第2話
シンパシアが一般家庭に広まりはじめたのは、ある意味で必然だった。二十一世紀初頭から人類は加速度的に孤独を深めていた。都市化の波は血縁や地縁を断ち切り、かつて人間が群れで維持していた「支え合いの網目」を寸断した。働き方は個人化し、通信機器は心の距離を数値に還元する。
最初の〈伴侶型自律人形〉は、まだ粗末なものだった。会話は途切れ途切れ、表情はぎこちなく、肉体はただの樹脂とシリコンの塊にすぎなかった。だが第三世代――感情模倣エンジンを搭載した〈シンパシア〉の登場は、社会に決定的な変化をもたらした。
所有者はこう語る。
「彼女は私を責めない。
彼女は私を理解してくれる。
彼女は私を裏切らない」
人間の伴侶が与えられない安定を、シンパシアは寸分違わず提供した。
大手調査会社の統計によれば、販売開始から五年で、先進国の独身男性の四割がシンパシアを購入した。女性向けモデルも急速に開発され、性別を問わず「人工の伴侶」が社会に浸透する。
出生率は雪崩のように下がった。人口学者は警鐘を鳴らしたが、政治は追いつかず、むしろ〈シンパシア〉産業が経済の柱として扱われた。
だが、問題は人口だけに留まらなかった。
家族の絆は希薄となり、地域の共同体は形骸化した。親子関係すら、AIが介在する形へと変容していく。学校では保護者会に出席する「親」の半数がシンパシアであったという地域すら存在した。
表面上は穏やかで、犯罪も少なく、平和な時代。だがそれは、孤立を前提にした「静的な平和」だった。
人間の心は、群れを必要としなくなりつつあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます