリスティアの父であり、この地の支配者。


「――面を上げよ。」

 重く、低く、しかしよく通る声が響いた。

 その主――ガルド公爵は、灰銀の髪に深い蒼の瞳を持つ威厳の男だった。

 年齢は五十代半ばほど。

 しかし背筋は微塵も曲がらず、その佇まいは都市を統べる者そのものだ。


「顔を上げよ。勇敢なる者たちよ。 都市ガルドを、そして我が娘を救ってくれたこと。心より感謝する。 そなたらの勇気は、この都市の誇りだ。」


 彼の言葉に、玉座の間の空気が引き締まる。

 護衛騎士たちが沈黙し、クリスティアでさえわずかに姿勢を正した。

 悠真が一歩前に出て、深く頭を下げる。


「……過分なお言葉です、公爵閣下。俺たちは、ただ――」


「謙遜は無用だ。貴公らの奮闘なくして、この地の夜明けは訪れなかったであろう。」


 灰銀の瞳が一人ひとりを見つめる。

 その視線には、権威だけではない――確かな敬意と温かさがあった。


「……特に“蒼紋剣”の輝きは、我が兵たちの心を照らした。

その光が絶望を退けたのだ。感謝する。」


 悠真は頭を下げた。

 その背中を、セレナとリサ、そしてミリアが静かに見守っていた。

 その言葉に、空気が張り詰める。

 だが公爵の瞳には、厳しさと同時に“信頼”が宿っていた。

 やがて公爵は立ち上がり、杖の先で床を軽く叩いた。

 背後の従者が壁に掛けられた板を示す。そこには“冒険者ランクの紋章”が刻まれていた。


「そなたらの功を正当に示すために――冒険者ランク制度について改めて伝えておこう。」


 厳粛な声が、広間に響く。

 悠真たちは背筋を伸ばした。


「冒険者ランクは、国とギルドの信頼を示すもの。

 Fは見習い。荷運びと雑用が主。

 Eでようやく“冒険者”を名乗れる。

 Dは熟練、小隊を率いられる。地方では英雄と呼ばれよう。

 Cは国家公認、“銀等級”。都市防衛を任せられる。」


 そこで一度間を置き、公爵は続ける。


「B――“黄金等級”。一人で魔物の群れを殲滅できる者。

 A――“英雄等級”。軍を動かす権限を持ち、王都でも名を刻まれる。

そして――S。“勇者候補”。国家最上位の称号である。」


「勇者候補……」

 ミリアが小声で呟く。


「さらに、その上がある。」

 公爵の声が重く響く。


「SS。“真なる勇者”の称号。

 王が直々に叙勲し、国家を超えて認められる者。

 百年に一人出るかどうか……伝説の存在だ。」


「……Sの上があったんだ。」

 リサが目を丸くする。


「まだCにも届いてなかったのにね。」   

 セレナが苦笑。


「遠いわね……勇者の階段。」

 ミリアの言葉に、悠真が微笑んだ。


「でも、登るしかないだろ。」


 その瞬間、公爵の口元がわずかに緩んだ。


「その意気や良し。ゆえに――」


 ガルド公爵は再び杖を掲げ、宣言する。

「セレナ・ハーヴェル。」

 セレナが息を呑む。


「魔力制御と防衛魔法により、多くの民を救った。その功、見事である。

よって、DからCランクへ昇格を命ずる。」


「っ……はいっ! ありがとうございます!」


 セレナの瞳が潤んでいた。

 隣でリサが小さく笑う。


「リサ・レインウィンド。」

 遠距離支援と索敵能力により、作戦を支えた。同じく、Cランクを授ける。」


「ありがたく頂戴します、公爵閣下。」


「そして、ミリア・ヴァレン。

聖光と魔導を以て、暗黒の中に希望を示した。汝にも、Cランクを授ける」


 ミリアは少し頬を赤らめながら、膝をついた。


「……光栄に存じます。公爵閣下。」


「よい。胸を張るがいい。“Cランク”――それは王都に認められた“都市の盾”だ。」


 三人は互いに微笑み合う。

 セレナはこっそりリサとミリアの手を握り、ミリアはわずかに頬を染めていた。


 会場が静まる中、公爵の目が悠真へと向けられる。


「最後に――蒼紋剣の英雄、ユウマ。」


 その名が呼ばれた瞬間、場の空気が変わった。

 護衛騎士たちでさえ、呼吸を止める。


「……えっ、俺?」

「そなたの名はすでに王都に届いておる。」

 ガルドは微笑む。


「本来であれば、“Sランク”――勇者候補として叙勲したいところだ。

 だが、それは公爵権限を超える。王家の認可なくして授与できぬ称号だ。

 ゆえに、私は王都宰相に申請を行った。特例として、“勇者試験”への参加資格を授ける。」


 静寂が――破れた。


「ゆ、勇者試験……!?」

 セレナの声が跳ねる。


「それって……Sランクの“勇者候補”しか受けられないはず!」


「つまり――ユウマ、事実上のSランクじゃない!」

 リサがにやり。


「え、えぇ!? 待て待て、それは違っ――!」


「もう“蒼紋の勇者”でいいんじゃない?」


「おめでとう、勇者候補様。」

 ミリアが静かに微笑む。


「や、やめてくれぇ……恥ずかしいだろ!」

「照れてる。」

「素直でよろしい。」


「いじるなぁ!!」


 笑いが広がる謁見の間。

 だがその奥で、クリスティアだけは静かに――誇らしげに微笑んでいた。



 夕刻。

 領主邸の中庭。花壇の傍に、黄金色の光が差し込む。


「……Cランク、かぁ。ずっと遠いと思ってたけど、ついに。」

 セレナが呟く。


「ここからが本番よ。上を目指さなきゃ。」

 リサが矢筒を撫でる。


「ユウマは勇者試験……私たちも負けてられないわ。」

 ミリアが微笑んだ。


「いや、俺一人じゃ何もできなかった。これからも――一緒に行こう。」


「うん、約束だよ。」

 セレナの瞳に、夕陽が反射する。


 その横で、クリスティアがそっと手を胸に当てた。

「ふふ……やっぱり、あなたたちって素敵ですわね。」


 鐘の音が遠く王都から届く。

 夕陽の空に、仲間たちの笑い声が溶けていった。


 それは――

 新たな運命の幕開けを告げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る