第2話 魔物討伐
御前試合を言い渡された翌日。
騎馬部隊の詰め所で事務作業をしていたクレイスの元に、魔物討伐の任務が下った。
第二騎士団は王領に出没する魔物の討伐が、その主たる任務だった。
その任務に当たるのは、騎馬部隊と飛竜部隊だ。そして出没した魔物の数や場所によって編成が柔軟に変わる。
今回の出撃も、王都に繋がる主要街道沿いの森林で発生した魔樹の伐採ということで、機動力の高い飛竜部隊と小回りが効く騎馬部隊の混成部隊が出撃となった。
騎馬部隊の班長であるクレイスは、甲冑のベルトを確認してから愛馬に跨がり、班員三人と共に街道を走った。
その頭上を、騎士を乗せた飛竜が一匹飛んでいく。やはり空を飛べるのは、馬を駆るよりも早い。機動力という点においては、騎馬は飛竜よりも劣る。
悔しい気持ちを殺しながら、クレイスは馬を駆る。
街道を半日ほど駆けた頃、街道から外れた森林の上空で飛竜が旋回をしていた。
その鞍に騎士の姿が無い。
主を失った飛竜が、どうしたらよいか分からずただ闇雲に上空を旋回している姿を見て、クレイスは後ろを走っていた仲間に合図をする。
「何か異常があったようだ。飛竜しかいない」
「あの下か。魔樹の報告があった場所とも一致するな」
「急ぐぞ」
「おう」
街道から逸れ、森林の中に騎乗したまま突っ込んでいく。時折頭上を見上げ、飛竜が旋回する場所を確認しながら進めば、ボキバキと樹がなぎ倒される音がした。
音のする方へ手綱を引き、脚で指示を出す。
愛馬はすぐさま向きを変え、音の鳴る方へ駆けていった。
ボキバキボキ!
樹がなぎ倒される音と地響きが続き、クレイスはついに馬を止める。
何事かと周囲を見回せば、鞭のようにしなる枝を振り回し、巨大な魔樹が近くの樹を投げ倒している姿が見えた。
クレイスは腰にぶら下げていたポケットを探る。魔樹討伐に必要なアイテムがそこにはあった。その数を確認する。
「あそこだ! 騎士が倒れてる!」
「子供も居るぞ」
仲間が指さす方向を見やれば、飛竜部隊の騎士がこちらに背中を向け、地面に倒れていた。
その騎士の側には幼い少年が涙を零しながら、騎士にすがりついていた。
「騎士様、起きて! 起きて!」
クレイスはすぐさま馬から下り、走り出した。
魔樹がそのしなる枝を、騎士に向けているのが見えたからだ。
「うおおぉおおおおお!」
剣を抜き、魔樹と騎士の間に割り込む。僅差で枝を剣で弾くことが出来た。
「おい、大丈夫か」
クレイスが倒れている騎士に声をかける。その騎士――アーティの側頭部は赤く血塗れていた。
「アーティ!」
かなりの出血のように見える。少年がクレイスを見上げ、泣きながら訴えた。
「騎士様、僕を庇って、あの樹にやられちゃったの」
「もう大丈夫だ。安心しろ」
「………………クレイス…………」
アーティの意識が戻った。起き上がろうとする彼を制止し、こめかみから流れる血に手を当てる。
「出血が酷い。あとは俺に任せろ」
「すまない…………」
「感謝は不要だ」
仲間が追いつき、倒れたアーティと少年を引っ張り出す。魔樹から距離を取り、馬の背に彼らを乗せた。
「俺はこいつらを避難させてくる」
「頼む」
仲間の一人が馬を引きながら、街道の方へ戻っていった。
残された三人で、この魔樹の討伐を行わなければならない。
「ここまで魔樹が活発に動くなんて、報告には無かったぞ。ここで仕留めないと、街道に出たら被害が大きくなる」
「あぁ、そうだな」
「来る! いくぞ」
三人は剣を構えた。
魔物を倒すためには、その核となる場所を見つけ破壊しなければならない。魔樹の場合、硬い幹に覆われた場所にあることが多い。
二人が枝を払いながら駆け寄る。クレイスは剣をその場に置き、走り始めた。二人が襲いかかる枝をいくらか払ってくれたお陰で、幹までたどり着く。そのまま幹を駆け上り、大きく二股に分かれている箇所まで登り切った。
「魔樹にはこれだろ!」
腰にぶら下げた皮のポシェットから小瓶を取り出し、蓋を片手で開けて魔樹に振りかける。
そして火の魔石を取り出し、樹皮に勢いよく擦りつけた。生じた熱によって、火の魔石から炎が吹き出し、小瓶から振りかけた液体に着火する。
炎が魔樹の枝に燃え移る。
グォオォアオアオオアオアオアオオ!
魔樹が雄叫びを上げた。
クレイスはすぐさま魔樹から飛び降り、地面を転がる。置いた剣を素早く回収し、構える。
魔樹が四方八方に枝を伸ばし、のたうち回っていた。
次第に枝が燃えつき、幹だけになる。
魔樹の動きも鈍くなり、黒焦げになった姿で火が尽きる。
動かなくなったことを確認して、三人は魔樹に近づいた。
いくら動かなくなったとはいえ、核を潰さなければいつ再生するか分からない。
核を潰してまでが任務となるのだ。
クレイスは幹に寄ると黒く焦げた樹皮を剥いだ。
剥いだ樹皮の中から核が現れた。丸く赤い球体のそれは、心臓のように脈打っていた。
「これで終わりだ」
クレイスが剣を構えたその時――核から枝が一本突き出てクレイスの心臓に突き刺さった。
その枝はクレイスの甲冑を割り、鎖帷子をねじあけ、皮膚にまで到達した。
しまった。
そう思ったときにはもう遅く、心臓に酷い痛みが襲い、意識が吹っ飛んだのだった。
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