第17話:適性_2
「おお、やってるな」
「アレフさん!」
一番最初に気付いたのはトウヤだった。
「パスコは注射が嫌いなんだな。あー! とかギャー! とか聞こえたが、ありゃお前の声だろ?」
「うっ、バレてしまった……」
「みんな苦手なもんの一つや二つくらいあるだろ。気にすんな。……まぁ、これからは嫌でも付き合わないとダメだけどな」
「が、頑張ります……」
「今日はシードの適性確認するって話だったからな。気になって来てみたんだ」
「あの、怪我はもう大丈夫なんですか?」
「あー、これか?」
トウヤの問いにアレフは右腕を上にあげて見せた。二の腕が全体的に包帯で巻かれている。中がどうなっているのかはわからない。
「動くから大丈夫だろ。別に指先も問題なく動かせるし、これくらいなら全然……」
「アレフ、もう治ったのかい?」
「まーな、アリ……っ、てぇ!!」
「なんだい、やせ我慢じゃないか!」
「急に触ったらビックリするんだよ!」
アリスがアレフの腕をポンと軽くグーで殴ってみると、彼は身体を引いてアリスに怒った。
「はいはい、無理するんじゃないよ。定期検診は終わったんだから、アンタが出なくたって、他の子たちが出られるんだから」
「……そうだよ? ワタシがいるじゃん?」
「げっ、マチルダ……」
アレフの後ろからひょこっと顔を出したのは、妖艶な女性だった。黒いエナメルのロングブーツに、背中の大きくあいたロングニットが良く似合っている。ダークレッドの髪の毛は長いからかアップにしていて、ふんわりとおくれ毛の残るうなじから、背中にかけて健康的に焼けた肌が眩しかった。
「はぁい! みんな初めまして! アレフと同じパイロットのマチルダだよ! キミたちの先輩ね? よろしく! ……あぁ、いいよいいよ座ってて。採血したんでしょ? シードも飲んでるわけだし、おとなしくしててよ。ねぇ?」
「急に来たらそりゃみんな席を立つだろ……」
「それはアナタも同じでしょ? トウヤなんか超ピッシリ立ってるじゃん」
「……トウヤ、座ってくれ」
「は、はい!」
「おいパスコ、お前は見過ぎだ」
「えっ、あっ、ごめんなさい!」
「だいたいお前、そんな格好で来るなよ」
「何着たっていいでしょ? ワタシなら何でも似合うし?」
「子どもの目に毒なんだよ……」
「言うほど子どもいないでしょ?」
「そこの十歳コンビ忘れるな……」
「あっ」
十歳コンビと呼ばれたのは、シシィとマイロのエイマーズ姉弟だ。二人ともまだ十歳という年齢だが、適性からパイロット候補に選ばれた。比較的低年齢な双子なだけあって、性別は違うが見た目はよく似ている。弟のマイロよりも姉のシシィのほうが勝気な性格で、優柔不断な弟をよく先導していた。今はシシィが女性用の制服を着ていて、髪の毛を二つ結びにしているから見分けもつくが、二人が同じ制服を着て髪を下ろすと驚くほど見分けがつきにくい。知らない人や普段会わない人が見たらまず判別は無理で、よく知っている人でも二人がお互いを徹底的に真似すれば、どちらがどちらか判別できないほどよく似ていた。
「マチルダさんのその格好、めちゃくちゃ似合うと思うの! ね? マイロ?」
「う、う、うん」
目をキラキラさせて姉はアマンダを見ていたが、弟は反対に顔を赤くして見ないように俯いていた。
「あらありがと。……うふふ、どっちも可愛いわねぇ」
「おい待て十歳だぞ? ちゃんと弁えろ」
「もーわかってるってばぁ」
「コイツ守備範囲が広いからな、各々気を付けるように! 行くぞ!」
「え? まだみんなの結果見てないのに?」
「お前がいたら気になって仕方がないだろ!」
「気になる? あ、もしかしてアレフがワタシのこと気になっちゃう?」
「頼むから黙っててくれ……」
「あー! まだ全然お喋りできてないのにー!」
「邪魔したな! 結果はまた教えてくれ!」
「ちょっと!? また! また! お話ししましょうねー!?」
「早くいくぞ!!」
アレフがアマンダをズルズルと引っ張っていく。まるで嵐のようだと、残された人間はみなそう思った。
「……ええっと、あの方がパイロット二人目のマチルダさんです。今パイロットは全部で四人、残りは男性二人ですね。ザックさんとキリィさんです。またお会いするタイミングはあると思いますので。今はシードの適性に目を向けましょう」
「最初にやったモカの分はもう出てるよ。精度も上がったし、結果が出るまでも早くなったよね。後ろのほうにやった子らはもう少しかな。この結果はデータベースに残るし、職員やパイロットなんかの、みんなと関係する人は自由にみられるし共有される。身体に合わないシードを使わせてはいけないからね」
「その、身体に合わないシード……って、本当に使い続けると身体によくないのか? みんなそう言ってるし、教科書にも載ってたけどあんまり実感が湧かないっていうか。シードそのもののが異物って感じがして、むしろ全体的に良くないんじゃないか……って思っちゃうんだけど」
「パスコの言うこともわかるわ。じゃあちょっと、全員分の検査結果が出るまでお話ししましょうか。シードについて」
「やった! 何事も知っておいて損はないもんな! 言ってみるもんだぜ」
「それには同感よ。私が候補生たちに授業することも恐らくないし、貴重な機会よ? しっかり聞いてちょうだい」
「エイナちゃん、どうしましょう……?」
「ルリから伝えておいて? 他の子でもいいけれど。昨日の検査後にザックリ話はしてあるから、大丈夫だとは思うけどね」
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