第14話
「私、ついに気づいたんだよね」
優雅なランチタイムと洒落こむ昼休み。
まだ休憩時間は始まったばかりだが、千波は一旦手に持った箸をことりと箸を置いた。
「気づいちゃったんだよね……この世の真理に」
真剣な表情の千波に私たちはまたかとため息をついた。
「千波、食事中に肘付くのはお行儀悪いよ」
「ふふ、ヒメ。いい子ちゃんぶってるところ悪いけど、今日の私には効かないよ」
とは言いつつ、千波は体を起こして姿勢を正す。
「で?ちなみんは何に気づいたの?」
「よくぞ聞いてくれたね、美伽梨。私、ついに彼氏を作る方法を考えたんだよ!」
「ほう、めちゃモテ?」
「うん、めちゃモテめちゃモテ」
ニコニコ盛り上がっている二人。
「で、何に気づいたの?」
冴ちゃんは弁当を食べ進めながら続きを話すようにうながす。明らかに二人との間には熱量の差を感じる。
「あのね、何で私が今まで彼氏が出来てこなかったか、皆には分かる?」
「そりゃあ……」
千波のあくなき筋肉への欲求じゃないの?と言おうとしたが、彼女はちっちっちと指を振った。既視感と共に強烈なDNAを感じさせる仕草だった。
「私が今まで彼氏ができなかった理由、それは明確なビジョンがなかったからなんだよ!」
「「……」」
「おおー」
沈黙する私と冴ちゃん、美伽梨はぼけーっとぱちぱち手を叩いている。
「一応聞くけどちー、明確なビジョンって言うのは?」
「今まで私に彼氏ができなかった理由!それは理想ばっかり追いかけて現実的な考え方が出来てなかったから。どういう人が好みかをちゃんと自己分析出来ていない人が彼氏だなんて100年早い!」
「はぁ、なるほど……」
大方どこかのネット記事でも見たのだろう、相変わらず影響されやすい子だ。
まあでもこちらに危害が来ることは無い、このまま適当に喋らせておけばいいか……。
「それで、みんなの理想のタイプを聞いていきたいと思うんだけど!」
「ぶふぉ」
予想外の所からナイフが飛んできて、反射的に口に含んでいたお茶を吹き出しそうになるがすんでのところでせき止めた。
だが、無理に我慢したせいでお茶が変なところに入ってしまい、私はむせこむこととなった。
「どうしたのヒメ?なんかあった?」
「いや、千波が突然変なこと言いだすもんだからびっくりして……」
冴ちゃんが背中をさすってくれるので、大丈夫とジェスチャーで示す。
「そうだぞちー、突然何を言い出すかと思えば。昼間っから何言ってるんだ」
「いやいや、私は考えたわけよ。私に彼氏ができないのは彼氏に求める条件がないから。じゃあ皆がどんなタイプが好みなのか聞いて、サンプルを取らせてもらおうと思ってね?」
「ちょっと、サンプルってそんな言い方ひどくない?」
「そうだぞちー、妃花みたいな純朴な奴にそんなこと聞いてやるな……」
その瞬間、千波を責めていたはずの冴ちゃんは、ゆっくりとこちらを向いた。
ぞわりと嫌な予感が背中を駆け上がる中、冴ちゃんは口の端をにやりと大きく上げた。
「いや、案外それも面白いかもしれないな……」
「ちょっと冴ちゃん!?」
「いいねそれ、私もちょっと気になるな、ミカリンはどうだ?」
「YES 、めちゃモテ」
「ミカリンまで……」
おー、とばかりに腕を高く突き上げる美伽梨、完全に3対1の構図が出来上がってしまった。別に千波以外の人間は特に彼氏が欲しいとか言ってるところを見たことは無いから、ただ面白がっているだけなんだろう。
私も諦めて話に乗っかることにする。
「で?千波のタイプってどういう人なの?」
「え?まず私から?」
「そりゃそうでしょ、言い出しっぺなんだから」
「まあ、そうだよね……」
あんなことを言いつつ特にそれ以上のことは考えていなかったらしい千波は、顎に手を当てて考える様子を見せる。
「まあ、先ず第一ある程度が体が良くないと困るよね。ゲームばっかりやっててひょろひょろとかはヤダね」
「ほうほう」
「それと私が結構おしゃべり好きだから、友達は多い人の方がいいな。クラスでも友達がいないとかは正直論外!」
「……うん」
話を聞きつつ、私たちは段々嫌な予感がしてくる。
「後はプロレス!今はそうじゃ無くても、これから好きになってくれるでもいいと思うよ?だから既にプロレスには興味が無くて格ゲー好き止まりとかはまずありえないね!」
「そ、っかぁ……」
初めは調子よく聞いていた私たちだったが、ゆっくりと顔を見合わせる。なぜだろう、彼女が話せば話す程、恐らく私たちの頭には彼の影がちらついていた。
そんな私たちの考えを知ってか知らずか、とどめだと言わんばかりに千波は締めの言葉を放った。
「だから、お兄ちゃんみたいな人とは反対の人が良いかな!」
「「「……はぁ」」」
「なぜため息っ!?」
顔をあわせて揃えてため息をつく私たちに、千波は心外だと言わんばかりのツッコミを入れた。
だってもう……ねえ?
