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「案外いいものかもしれませんよ?結婚って。相模隊長も、なんだかんだで夫婦仲がよさそうですし。副隊長も、めちゃくちゃ愛妻家になっちゃったりして」


 朝比奈が楽しげにそう笑えば、「くだらない」とすげない返事が返ってくる。


 けれど、朝比奈は知っていた。


 冷酷無比と噂される上司が、実は義に厚く、面倒見のいい人であることを。いまもこうして大量の書類を捌いているのも、体調不良で倒れた部下に休みを取らせているからだということを。


 冷たいようでいて、なんだかんだで困っている人を放っておけない性格はこの上司の尊敬できるところでもあった。


「なにはともあれ、結婚した暁には俺にも副隊長の奥さんを紹介してくださいね」


 にっと笑い、ソファから立ち上がった朝比奈は、そのまま千歳の側により、書類の束を手に取った。「俺も手伝いますよ」と続ければ、眉間にシワを寄せて疑わしげに見つめてくる千歳。


「そんなことをしても家には呼ばないぞ」


 よほど朝比奈に妻を紹介する機会を設けるのが面倒なのか。相変わらずの上司に、朝比奈は笑みを溢しつつ、「副隊長にいいお嫁さんが来たらいいのに」などと心の中で願っていた。

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