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 ◇◇◇


「院瀬見、見合いはどうだった?」


 仲人が指定した料亭で見合いを済ませた翌日、千歳が出勤すると、ほどなくして隊長である相模が執務室にやってきた。


 千歳よりもやや背が高く、右目には眼帯、頬には十字傷。見た目で怖がられることが多いのは千歳と同じだったが、強面の外見に反して面倒見がよく、人情味のある相模を慕う人間は多い。そんな上司のからかうような視線に、千歳ははあとため息をついた。


「……なんで、俺より隊長の方が楽しそうにしてるんですか」

「『特務部隊の氷月』が結婚となりゃ、そりゃあ面白いに決まってんだろ」

「……人の結婚を何だと思っているんですか。あと、そのふざけた二つ名で呼ぶのやめてください」

「いいじゃねぇか、お前にぴったりで」


「まったく」と呆れながらも仕事に取り掛かる千歳に、懲りもせず「それで」と先を促す相模。朝比奈しかり相模しかり、この職場には他人の結婚に興味津々の人間が多いらしい。


 話すまで出ていってもらえないだろうと推察した千歳は、椅子に深く腰かけ、昨日の出来事に思いを巡らせる。


「……別に、特には。おっとりとしていて、箱入り娘のお嬢様、といった感じでしたよ」


 千歳の言葉に、「ふーん」と意味深に笑う相模。


「四ノ宮といえば、この辺りじゃ派手さはないが、昔からの家筋で知られてる名家だからな。『箱入り娘のお嬢様』は、確かにそうだろうよ」

「何もないところでつまづいたり、隙だらけで危機感があまりないというか……。怪しい壺をすぐに買ってしまいそうなタイプに見えました」

「おうおう、ひどい言われようだな」


 豪快に笑う相模に、千歳は「そういえば」と静かに言葉を継いだ。


「……夫らしい振る舞いは期待しないでくれと伝えたら、『私のことはお構いなく』と、笑っていました。ひどい男だと罵られて破談になるかと踏んでいたんですが」


 顎に手を当て考え込む千歳に、相模は「おい!」と突っ込んだ。


「お前、俺が推薦した見合いだぞ?!」

「ですが、家庭を持つのは面倒なだけだと思っています。今の仕事では帰宅できる日も限られていますし、一人のほうがずっと気楽ですから」


 相模は相変わらず仕事人間な部下に、はあと大きなため息をついた。

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