私が何と声を掛ければいいか迷っていたら、冴ちゃんがぽんと千波の肩を叩いた。
「千波、アンタ自己分析向いてないよ」
「なんでよ!これ以上ない位完璧な自己分析だったでしょ!」
まあ、ある意味完璧な自己分析だったかもしれないけど……
「語るに落ちてるね」
ぽそっと美伽梨がつぶやいた言葉が、この状況を何よりも雄弁に表していた。
むきになった千波はこちらをきっと睨みつけてくる。
「じゃあ、ヒメちゃんはどうなんだよ!」
「えっ!私?」
思わぬ矛先にびっくりする。
「いや、振るんだったら散々煽った冴ちゃんとかにしようよ、私は特に話すようなことも無いし……」
もごもごとした喋りになるのを自覚しながら、さらっと他の人にターゲットが移らないか試みる。
だが、千波は私に視線を合わせたままスーッと目を細める。
「最近のヒメちゃん、何かあやしいんだよね。こんな風にお昼誘おうと思っても気づいたらどっか行ってて、しかも探しても見つからないし」
「いや、それは……」
おそらく先輩と定期的に行われている感想戦の話をしているのだろう。
適当に理由を付けたり付けなかったりしてなんとか言い逃れしているつもりだったが、まさか探されていたとは……。
正直に「あなたのお兄さんと一緒に非常階段でご飯食べてます」なんてことは言えない。言ったら最後、その時は先輩にも迷惑が掛かってしまう。
第一私と先輩はそういう関係ではない。だが、そう説明しても彼女たちは理解してくれないだろう。
言葉に詰まる私を見ながら、千波はふっと優しく笑った。
「ま、その辺は不問にしてあげる。ヒメちゃんにもプライベートってものがあるもんね」
「ち、千波……」
想定よりずっと優しい千波の言葉に縋りそうになる。ああ、やっぱり千波はいい友達だ……
「まあ、問い詰められたくなければ理想のタイプ位は言ってもらおうか?」
「……はい」
前言撤回。このねちっこさ、やっぱり先輩のDNAだ。
一瞬でもほだされた私が馬鹿だった。
顔を上げると、キラキラとした6つの瞳。完全に逃さないという
「……別に大した話はしないよ?」
「いいのいいの、ヒメちゃんからこの手の話が聞けるだけで貴重だから!」
「そうね……」
こうなってしまった以上仕方がない。適当にそれっぽい事を話せば彼女たちも満足してくれるだろう……。
「まず趣味が合う人がいいね。何かを一緒になって楽しんでくれる人とか。それに、その趣味に全力であればあるほどいいかな。頑張ってる人が横にいてくれたら、自分もモチベーション上がってくるし。まあ、正直友達とかはどっちでもいいかな。私にちゃんとかまってくれれば何でもいいから……って、何その顔」
ふとかしまし3人娘のリアクションを確認すると、3人そろって頬を赤らめて引きつった笑顔を浮かべていた。
3人で顔を見合わせるようにしてから、代表で話すように冴ちゃんが口を開いた。
「いや、妙にリアルって言うか……生々しくてこっちが照れるって言うか……」
「ちょっと、生々しいとか言わないでよ」
「すごいね妃花は、話を聞いてるだけなのにこっちが照れてきた」
「美伽梨まで……」
いつも無表情な美伽梨まで頬を染めている始末。別に大した話をしたつもりはないのに……。
その間、ずっと無言の千波に顔を向けると、彼女はすっとこちらを向いた。
「ごめんね妃花、私。調子に乗って好きなタイプとか言ってバカみたい……」
「さーっ!みんなで楽しくご飯にしよう!私お腹すいちゃった!」
なんだか変な空気になりつつあるクラスメートを声で制しつつ、私は弁当の包みを平開いた。皆思う所はあるのだろうが、空腹なのは同じ。納得してやっとの昼食タイムへと本格的に移る……。
「あれ?」
かと思いきや、千波の声で手が止まる。
「どうしたの千波?」
「いや、このお弁当箱、私のじゃない……」
「え?」
千波の言葉に皆が困惑している最中、千波の携帯が震えた。
何となく既視感を感じつついると、彼女はすぐに電話に出た。
そして千波は弁当箱を持ったまま颯爽と教室を出ていった。
千波の行く先を覗いたとき、私はその姿を確認した。
「!?」
そこには、千波と楽しそうに話す先輩の姿があった。私の据わっている位置関係から、彼らの様子ははっきりと見えた。
多分弁当の取り違えが起きて、先輩が千波の弁当を持って来て教室の前で連絡したのだろう。
(……なんか、新鮮だな)
兄妹だから当然なのだが、先輩が学校で誰かと話しているのを見るのは初めてだった。会話の内容は聞き取れないが、先輩が文句を言って、千波がバツが悪そうに笑っていた。
その姿をずっと見ていると胸がちくりと疼いて、私はすぐに弁当箱に目を移す。今日は卵焼きは入っていない。
「ごめんごめん、朝急いでたらお弁当取り違えちゃったみたいでさ」
千波は程なく戻ってきた。改めてクラスの外を眺めるも、そこにさっきまでの姿は見えない。
「千波は相変わらずおっちょこちょいだな」
「えへへ、お兄ちゃんにも同じこと言われた」
彼女達が会話に乗じているのをいいことに、私はラインを開く。
妹の弁当を渡しに来たとは言え、折角知り合いのいる教室まで来たんだ。声を掛けるまではしなくても、何か知らせてくれたらいいのに……
<ここまで来たのに挨拶もしないとはどういう了見ですか>
気持ちの赴くがままに軽く文句を言うラインを送る。
すると想像以上に気持ちがすっきりしていくのを感じる。
「ふふふっ」
直ぐに既読が付いた。先輩の困った表情を想像すると、ついつい笑顔がこぼれる。
「ヒメちゃんって、付き合ったら絶対めんどくさいよね……」
「うん、私にかまってくれたらいいとか言ってたけど、あれは束縛強いタイプだな……」
「見かけによらず重い女……」
スマホを見ながら横でかしまし娘たちが何か言っているようだったが、私の耳には届かなかった。
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