18
「今から昼飯ですか?せっかくなので、ご一緒しても?」
突然の出会いに呆然とする千歳をよそに、葵はにこにこと明るく笑いかけてくる。
何となく気まずさを感じて踵を返そうとした千歳だったのだが、「おい、早く中へ入ってくれよ兄ちゃん」と、後ろはつかえており、完全にタイミングを見逃してしまった。
「……ええ、どうぞ」
気乗りはしないが、休憩時間も限られている。仕方ないとここは割り切って葵との食事を受け入れることにした。
「いらっしゃいませー!」
がやがやとした店内で、一番奥の座席に通された二人は対面に座った。うどんや蕎麦、丼ものなどの定食が揃い、味にも定評のある人気店とあって、昼時の今日も店内はほぼ満席で賑わっている。
「お義兄さんは何にしますか」
葵は千歳の方にお品書きを向けながら、何を食べようかと思案していた。黒い髪に、少し垂れ目がちな瞳は、姉の椿とよく似ている。
「では、私は天ぷら蕎麦定食を」
「了解しました。すみません、注文いいですかー!」
店員を呼んだ葵は注文を済ませ、改めて千歳に向き直る。
「こんなところで会えるなんて奇遇ですね」「この定食屋にはよく来るんですか」などと言う葵の話に相づちを打ちながら、料理が届くのを待つ。
千歳が話さなくても葵はよく喋り、会話が途切れることがなかったのは幸いだ。人懐っこいところは、部下の朝比奈にどこか似た雰囲気があるな、と感想を抱く。そんな中、葵が「ところで」と話を切り出した。
「……姉は、元気にしていますか」
話の途中、ふと葵が言った言葉に茶を飲んでいた千歳の手が止まる。
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